059:氷雪の女神はコルセニーの使徒を捕まえる
「空間干渉が強すぎる。これでは私も空間移送はできない。アイミア、晶斗に合流を。ユニス、やめなさい……ユニスッ!?」
プリンスの指示など聞こえなかった。
ユニスは湖の水を喚んだ。
湖の岸辺近くで風が逆巻いた。
大量の水が空中に巻き上げられ、空をめざして伸び上がる。
白いきらめきが天空を駆け、その先端が、落下した。
大量の水が大地に叩きつけられ、地面を濡らした。それでもまだ空高く伸びている捻れた氷の竜巻は、空中に白く留まっていた。
濡れた地面は白く凍りついた。地面に着いたトルネードの先端は分厚い氷の壁の内に敵を閉じ込めて、なお刻一刻と壁の厚みを増していく。
草木は一瞬で凍結した。野原が高速で広がる氷床に封じ込められていく。氷のトルネードが成長する過程で過程で、空中から降り落ちてきた氷の欠片は、そのまま地面から突き立った鋭い氷の棘と化した。
「なんだ、これは!」
男達を閉じ込めた氷壁の内側でも、氷の棘は地面を伝って出現した。
「ルーンゴーストの悪魔の仕業だ、シェイナーがいるぞ!」
銃が乱射されたが、砕かれても砕かれても、氷の棘は地面から生えてくる。
男達は銃を放り投げて逃げ出した。だが、遁走など不可能だ。永久凍土となった地面はすでに氷の女悪魔セビリスの領土、いかなる方向にも氷の壁が聳え立ち、犠牲者を逃がすことはない。
地面の下は永久凍土と化し、天空も氷で塞がれている。
何かがユニスの額の上に触れた。
氷壁の成長が止まった。
「彼らは封じられました。完全に閉じてしまえば窒息します」
プリンスの右手だ。ユニスの額のすぐ上、脳の前頭葉の部分、シェインのコントロールに重要な関わりがあるとされている辺りを軽く置かれている。
プリンスがシェインで、ユニスのシェインを強制遮断した。
氷壁は完全には閉じられず、そこかしこに隙間が残されている。
ユニスは眉をしかめた。
「ちがうわ、殺す気なんて無いわ。あの人達はパニックを起こして、氷に囲まれた中で逃げまどっているのよ。完全に動きを止めないと、かえってケガをするかもしれないわ、だからシェインを使わせて……!?」
突然、全身を締め付けるような痛みに襲われた。晶斗の様子を透視するどころか、指一本動かせない。シェインを使おうとすると、激しい痛みに襲われる。
だめだ、晶斗が視えない。
「彼らはすでに武装解除しています」
「放してよ、でないと、晶斗が……」
プリンスの手を、ユニスは振り払った。
「落ち着きなさい、晶斗は無事です」
プリンスはユニスの後頭部にそっと触れた。そうして促された方向に、晶斗がいた。よほど急いで戻って来たのか、呼吸が荒く、肩を上下させている。
「氷は俺を避けてくれたんでね」
晶斗が来たのと入れ替わりに、プリンスとアイミアがユニスから離れていく。低い声でのやりとりが聞こえた。
「アイミア、通信装置を持っていますか」
「ええ、ここに」
「武器商人の空間干渉機はまだ生きています。この状態では、私達では空間移送は出来ません」
「迂闊でしたわ。これではユニスのシェインを解くことも出来ませんわね」
「これ以上、無理はさせたくありません。それに、ここまで派手にやれば、もう内々に処理するのは無理でしょう。私の名前で近くの基地へ連絡を。基地指令を呼び出してください」
アイミアがガードベストのポケットから小さな通信機を出すのを、ユニスはぼんやりと目の端で捉えていた。
「おいおい、どうしたんだ、座り込んじまって?」
いつの間に来たのか、晶斗は至近距離からユニスの目を覗き込んできた。
ユニスは、ふざけないで、と晶斗の顔面を両手で押しのけた。
「なんでもないわ、疲れただけよ」
ユニスは、すぐに動けなかった。無事な晶斗を見て気が緩んだ為だと思った。
ようやく立ち上がれたとき、プリンスによってシェインを無理矢理押さえ込まれていた影響もあったのだと、気付いた。




