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004:遺跡の定義

 問い:プリンスの申し出を断って帰ったら、どうなるか。

 答え:どうにもならない。


 ユニスがプリンスの申し出を蹴ったところで、結果的には晶斗に護衛を頼み、どこかに身を隠すという選択しか残らない。

 護衛戦闘士がこういった護衛任務を引き受ける場合、通常は警察などと連係するという。だが、今回はシャールーン帝国では警察よりも権限が上の、理律省の大ボス・プリンスがすでに関わっている。

 ユニスは黙ってプリンスの提案に乗ることにした。ゴネても、どうせまるめこまれるか、あるいは脅迫されて強引に連れて行かれるかの違いしかないだろう。

「快く承諾していただけて良かった。ちょうど屋上に私の飛空艇が来ました。では、出発しましょう」

 プリンスに案内され、ユニスと晶斗は屋上へ出た。

 この超高級ホテルには、守護聖都フェルゴモールの高層建築物の中でも、数少ない飛空艇の発着場がある。プリンスがここを隠れ家に選んだ理由だろう。

 プリンスの真白い飛空艇は、北斗七星の紋章付きだ。そのシルエットは優美な水鳥にも似て、美しさも帝国一なら、性能もシャールーン帝国で最速を誇る。

 プリンスは、民間機は飛行禁止区域である皇宮殿(こうぐうでん)上空すらも通過し、魔の遺跡地帯への最短距離を取った。




 ルーンゴースト大陸には三つの古代湖がある。

 その中の二番目に広い湖を越え、プリンスの飛空艇は湖の北西沿岸を目指した。

 大きな建築物がポツンと建っている。

 近辺には村どころか、小さな集落すらも見当たらない。

 飛空艇が着陸したのは、その建築物の前庭らしき、雑草が蔓延(はびこ)る荒れ地だった。あちらこちらにある花壇らしき囲いの痕跡で、建物の敷地内だとわかったのだ。

 建物へ続く歩道の敷石も枯れ草に覆われている。

 ここが放棄されて久しい場所なのだと、ユニスは実感した。

 飛空艇の乗員(クルー)によって、貨物室から機材と装備が運び下ろされた。

 作業が終わると、飛空艇は守護聖都へ帰還した。

 野原みたいな広場には、ユニスと晶斗とプリンスの三人が残された。

「なに、ここ。何の冗談なの。あの建物はきれいなのに、廃墟なわけ? いったいどういうことなのか説明してよ」

 ユニスは辺りの荒廃ぶりに絶望した。

 どんな辺境の遺跡地帯でも、小さな集落くらいはあるのに、見た目立派な建物には管理人さえいない。

 ユニスは叫びたくなった。ホテルもレストランもないんじゃ、わたしのご飯はどうしたらいいの!?

「うわ、俺、こういうホラーハウスは嫌いなんだよな」

 そうか、晶斗もこういう所は嫌いなんだと親近感を覚える一方で、このメンバーでもっとも廃墟が似合わないプリンスが一番平気そうにしているのが、ユニスは納得できない。こんな所に連れて来られるとわかっていたら、守護聖都フェルゴモールの超高級隠れ家で一泊させてもらえば良かった!

「ここが今回のベースキャンプです。ここは一年前まで秘密の理律研究所として使われていましたが、今は閉鎖されて無人です。まあ、そういう意味では、確かに廃墟状態ですね」

 そう言いつつ、プリンスは眉一つ動かさない。建物には、特に思い入れも無いのだろう。

「今夜はここで野営するのか。宰相閣下なのに、お付きの騎士一人も無しか。それでよく問題にならないもんだな」

「部下に信頼されているといってください」

 プリンスの発言に、ユニスは『手に負えないから野放しにしているじゃないか』と、突っ込みを入れたくなったが、グッと堪えた。しかし、

「きっと止められないから、野放しにしているんだろう」

 晶斗は素直に口に出した。

「こんな上司を持って、部下はさぞかし苦労していると思うぜ。どうせアンタのことだ、この件だって理律省だけで解決できるなら、俺やユニスに連絡なんかしてこなかっただろう?」

 晶斗が皮肉をたっぷり込めているのは、ユニスにもわかった。

 プリンスは軽く受け流した。

「じつを言うと、この件には、当初、破格のボーナスを提示して有志を募ったのですが、誰一人として応募がなかったため、私から部下を指名しました。すると、調査場所がここだと知れた時点で次次と辞表を提出されたので、この件を部下に振るのはあきらめたんです」

 プリンス直々の指名を断るなんて、さぞかし勇気が必要だっただろう。

 理律省といえば、エリートシェイナーの名高き殿堂。そこのプロフェッショナルさえ二の足を踏んだ最凶の事故物件とは、いかなるものぞ?

 ユニスは理律省の職員に同情……できなかった。

「これって、貧乏くじを引いたようなものかしら?」

「へえ、そいつは気の毒な話だな。それで理律省の最高長官自らの登場ってワケだ。でも、俺達には関係ないよな。で、この『件』てのは、何の話かな~。守護聖都で聞いていたのは遺跡の話だったよな。それと現地の状況が違う理由を、いい加減、説明してもらおうか」

 晶斗の目は笑っていない。飛空艇での移動中、ユニスは居眠りをしていたからプリンスとは話をしていない。あとで晶斗に訊けばいいや、と思っていたのに、どうやら晶斗も機中では何も聞かされていなかったらしい。

「ここ、セキュリティも何もないわね。少なくとも、わたしの保護のためだけにここを選んだんじゃないでしょ?」

「ええ……じつは、今回の『遺跡』の探索場所がここなんです」

 プリンスは建物を指差した。

「この建物の中に遺跡が潜んでいるの? わたしには何もわからないけど、調査なら専門の調査隊の人を連れて来る方がいいんじゃ……」

 ユニスが言い終えないうちに、プリンスがすばやく事情を説明し始めた。

「いえ、それができないので、私達が来たんです。私が調べても、既存の遺跡の気配は見つかりません。ただ、この建物の内部が、一年前に遺跡に変化した可能性があったかも知れない、という疑いがあります」

 ユニスと晶斗は、え?とその場に固まった。

「いやだわ、ホントの幽霊屋敷みたいで」

 ユニスのような庶民からすれば、元理律研究所の外観は、貴族趣味が(まさ)った彫刻だらけの華美な家屋に見えて仕方がない。シャールーン帝国で典型的な守護聖都様式と呼ばれる館風の造りだ。

 プリンスがドアを開け、先頭で入ると、明かりが付いた。

 入ってすぐのロビーは大きな窓から外の湖のある風景がよく見える。

 窓ガラスの内側は汚れていないし、床に埃やゴミは落ちていない。こまめに清掃されているかのようだ。

 晶斗もそう思ったらしい。

「閉鎖されて一年にしちゃ、片付いているな。で、ここがなんだって?」

「一年前の今日、この研究所に居た三十人が、一夜で消えました。以来、ここは閉鎖して、立ち入り禁止にしました。……じつは、この研究所自体が、私の秘密プロジェクトだったんですがね」

 プリンスの説明は、ユニスと晶斗をその場に硬直させた。


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