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ルーンゴーストⅡ『コルセニーの紋章』  作者: ゆめあき千路


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062:乙女は純白の労働契約を希望する

「古代理紋の複製品(レプリカ)が作られたのは、この研究所です。シャールーン帝国では、必要な機材と装置と、専門の技術者が揃うのはここしかありません」

「ということは、研究者の中に、盗賊団と通じている者がいるってことか」

 晶斗は、定期便の飛空艇の方へ視線を走らせた。飛空艇の乗員も研究所に出入りできる関係者だ。

「古代理紋の研究者はロミさんだわ。まさか、彼女が?」

 ロミが犯罪者なんて思えないが、理紋研究の主任なら、研究所内の装置を自由に使ったり、研究記録を改ざんして誤魔化すのはたやすい。


「ロミ・ルイセ博士は関わっていません。彼女には亡命時から監視が付いています。違法に古代理紋を複製するメリットがありません。シャールーン帝国には、他にもサイメス由来の科学技術を学んだ者はいます。それが誰なのか、盗賊団との繫がりや動機はまだ不明ですが」

 プリンスは背後の建物を振り返った。こうして話している間も、プリンスはユニス達を囲むシェインの結界を張っている。プリンス以上に強いシェイナーでない限り、覗くのも聞き耳を立てるのも不可能だ。


「内部調査は理律省で行います。今は出回っている古代理紋の回収が最優先です。作られた護符はセルレイの店で配られました。サイメスの武器商人まで持っていましたから、あの店の関係者の手には、まだまだ残っていると見ていいでしょう。私達で今夜から回収作業にかかりましょう」

 プリンスがユニスを一瞥した。ユニスは『逃げるんじゃないぞ』という、副音声まで聞こえた気がした。

「え? わたしも? どうして」 

「閣下、この子も現場へ連れて行かれますの?」

 アイミアが口を挟んでくれた。七星華乙女会はユニスの監視を請け負うほど狂信的な秘密結社である反面、腐っても(タイ)淑女(しゆくじよ)の団体だ。基本的に、ユニスを危険な目に遭わせないという規約を遵守している。

「セビリスの理紋を無効にできる大陸唯一のシェイナーです。古代理紋の回収作業は危険なので、他の者は控えるように」

「承知致しました」

「アイミアさん、もうちょっと頑張って止めてよッ」

「え? でも、あなた、まだ七星華乙女会の正式会員ではないし」

「じゃあ、会員になったら、プリンスから守ってくれる?」

「あら、会員なら、プリンスの命令には絶対服従じゃないの」

「わたしの選択肢は無いの!? 鬼、アクマ!」

「七星華乙女会の会長と呼んで。これがプリンス至上主義のあるべき姿よ」

 アイミアとユニスの乙女らしい会話はさておき、晶斗はプリンスと実際的な話を詰めていた。


「話はわかった。ここからの仕事は、遺跡探索の契約とは別料金になるぞ。ユニスに古代理紋の特殊処理をさせるなら、別途、その分の危険手当てを要求する。それから護符だが、回収する範囲を決めてくれ。帝国内か大陸全土まで考えるか、ただし、海に出られたら俺達は追跡できないぜ?」

 晶斗の故郷・東邦郡(オリエント)はルーンゴースト大陸とサイメス大陸を隔てる国境地帯にある。大陸間条約が締結されるまでは、ルーンゴースト大陸の歴史上、サイメスとの紛争が最も多かった国だ。

「その条件で手を打ちましょう。あとで新しい契約書にサインを御願いします、振り込みの方は後日の手続きで。東邦郡政府には私が連絡します。どのみち、このミッションには大陸各国の協力が必要ですから」

 プリンスは慣れた調子で商談を詰めてきた。新しい契約書は準備済のようだ。

「俺は陸将に伝手(つて)があるから、個人的に連絡を入れておく。あっちも武器密輸の情報は欲しがっているからな。シャールーン帝国宰相の名前で例の武器商人の情報を渡すなら、東邦郡国内ならどこでも、喜んで後方支援を出してくれるぜ」

 晶斗はプリンスの提示した内容で手を打つつもりだ。ユニスは焦った。

「ちょっと、晶斗も、話を勝手に進めないで!」

 ユニスの訴えは、晶斗とプリンスには届かなかった。晶斗との話が一段落したプリンスは、アイミアへ、守護聖都へ戻りしだい報告を上げるよう、指示した。

「では、これで決まりですね。早速、今夜から探索に出ましょう」

 プリンスの表情はいつもより輝いているように、ユニスには見えた。いや、プリンスは危険な仕事に関わっている時ほど美貌が生き生きしている。

――そういや、遺跡の遭難経験者の晶斗も、なんのかんの言って、遺跡に入るのが好きだものね。護衛戦闘士や魔物狩人って、命懸けのスリルを追い求める人の職業なのかしら。

 あいにくだけど、わたしはそこまでスリルが好きじゃない。

 ユニスにだって譲れないものがある。

「わかった、仕事は断らないわ。でも、その代わり、美味しい御飯とリフレッシュするための睡眠時間を要求するわ」

「却下です。その間に、コルセニーの使徒が逃げたらどうするんですか」

 プリンスの回答は、あまりに素っ気ない。

 この後もこき使うつもりなのは明白だ。その期限は、おそらくコルセニーの使徒が、全員逮捕されるまで。

――せめて一日の休暇が欲しい。

 ユニスは必死でプリンスに食い下がる覚悟を決めた。

 時空間の歪みの狭間で翻弄された時間も含めて、この七十二時間は程は、心身ともにろくに休めていない。

 タイムスリップしていた間の時間は、元の時間軸に戻って振り返って見れば、主観的な経過時間は一日足らずと短かった。だとしても、実質はとうに労働基準法違反、このままだと過労死一直線になりそうなブラック勤務である――。


 だが、プリンスに時間が惜しいと言いくるめられ、けっきょく守護聖都に戻ったら、今夜0時にプリンスの隠れ家へ集合することになった。


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