009:女護衛戦闘士アイミア
「我々は守護聖都から来た調査隊だ。君は誰だ?」
こちらに人がいるのはバレているので、プリンスが返事をした。
「調査隊ですって?」
ドアが大きく押し開かれ、影がホールの床に伸びた。すらりと背が高く、豊かな黒髪を高い位置で一つに結び、左肩に長く垂らしている。頭の骨格は繊細で、真っ赤なサングラス、深紅色のルージュを引いた唇、真紅のガードベストの胸は豊かに盛り上がっていた。アイテム付きのベルトに膝までカバーするブーツ、両手首には腕輪型のセンサー。袖のない剥き出しの二の腕は、よく鍛えられた筋肉で引き締まっている。
「女性の護衛戦闘士って珍しいわよね?」
ユニスは晶斗を見た。
「都会では少ないかもな。遺跡地帯ならけっこう見かけるぜ」
女性は、三人を視界に収めると、ゆっくりと入ってきた。
「わたしは守護聖都フェルゴモールの護衛戦闘士で……」
彼女は、はた、と止まった。プリンスを見ているらしい。プリンスはいつもの華麗な略礼装とは違う近衛騎士団の白い戦闘服姿だが、シャールーン帝国人なら見間違えることはない。
「プリンス!? い、いえ、そこにいらっしゃるのは、帝国宰相閣下、セプティリオン大公殿下ではありませんの?」
彼女は突然、シャールーン帝国の貴族階級で使われているイントネーションで喋り出した。語尾は震え、顔色まで変わっている。プリンスの正体など顔を見れば一目瞭然、帝国宰相閣下がこんな所にいたのが、よほどショックだったらしい。
「そうだが、君は何しにここへ来た?」
プリンスはいささかキツい口調で詰問した。ユニスは、ギョッとしてプリンスの横顔を見つめた。こんな厳しい口調のプリンスを見たのは、初めてだ。
「わたくしはアイミア・リフレートと申します。わたくしも調査のために来たのですわ、宰相閣下」
アイミアはサングラスをはずした。年の頃は二十代後半、黒髪に縁取られた卵形の顔は貴族の令嬢でも通りそうなくらい整っている。女性ながら涼しい目元の持ち主だ。生き生きとした黒い瞳は意思の強さが感じられる。優雅なドレスよりもガードベストの方が似合う、希有な美女。
「わたくし、人を捜しておりますの。この辺りで行方不明になった、三人のシェイナーを。正式な捜索依頼を受けて参りました」
「ここは政府の管理する地域だ。ここに来るまでの道路は軍が封鎖しているし、民間人は立ち入り禁止だ。君に依頼したのは誰か?」
「……それは」
アイミアの口が重くなる。彼女とてプロの護衛戦闘士、依頼人の秘密を守るのも仕事だ。しかし、ためらいは長くはなかった。
「その理律省ですわ、閣下。シェイナーの統括部からの、極秘の依頼でしたの。どうして閣下がご存知ありませんの?」
アイミアは困惑しているようだ。理律省のボスはプリンスだ。そして、この建物はプリンスのプロジェクトで、今も仕事でここにいる。
ユニスと晶斗は顔を見合わせた。
「では、アイミア、私から改めて、この付近での捜索活動を許可しよう。ただし、この施設にいる間は、私の指示に従いたまえ」
プリンスの指令に、腑に落ちぬ表情をしながらもアイミアは頷いた。
「ええ、もともと理律省絡みの依頼ですし、問題はありませんわ。でも、どうして?」
「外へ出たまえ。私たちも出る。シリウス、彼女を見張れ。ユニスは私の側に」
「まさか、東邦郡の護衛戦闘士シリウス? ユニスというと、あの冷凍少女の?」
アイミアの驚きようはプリンスの存在を認めた時より激しかった。
「有名な冷凍少女で悪かったわねッ!」
ユニスはプリンスの左腕にパッとひっついた。プリンスは特に反応しなかったが、アイミアは顔面をヒクリと痙攣させた。
「ちょっと、あなた、何を閣下にくっついているの。身の程をわきまえなさい!」
「いやですよーだッ。わたしだってプリンスファンだもの。今後はお見知りおきくださいな、おねえさま」
ユニスがあっかんべーをしたら、アイミアは絶句したようだ。
プリンスはユニスを左腕にひっつけたまま、傍観している。
「プリンスファンってのが俺にはよくわからんが、よろしく頼むぜ、アイミアさん」
晶斗はチラリとユニスを見た。ユニスは黙って視線を逸らせた。
「こちらこそ。アイミアでけっこうよ」
アイミアは、すっかり毒気を抜かれたのか、晶斗と一緒に外へ出た。
空は灰色の雲で覆われている。今にも雨が降りそうだ。
プリンスは、小型の通信機で最寄りの基地へ連絡した。
「予定変更です。守護聖都で、強盗団に関する捜査の進展があったようです。一時間で迎えの飛空艇が到着しますから、戻りましょう」




