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008:乙女の秘密は

「七星華乙女会は基本的にボランティア活動ですから、ユニスには通常、理律省から冷凍少女(フリーザーガール)専門の調査員、通称・ユニス番をつけてあります。国内のシェイナーの管理は理律省の管轄なのでね。国内の治安維持も、最終的には私の責任になりますから、ユニスの監視は外せません。今は私が側にいるので、七星華乙女会も理律省からの監視員も休暇を取らせているだけです」

 プリンスはユニスの背中をポンと叩き、廊下を戻って行く。

「さすがは宰相閣下だ。帝国内の危険人物の管理は万全なんだな」

 いかにも愉快げな晶斗の感想に、ユニスは気分を逆なでされた。晶斗に並んで歩きながら、ユニスは、キッと睨みつけた。

「子どもの頃、国どころか大陸中に指名手配された経験のある東邦郡(オリエント)野生児(ワイルドボーイ)には言われたくないわ。大騒ぎされた規模では、わたしといい勝負じゃない」

 晶斗は冷えきった眼差しでユニスを見下ろした。どうやら突かれたくないツボだったようだ。

「ほう、よく調べたな。あの記録は公式には抹消(まっしょう)済みのはずだが?」

「どういうわけか、晶斗・ヘルクレストの詳しい履歴ファイルが家に送られてきたのよ。好奇心に負けて、つい読んでしまったの。子供の頃、お父さんとケンカして家を飛び出して、一年五ヶ月もの間、近所の山で本格的アウトドア派な生活をしすぎて、ほとんど野生化して、新種の類人猿と間違えられたこともあったとか。付いたアダ名が野生児(ワイルドボーイ)、お父さんとの勝負に負けて、ゴリラ用の罠でまんまと捕獲されたそうね。なかなか興味深い内容だったわ」

 履歴ファイルの送り主はわかっている。プリンスだ。ユニスと晶斗を遺跡研究の探索仲間にしたいらしく、機会あるごとに何かとちょっかいをかけてくる。晶斗もそれは知っている。

 晶斗がシブい表情になったので、ユニスはほくそ笑んだ。が、あることに思い至り、気分がたちまち重くなる。

「もしかしなくても、晶斗の処にもわたしのファイルが送られてきた?」

 ユニスから、晶斗はサッと目を逸らした。あ、やっぱり送られてきたんだ。この様子だとかなりディープなやつそう……。

「あー、うん。俺の所には冷凍少女の詳しい成長記録が来たよ。ご丁寧にも俺たちが出会った半年前の詳細な調査記録が付いてたな」

 晶斗の声は沈みがちになった。

「悪いが、気になって、読んじまった。ユニスも子供の頃から苦労してたんだよな。お互いに、個人情報(プライバシー)を侵害された度合いは同じくらいか」

 晶斗に謝られた! どんな内容だったかを披露しない分だけ、晶斗の方がユニスより大人だ。ユニスは一気に落ち込んだ。これも全部プリンスが悪い。

「そうね。いつか個人情報漏洩で訴えたくなったら、理律省相手に共闘でもする?」

「やめておこうぜ、理律省のトップはプリンスだろ。あいつには隙なんか一ミリも無いと思う。帝国相手に裁判を起こしても、判決前に人知れず抹殺される方が可能性として高そうだ」

「……わたしも、そう思うわ」

 さすがは晶斗、東邦郡人ながら、いい読みをしている。晶斗とならこの先も一緒に遺跡探索をしてもうまくやっていけそうだと、ユニスは思った。


 二人で玄関フロアに戻ると、大陸一優秀と名高きシャールーン帝国諜報部をこき使い、人権侵害はどこ吹く風で詳細な個人情報ファイルを作成させた宰相閣下プリンスは、いつものように平然と取り澄ましていた。プリンスの耳は優れたシェイナーの地獄耳、ユニスと晶斗の会話が聞こえていないはずはないのだが。

 

「さて、建物の中を一巡りしたら、最寄りの基地に定時連絡をしますか」

 正面玄関へ、目を向けた。

 晶斗は左手首の腕輪型センサーに目を落とした。

 ユニスはプリンスと晶斗を見た。

 

「お客さんだ。建物の北側に一人」

「女の人ね」

「シェイナーです。道に迷ったただのハンターではなさそうですね」

 気配に気付いたのは、三人とも、ほぼ同時。

 三人が(とら)えた情報を補足しあい、三人で個々に共有する。

「こっちへ来るぜ」

 晶斗が声を殺して言い終えると、入り口のドアが少し開いた。

「誰か……いるのか?」

 少しハスキーな高い声がした。


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