040:乙女は神々とのコンタクトを望む
村人は皆、銀色がかった薄い色の髪だ。目の色は深い青色、あるいは藍色。肌色も色素が薄く青白い。
それは、守護聖都フェルゴモールに生きるプリンスが生まれた皇族や、その周囲にいる古い家系の貴族階級と共通する特徴だ。
ルーンゴースト大陸の神話では、シャールーン帝国の礎を築いたのは白い巨人の一族だ。プリンスの先祖にあたる皇族の祖フェルギミウスとその一族は巨人だったという伝承がある。
はるかな年月に薄められても、古代に生きた巨人たちの血脈が絶えることなくユニスの時代にまで連綿と伝わった証拠が、皇族やプリンスやフェルゴモールに住む古い家系の貴族階級の人人なのだろう。
巨人の年若い少女達は、ペチャクチャお喋りしながらユニスを取り囲んだ。会話については、強い心話を送り付けてくることはなかった。ユニスもシェインが使えないから積極的に話しかけることもしなかったが、少女達の行動から、話しかけられた意味は、なんとなくわかる気がした。
『きれいネー、この服。すごく繊細な糸で編んであるワ』
ポンチョの裾を引っ張られた。また別の少女は、胸元の飾りボタンを摘まみ、指先でなでまわしている。
『このボタンは何で作られているのかしら。貝殻とは違うのネ』
「はいはい、この服が気になるのね。もっとよく見る?」
ユニスはポンチョを脱いで、裾を引っ張っていた少女の一人に手渡した。数人の少女達が何か言いながら受け取り、ユニスから離れていった。少女達の服は半袖だ。日射しの暑さといい、季節は夏らしい。着込んでいると薄く汗ばむくらいだから、脱いでいても問題ない。
別の少女達は、ポンチョの下に着ているチュニックのレース飾りをなで回したり、ユニスの髪の先を手櫛で梳いたりしている。
『これ、素敵ネー。どうやって作ってあるのかしラ』
レース飾りをうっとり眺めて、溜め息を吐いている。
『この子の履いている靴って変わっているわネ。踵が細くてすごく高いワ』
『見て見て、この変わった色の髪の毛。長くてとても柔らかいワ。編みやすそうヨ』
『じゃあ、編み込みしちゃオーヨ!』
可愛いお喋りを聞いてえいる間に、ユニスの髪には三つ編みが何本もできていた。
『アラ、このきれいな色の布は何かしラ?』
女の子の一人が、ユニスのレースの上着ポケットからはみ出ていた赤いリボンを引っ張り出した。長いリボンだ。そういえば、数日前、雑貨店で買い物をした。赤いリボンをポケットに入れて、そのまま忘れていた。
「普通のリボンだけど、よかったら、どうぞ」
身振りでプレゼントすると、手に持っていた少女は嬉しい悲鳴を上げた。他からうらやましそうな声が上がる。
「こういう時の声は、万国共通かも知れないわね。ん?」
髪が重い。三つ編みの先端が細紐で結んである。紐には小さな青い石が幾つも付いている。石のビーズを縫い付けた紐だ。少女達の髪も、いろんな色石を使った紐で結んである。カラフルなビーズの色彩が銀色の髪によく映えていた。
「どんな時代でも、女の子はおしゃれしたいのよね」
ユニスがひとりで納得していると、聞き覚えのある声が聞こえた。
「あ、あんな所で遊んでるぞ」
晶斗だ。三人の村人に囲まれて、プリンスと連れだって来る。
「失礼ね、文化交流と言って。今、守護聖都で流行しているリボンとレースの使い方を指導したところなのよ」
「無事で良かった。この彼が、丘にいた私達に声をかけてくれなかったら、夜を待って奪還しに来るところでしたよ」
二人の後ろにユニスを保護してくれた巨人のおにいさんがいる。他にも少し年配のおじさんも数人が、笑顔で頷き合っている。「迷子が見つかって、よかったなあ」とでも言っているのだろう。
「わたしが仲間とはぐれたって言ったから、探しに行ってくれたんだわ。あの後、二人は、森の中の遺跡にいたの?」
「いえ、遺跡を出てすぐにあなたが消えたので、空間移送を起こした接点を探して同じ路を移動しました」
プリンスはすぐに接点からシェインの通路をこじ開けた。
だが、移動先にユニスはいなかった。
プリンスはシェインで一帯を捜索した。
晶斗は地面の足跡を調べた。
そして、二人は、この村の存在を突き止めた。
プリンスが村の様子を透視して、ユニスが居るのを見つけた。しばらく遠くから様子を窺っていたら、おにいさんに声を掛けられたという。
巨人の大人達は、新たにやってきた晶斗とプリンスをしきりに指差した。会話の中には「フェルゴー」という単語がやはり何度も聞き取れた。
大きな少女達はプリンスを見るや、一斉に頬を薔薇色に染めた。
種族を超えて、美の基準は共通らしい。
「よう、あんがとさん。あんたら、でかいよな。なに食ってんだよ?」
晶斗は近くの若者相手に勝手なことを喋っている。
若者は愛想良い返事をしている。
しかし、言葉が通じないのだから、当然、会話は成立していない。
ユニスが二人のやりとりのイントネーションをよく聞いていると、相手も晶斗と似た軽い調子だ。『はっはー、ぜんぜんわからねーわ。お前ら、何だよ?』みたいな返事をしているだけのようだ。
「ちょっと、恥ずかしいからやめてよ。テレパシーで意味がわかってる人がいるかもよ」
「そうなのか。プリンスでも意味がストレートに通じるのは、あのにいちゃんだけなんだぜ?」
巨人のおにいさんと話していたプリンスが振り返った。
「彼がこの村の指導者というか、村長ですね。私たちに通じるシェインに優れているのは彼だけのようです」
プリンスは、村へ来るまでの間に、巨人のおにいさんから必要な情報を仕入れていたようだ。
「私達のシェインは時空間には干渉できませんが、彼らのシェインは私達とは異なるものです。村長によれば、日が変わらないうちなら、私たちが元の時間軸にある時空間の路を移動するのは、可能だそうです。ここはご好意に甘えて、彼の力で元の時間軸に帰還させてもらいましょう」




