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ルーンゴーストⅡ『コルセニーの紋章』  作者: ゆめあき千路


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068:銀の護符は闇に隠された秘密を語る⑥

 ユニスは護符の記憶を読み終えた。

「わたしの写真がコルセニーの使徒に流出したのは、アイミアさんのミスじゃなかったのね」

 ユニスは護符を強く握った。護符は粉粉に砕けた。銀色の細かな(ちり)となって掌に貼り付く。ユニスは、両手を軽く打ち合わせて、銀の粉を払い落とした。

「コルセニーの使徒と繋がっていたのは、七星華乙女会の誰なの?」

 古代理紋を複製できるシェイナーは少ないが、探せば見つかる。

 それだけ強い能力者なら、プリンスと理律省が知らないはずがない。たとえユニスのように宮仕えを拒否して市井にいようと、理律省によって何らかの監視が付けられているはずだ。プリンスがこの件に関して、手掛かりを持っていないなど、あり得ない。

「七星華乙女会の上層部にいる誰かです」

 プリンスは断定した。

「トップクラスの、最古参の七人じゃないわね?」

 七星華乙女会が正式に発足したのは十年前。アイミアが初代会長だ。創立時からの幹部はユニスも面識がある。幹部はその全員が、血族を辿ればどこかで縁戚関係にある大貴族の家系だ。実力でそのトップに君臨するアイミアの血統は、プリンスともそう遠くないと聞いている。

「アイミア達は私を裏切りませんよ。しかし、七星華乙女会は数年前から、幹部の後任を育成するため、新規の会員を受け入れ始めました。人選は慎重に行ってきましたが、許容範囲が広がれば、目の届きにくいところも出てきます。アイミアは、今、それを調べています」

 プリンスのことだから、新規会員への調査は、最初の選定時から徹底して行われたはずだ。

 幹部クラスのメンバーになるには規定がある。

 絶対条件として、守護聖都の貴族や大政治家など、名門家系に限定される。そうでなければ高額な入会金と会費が払えない。入会に際しては確かな筋からの紹介も必要だ。その身元は徹底した調査が行われる。

 シャールーン帝国は、広大な領土分だけ、社会情勢や政治的問題も複雑だ。個人がプリンスのファンでも、その背後にいる親兄弟・一族郎党は、プリンスの政敵という可能性もある。

 シャールーン帝国宰相閣下であるプリンスが、貴族間の政治絡みの問題を考えないわけがない。七星華乙女会内部の微妙な力関係まで把握しているはずだ。

「それで明日、アイミアさんは何をするつもりなの?」

ユニスは単刀直入に訊ねた。この分だと、ユニスにだけ知らされていないことがいろいろありそうだ。

「年に一度、幹部クラスが一同に集う大会議があります。貴女は気にしなくてもいいですよ。これは私とアイミア達の問題ですから」

 そういう集まりがあるのはユニスも知っている。守護聖都フェルゴモールの一流ホテルの特別室を借りて行われる決算報告会だ。ユニスの監視やプリンスの指令による隠密調査活動など、国家の機密事項に関わる報告もされるため、安全を計って開催日は一週間前まで通知されない。ユニスはアイミアから何度も招待されていたが、一度も行ったことは無かった。

「そうは言っても、七星華乙女会とは付き合いが長いもの。わたしも最後まで見届けたいわ」

 ユニスはプリンスを見上げた。

 プリンスはユニスを見返している。その表情は美しい彫像のように完璧なシンメトリーを成していた。

 ユニスは息を詰め、プリンスの言葉を待った。緊張がどんどん高まってくる。普通に呼吸しているのが苦しくなる。

 七星華乙女会に部外者は関わるな、ということかしら。

 付き合いは長いが所詮ユニスは監視対象の身、正式な会員ですらない。

 アイミアに何度も勧誘されたのに、断り続けたのは、ユニスだ。

 わざと一民間人に留まっているユニスを今回だけは特別扱いして欲しいなんて、わがままを言っている自覚はある。

 ユニスは冷酷に断られるのを覚悟した。

 警察官がプリンスを、いや、魔物狩人バシルを呼んだ。

 プリンスの強い視線が、フッと緩んだ。

「参加できるように、手配しましょう」

 プリンスはユニスから離れていった。

  ユニスは肩の力が抜けた。いつもながら、プリンスが何を考えているのかは、さっぱりわからない。しかし、これで、問題の核心がある七星華乙女会本部へ、ユニス自身が乗り込める。

 ユニスは大きく深呼吸してから、晶斗の側に戻った。




「明日、出かけるのか」

 街灯に照らされる石畳の道を歩きながら、晶斗がのんびりと訊ねてきた。

「ええ、七星華乙女会の会合に行くのよ。話が聞こえていた?」

「まあな。エスコートは、必要か?」

 晶斗がいてくれたら心強い。だが、ユニスは嬉しい気持ちを押さえた。

「七星華乙女会は、男子禁制なの。プリンス以外はホテルの男性従業員も入れないわ。アイミアさんの話では警備は厳重で、会合中はシェインの結界を何重にも張ってあるんですって。プリンスを護る近衛騎士団の女性版みたいなところらしいわ」

 ユニスは肩を竦めた。

 七星華乙女会に入れるのは女性だけだ。アイミア達のような幹部クラスの会員になるには絶対条件として家柄の他に、強力なシェインの才能をも求められる。それが、アイミアが庶民のユニスをしつこく勧誘する理由だ。

「アイミアさんは護衛戦闘士だし、他の幹部も軍人だったり、本職の巫女さんまでいるらしいわ。だから、会合場所では、わたしは安全よ。それに、七星華乙女会には、わたしを監視し続ける義務があるの。その指示は、プリンスにしか解除できないわ。七星華乙女会で、プリンスに逆らう人なんていないんだから」

 説明したユニスを、晶斗はじっと見つめている。ユニスは晶斗の黒い瞳を覗き返した。真摯な眼差しだ。心配されているのが伝わってくる。心臓がドキドキした。

「わかった、俺は街で待ってる」

 ユニスが家に入るのを、晶斗は見届けている。

 玄関ドアにしっかり鍵を掛け、玄関横の窓から、ユニスは手を振った。安全確認の念押しに晶斗にそうしろと言われたのだ。

 晶斗が夜明けの街へ戻って行く。その後ろ姿が見えなくなるまで、ユニスは窓辺で見送っていた。


 会合までは、まだ時間がある。ユニスは一眠りした。

 体力もシェインも万全の状態に整えておく。これから赴く場所では、わずかな隙も命取りだ。

 この時間軸における古代理紋絡みの問題は、解決していないのだから。


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