061:失われた時空間の責任を求めて欲しくない
「何を見ているのですか?」
いつの間にか、プリンスが背後に立っていた。ロミもいる。
「それは、この近くの古い集落の跡から発掘された石です。何に使われたかはわかっていませんが、純度の高いルビーやエメラルドですわ」
ロミが親切に教えてくれる。きっと、ここへ来る見学者にも同じ内容を繰り返しているに違いない。
「そ、それは……きっと、髪をくくったりする、紐の飾りだったのよ。ロミさん、その隣に展示してある黒い布の切れ端みたいなモノは、何なの?」
ユニスが訊ねたら、ロミは眉をひそめた。きっと『初対面なのにやけに気安く呼びかけるコね』とでも思ったに違いない。
「それは、絹の布です。発掘された年代は一万五千年以上前ですが、遺跡地帯の特殊な永久凍土状態の場所で保存されていたので、現代まで残ったものです。そこの解説文には書いていませんが、じつは特殊な染料で着色されていて、それが数年前にサイメスで開発された科学号性品の紅い色素と同じ組成の染料で染められているんですよ。ルーンゴースト大陸の古代世界に、同じ成分の染料があったなんて、不思議でしょう。珍しい発掘品だからここに飾ってあるのですわ」
ロミは、丁寧に説明してくれた。ユニスのためではなく、プリンスが側にいたからだろう。口調は終始丁寧だ。
ユニスは頭が痛くなった。時空間の彼方で古代人の少女にプレゼントした赤いリボンは、ごく最近、フェルゴモール市内に新しくできた輸入雑貨店で購入した品物だった。ただの布が、どうして一万年以上も残っちゃのよ~、と叫びたくなる。
えげつなくヤバい。
ここに展示されていたら、こっそり回収なんて、できっこない……。
「そ、そうなの。すごく、珍しい、のね……」
ユニスは視線を泳がせた。プリンスが横目で見ている。きっと怒っている。あれほど過去を変えそうな行動には注意しろと言われたのに、ユニスは、古代にあってはならない未来の物品をもたらしてしまった。
「遺跡地帯では、時時おかしな物が発見されます。その時代や地層にはあり得ない遺物という意味で、『オーパーツ』と呼ばれる物です。その横にあるマントみたいな布もそうで、ボタンとかレース飾りみたいな物が付いているがわかりますか? ほら、復元図を見たら、現代のデザインと言っても通りそうでしょう。というより、先月、守護聖都で発表された今年の秋のコレクションで発表されたデザインに、そっくりなんです。考古学者が研究中ですが、こういうのは、科学的には解明できないことが多いのです。あなたがたシェイナーも、サイメスの科学では解明不可能な存在ですけれど、ルーンゴーストにある不思議な物は、私達サイメス人の想像力をはるかに超えていますわ」
ロミは素直に感心しているらしい。ユニスが顔をひきつらせていることには気付かない。
「なかなか興味深いお話でした。では、ユニス、我々はそろそろ失礼しましょう」
「は、はい!」
プリンスの手がユニスの肩を掴み、ユニスは背筋をピンと伸ばした。
「え、あら、もう、お帰りになるのですか」
「そろそろ迎えの飛空艇が来る頃なので外で待ちます」
名残惜しそうにプリンスの美貌を見つめるロミに見送られながら、ユニスはプリンスと一緒に建物から出た。
晶斗とアイミアが急いで追って来る。
プリンスは二人に合図を送り、建物の陰に入った。
「シャールーン帝国の近代史は勉強し直さなくてもいいですが、あの展示品の件は後で事情聴取します」
プリンスに耳元で低く囁かれ、ユニスは全身から冷や汗がドッと吹き出した。




