表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルーンゴーストⅡ『コルセニーの紋章』  作者: ゆめあき千路


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/75

050:ど根性の発揮には注意が必要かもしれない

「え!?」

 いきなり体が宙に浮き、ユニスはとっさに息を止めた。

 ぐるんと視界が反転する。

 圧迫された腹部から、体がくの字に折れた。

 誰かの肩に担がれた!? 

 両足は、揃えてしっかり持たれている。

 ユニスは自分の身長より高い位置から地面を見下ろしていた。

 揺れている。ガサガサと枝や葉をかきわけて、移動している。

 怖くて声も出なかった。運ばれている間中、シェインを使えるようになったことも忘れていた。

 運搬者の歩みが止まった。

「よっしゃ、ターゲット確保したぞ!」

 晶斗だ! とわかった瞬間、ユニスは一気に頭に血が昇った。恐怖が霧散した代わりに、怒りが瞬間沸騰する。

「下ろしなさいよッ!」

 ユニスは頭を上げ、空を睨んだ。

 空中に白い点がきらめいた。宙を漂う水の分子が集められ、水滴となり、熱を奪われ、氷の粒に結晶する。瞬く間にバケツ一パイ分に増殖したそれを、晶斗めがけて降り注いでやった!

「おワッ、いてッ、冷たッ!」

 雨あられと降る氷つぶてに、晶斗が悲鳴を上げた。ユニスには当たらない。軌道は計算済だ。晶斗の左肩に手を付き、怒りを込めて、思いっきり晶斗の太腿の前を蹴り上げ、飛翔した。

 垂直に飛び上がった空で、とんぼ返りをうつ。

 雲間が晴れて、真円の月が煌煌たる顔を(あらわ)した。

 ユニスは晶斗から少し離れた草の上へ、音もなく着地した。

 まっすぐ立ってよろめきもせず、ユニスは自分の身の軽さに満足してほくそ笑んだ。ここの空間は迷宮に似ている。歪みの作用に満ちている今なら、重力も迷宮と似た感覚でコントロール可能だ。

「痛いなあ、ヒールのカカトがめり込んだぞ」

 晶斗は、左脚の前についたユニスの靴跡を軽くはたいた。

「乙女になんてことするのよッ! 心臓が止まるかと思ったじゃないのッ」

 ユニスは頭ごなしに怒鳴りつけた。

「そりゃ、すまない。でも、苦労したんだぜ、歪みを避けてこっそり忍び寄るのに」

「声を掛けてくれればいいじゃない。氷の粒で済んだのを幸運だと思うのねッ!」

 ユニスはずんずん歩いて、晶斗の前に立った。


 と、ユニスの左横に、音も無くプリンスが現れた。気配を消したプリンスは、ユニスが近付く前からその場所にいたのだ。ユニスはギクリと体を震わせた。まったく気付かなかった。晶斗もプリンスも気配を消すのが得意のようだ。

「私が晶斗にそうした方がいいと言いました。子どもにあなたの存在を気付かれたくなかったのでね」

 プリンスは反省どころか、悪戯っぽい笑みさえ浮かべ、洞のある方角へちらりと視線を走らせた。

 ムカついた! 二人はやっぱりユニスを誤解している。

 ユニスは洞の方へ顎を大きくしゃくってみせた。

「あの子達はグッスリ眠っているわ。ここでの会話なんて、聞いていなかったもの。それとも、わたしがあの事故を止めに来ると思って心配していたわけ?」

 ユニスはじっと二人を見つめた。

 微妙な間が空いた。

 晶斗は目を逸らした。

「じつは、そうです。私達がこの時空間へ来た理由を他に思いつかなかったので」

 プリンスは、まっすぐに目を合わせてきた。ユニスの思考を見透かそうとする強い視線だ。ユニスの方がたまらなくなって目を逸らした。いろいろ勘ぐられるよりも、自分から喋ってしまう方がマシだ。

「おあいにくさま、期待を裏切って悪いけど、わたしは自分の現在(いま)を変える気はないわ。このわたしがわたし自身であることを、ぜーったいに、何が何でも、ほんの少しも変えたくないの」

 きっぱり宣言したユニスを、二人は黙って見つめている。

「でも、故郷の山に登るのが怖かったから、この時間まで来なかったんだろう?」

 晶斗は、プリンスから子供のユニスの事情を聞いたのだろう。

 ユニスは、晶斗を睨みつけた。

「故郷の山がなんぼのもんよ。じゃあ、訊くけど、時間をさかのぼれるとして、晶斗は変わりたいと思うの。ここでこうしている自分じゃなくて、別の考え方をする、未知の他人のような存在に?」

 晶斗は首をすくめた。

「たしかに、あんまり面白くなさそうなシミュレーションだな。疑って悪かったよ」

「失礼しました。我我は冷凍少女(フリーザーガール)の精神力を見くびっていたようです。許してください」

 プリンスは軽く目を伏せた。

 やっと無言の圧力が消えた。

 二人はユニスの次の言葉を待っている。すっかり落ち着いた二人の態度に、ユニスは、自分のイラつきをぶつけたのが急に恥ずかしくなった。

「もういいわよ、許すわよ。わたしもキツい言葉で言い過ぎたわ。本気で怒ってるワケじゃないから」

 ユニスは、いからせていた肩の力を抜いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ