058:乙女は援護に向いていない
「ユニス、考えるのは後です、敵が移動を始めました、五分で到達します」
プリンスは立ち上がった。アイミアへチラリと視線を走らせる。
「彼らは狙撃を止めました。アイミアを生かして捕らえたいようです。何かしましたね」
その一言で、ユニスと晶斗にも注目されたアイミアは、
「ちょっとトラブって、取り引きの武器を隠してやったの。ここからあいつらの所へ、私を空間移送してもらえないかしら?」
えへへ、と、舌を出して肩を竦めた。
「彼らはサイメスの武器密輸の証人です。できれば一人は生かして捕らえたいのですが」
プリンスは晶斗へ顔を向けた。
「今回のアンタの狙いだな。援護次第だが、ともかく行くぜ」
晶斗は岩の右側から走って出た。狙撃されない。プリンスの言う通り、敵もこちらの生け捕りを狙っているのだ。
「アイミア、晶斗に防御結界を。こちらの結界は最低限に、攻撃は私が」
プリンスは右腕を曲げ、右手を胸の前で上向けた。その手の平の上に小さな赤い球体が出現した。チラチラと燃えている。拳大の紅炎のボールだ。
「ご存分に」
アイミアはプリンスの半歩後ろに立った。
二人の周囲で空気が紅く燦めいた。空中に、プリンスの右手の上の紅炎のボールと同じ物が点々と出現する。
「火球!?」
ユニスが呟いた次の瞬間、プリンスの手から火球が消えた。
ズシン、と、辺りの空気が重くなった。ユニスが恐怖を感じ始めた時、アイミアとプリンスの周囲から、輝く火球は重い空気と共に、一斉に消失した。
体が軽くなった。ユニスは大きく息を吸い込んで、吐いた。途端に、軽い眩暈がして、視界にある景色が歪んだ。
ハッとした時、ユニスはシェインの目を『飛ばして』いた。意識せず、プリンスの手から空間を超えて放たれた火球の行方を追跡していた。
火球の群れは、敵の上空に出現し、敵二人めがけて降り注いだ。
悲鳴がしたのは、そんなに遠くない場所だった。
野太い男の声は、すぐに止んだ。
敵の二人は火球の攻撃を受けてパニックに陥り、左斜め後ろから忍び寄っていた晶斗に気付かず、あっさり倒された。
その一部始終を、ユニスは透視していた。
大岩から離れた位置で、小規模な爆発が起こった。
ユニスは視力を肉眼に戻した。
プリンスとアイミアは変わらぬ位置にいた。爆発のあった方へ顔を向けている。
また爆発音がした。今度は近い。爆風こそ来なかったが、大岩の近くの木が一本、メキメキと音を立てて倒れた。
ユニスは敵の位置を透視しようとしたが、晶斗が見えない。
「また空間干渉機が作動しているの!?」
答を求め、ユニスはプリンスへ振り返った。
「私も視えなくなりました、アイミア?」
プリンスの後ろに立っていたアイミアは、眉間に縦じわを寄せた。
「私どものシェインに干渉できるほど大型の装置を複数使えるのは、武器商人でも上の方の連中でしょう。先の二人が帰還しないので見に来たのでしょうね」
アイミアは額に手を押し当て、目を閉じた。その顔が苦悩に歪む。アイミアも透視ができないのだ。
ユニスは胸に鋭い痛みを感じた。心臓が痛いのか? いいや、違う。晶斗を助けられない自分の無力さと罪悪感が、胸の痛みに変換されただけ。
「晶斗!」
たまらなくなってユニスは叫んだ。
新たな敵が近付いてくるのを知らず、晶斗はまだ、拘束した敵二人と共にいる。




