066:銀の護符は闇に隠された秘密を語る④
護符が記憶しているアイミアの半年間の軌跡を解析する。一気に読み取った情報の塊を丁寧にほぐし、始まりから終わりまでを、順を追って整理していく。
ユニスの脳裡に鮮やかな映像が展開した。
その夜も『セルレイ』は大勢の客でにぎわっていた。クリスタルシャンデリアがきらめき、音楽が流れ、店内には強い酒の匂いが漂っている。
店の奥の個室で、屈強な男達が乾杯していた。
アイミアは、そこへ堂々と入って行った。裏社会の情報屋を通じ、コルセニーの使徒の首領へは、ツナギをつけてあった。
「まっとうな表の護衛戦闘士様が何の用だい。この店の裏の顔をわかっていて俺達に声をかけたんだろうな?」
髭面の首領はニヤニヤしてアイミアを歓迎した。アイミアは美女だ。守護聖都フェルゴモールの腕利き女護衛戦闘士としても顔が売れている。
「あら、その理由は仲介人に聞いてくれたんじゃないの」
アイミアは軽く笑い、ここへ来るために用意していた嘘の事情を繰り返した。
危険な護衛戦闘士の仕事から引退したい。
そのためには、手っ取り早い方法で、まとまった金が欲しい。
フリーで仕事をする護衛戦闘士にはありがちな理由だ。
「あんた、大貴族の御令嬢じゃなかったか?」
首領はジロジロと、値踏みするようにアイミアを眺め回した。疑われているのだ。アイミアは微笑みで返した。
「名門貴族と言うだけで、爵位と財産を相続した者以外は、自分で稼がないと生活できない程度に貧乏なのよ。貴族にはよくある事情だわ」
アイミアの出自は守護聖都の貴族の中でも名門中の名門だ、とユニスは聞いたことがある。だが、守護聖都の貴族社会は閉鎖的だ。庶民が知り得るゴシップやスキャンダルは大海のほんの一滴。大貴族の御令嬢であるアイミアの普段の生活なんて、ユニスですら知らない。強盗団ごときが調べたってわからないだろう。
「私は『コルセニーの紋章』に興味があるのよ。一口乗らせてくれないかしら」
新しい古代理紋の発見は、一攫千金と同義語だ。金が欲しくて遺跡に入る人間なら、誰でも一度は考える。自分が未知なる古代理紋の発見者になることを。
「古代理紋を扱えるシェイナーは帝国でも限られているわ。当てはあるの?」
アイミアは魔物狩人バシルを推薦するつもりだったようだ。アイミアはプリンスの指示で動いていた。コルセニーの使徒にプリンスが招かれ、セルレイを訪れるその日、強盗団を一網打尽にするという計画の一部だった。
ユニスは眉をしかめた。
どこかの時点で、時空軸の改変が起こっている。
タイムスリップする以前の時間では、プリンスは魔物狩人バシルに変装して、セルレイに来ていた。その時、コルセニーの使徒は魔物狩人バシルを仲間に勧誘したと、プリンスから聞いた。
時空軸の改変前にコルセニーの使徒と接触を持ったのはプリンスだ。
だが、時空軸の改変後は、アイミアになっている。そして、コルセニーの使徒は、魔物狩人バシルを勧誘するどころか会ってもいない。
ユニスは胸の奥がざわめいた。改変の起点はどこだろう。妙に気にかかる。それがわかれば、この時空間の、こんがらがった謎が解けるような気がするのに……。
「あんたが仲間になりたいなら、やってもらいたいことがある。あんたが守護聖都で信用があるのも好都合だ。うまくやってくれれば、みんなが儲かるいい話だ」
首領は上着のポケットから一枚の写真を出した。
それは、ユニスを撮影した写真だった。




