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ルーンゴーストⅡ『コルセニーの紋章』  作者: ゆめあき千路


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067:銀の護符は闇に隠された秘密を語る⑤

 ユニスは、右手の銀の護符を見下ろした。

 脳裡で展開する映像が、一瞬、ブレた。アイミアは、ユニスの写真を見て驚いたのだ。これはアイミアの目線で捉えた映像だ。

首領の手にある写真に、アイミアは戦慄した。

「アンタにはこの写真の女の子を連れてきて欲しい。守護聖都に住んでいるから、拉致しやすいだろう」

 同じ写真が、今月のユニスの監視報告と共に七星華乙女会会長アイミアの手元に届けられている。撮影したのは七星華乙女会が派遣した監視員だ。

 ユニスは、背筋がゾッとした。氷を呑み込んだみたいに鳩尾の辺りが冷える。これも護符の記憶。まさにアイミアが味わった戦慄の追体験なのだ。

「これは、あの有名な冷凍少女ね」

 写真を眺めるアイミアの脈拍は、やや早くなった。だが、表情筋は微動だにさせなかった。

「さすが、よく知っているな。この娘は古代理紋の力を持つシェイナーだ」

 ユニスのことを冷凍少女だと知っている人は多い。だが、ユニスのシェインが古代理紋に関係しているのを知るのは、七星華乙女会でもアイミア達幹部と、プリンスや理律省の一部だけだ。

 七星華乙女会に内通者がいる。

「帝国一の危険人物を知らなきゃ、守護聖都で仕事はできないわよ」

 緊張ではち切れそうな心臓をなだめつつ、アイミアはサラリと応えていた。

 ユニスは改めてアイミアという女性に感心した。伊達に七星華乙女会の頭をしているわけではないのだ。アイミアは実力でその位置にいる。

 さらにすごいのは、護符の記憶から読み取れる当時のアイミアの感情からは、嘘や誤魔化しのような思考の揺れがまったく感じられなかったことだった。護衛戦闘士アイミアが守護聖都で一流と呼ばれるのも伊達ではないのだ。

「でも、利用するには、この娘は有名すぎるわ。子供の頃から、歩く人間凶器とか、氷の女悪魔セビリスの再来とか言われているのよ。気に入らない人間は片っ端から氷漬けにするんですって。シャールーン帝国人なら、誰でも知っているわ。まともな思考の人間なら、間違っても手を出さないわ」

 アイミアの喋り方は軽かった。あくまでもプロの護衛戦闘士として、これからの仕事に有益なアドバイスをしている、というスタンスで(あざむ)き通すつもりだ。

 ユニスは右手の護符をじっと見つめた。なるほど、今のがわたしに対するアイミアさんの本音なのか。今後の参考のために覚えておこう……。

「はは、ちょっと協力してもらうだけだ。まあ、嫌がったところで、無理やり連れてきてもらうだけだがね」

 首領はアイミアの説得に、まったく興味を示さなかった。

 ユニスは違和感を感じた。

 この首領の言動はどこかおかしい。ユニスの誘拐にしろ、遺跡探索に関わり、古代理紋についての知識を今少し持ち合わせている者ならば、間違ってもできない提案をしている。

 こんな者達に、使える古代理紋の複製を作るような手腕があるのだろうか。

「残された問題は、コルセニーの紋章のオリジナル・パワーを使えるシェイナーが必要だということさ。紋章に秘められた力をフルコントロールできれば、大陸の形をも変えられるという、オリジナルの古代理紋だぜ。うまく使えばルーンゴースト大陸をも支配できるぞ」

 この時点で彼らの計画はすでに半ば進行していた。護符は多数の複製品が仲間に配られた後だった。

 なんと愚かな……。冷たい怒りを押さえ込んだアイミアは、微笑んだ。

 古代理紋は、かつて神々に近かったとされる古代のシェイナーが利用していたとされている。それも伝説だ。古代理紋のオリジナルなど強力すぎて、現代では神殿の最高神官さえ触ることもできないだろう。それほど危険な物体を、ただの人間が支配できようはずもない。

「その古代理紋のオリジナルはどこにあるの。実物を見せてくれれば、力になれるわよ。わたしなら、古代理紋を扱える神官クラスのシェイナーを紹介できるわ。たとえば、魔物狩人のバシルとか……」

「ほう、あいつか。確かに、そいつもいれば助かるぜ」

 アイミアが出し抜けに告げた魔物狩人バシルの名を、首領は知っていた。

 魔物狩人バシルはプリンスの変装だ。魔物狩りの達人だという話は、ユニスも聞いたことがある。ルーンゴースト大陸の闇社会では、ユニスの想像以上の有名人らしい。

「じつは、俺達が古代理紋が本物かどうかを確認させたシェイナーは、三人とも精神をやられて死んじまったんだ。護符を複製させるために使ったシェイナーは、精神状態がおかしくなっちまったしな。フェルゴウンやイーシャなど、既存の理紋とも違うことは確認した。ただ一つ、はっきりしたのは、古い創世神フェルゴウンとイーシャの神紋に似ている部分がある、未知の理紋だということだ。本当の属性が何なのかはわからないんだ」

 首領は凶悪な笑みで付け加えた。

「だから、俺達はこいつを創世の三神の一柱『コルセニー』の紋章と呼んでいるのさ。ルーンゴースト大陸の創世期に、世界を滅ぼしかけてこの世から抹消されたという伝説の、失われた神の名は、謎の古代理紋にふさわしいと思わないか」

「そうね、なかなか洒落たネーミングセンスだと思うわよ」

 アイミアの褒め言葉に気を良くしたのか、首領は上機嫌でアイミアを次の日に行われる仕事に誘った。それは彼らが使用している武器取り引きの立ち合いだった。

 アイミアは夜間から移動して、守護聖都を出たのだ。

 遺跡地帯近くの湖の側で首領と待ち合わせた。

 湖の近くに古代洞窟跡があった。そこをコルセニーの使徒が隠れ家として利用していたのは、時間軸の改変前も後も、変わらない事実だった。

 

 だが、サイメスの武器商人が来た時、アイミアが待ち合わせていたコルセニーの使徒とその首領は現れず、アイミアは潜入捜査がバレたと考えて逃げ出した。

 そして、ユニス達と合流したのだった。


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