表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルーンゴーストⅡ『コルセニーの紋章』  作者: ゆめあき千路


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/75

038:乙女は古代世界を歩む

 遠くに山並みがかすむ。

 まさに大自然のただなかだ。

 左の方にはゆるやかな川が流れ、翡翠(ひすい)色の湖に流れ込んでいる。

 湖の向こうには緑の森が地平線まで広がっていた。


 ユニスは、胸の奥が冷たくなった。

 時空間の移動現象は、シェインの道具絡みでも起こると聞く。強力な力を持つ理紋などを扱い損ね、その場の空間に歪みを引き起こすのだ。時空間の彼方に遭難する事故は珍しいが、前例はある。


 ユニスは、異空間から連れ帰ったロミ・ルイセ博士の言葉を思い出した。

――私たちは、一万二千年以上前、計測できないくらい昔にタイムスリップしていたのです。帰還はあきらめていました――。

 ロミを連れ帰った時には、建物の中で接点が特定されていた。プリンスとアイミアは優れたシェイナーだ。晶斗も協力して、空間に干渉できる装置を使い、すぐにユニスを本来あるべき時間に引き戻してくれた。

 しかし、それも時空間の歪みの接点が確定されていたからだ。


「どうしょう。あの古代理紋があった遺跡の場所さえわからないなんて……」

 戻れない。

 シェイナーには自分の居る空間の歪みを矯正(きょうせい)する能力が備わっている。自覚無く、歪みや時空間の混乱に巻き込まれることはないと云われていた。

 それなのに。

 プリンスと晶斗も一緒だったのに。

 ユニスは独り、ここへ飛ばされてしまった!

 頭の中が真っ白になる。

 時空間の果てで独り。何故かシェインも使えない。

 動けば良くない事が起こりそうな気がして怖くなる。

 この場でじっとして、プリンスや晶斗が捜しに来てくれるのを待つか。

 それとも勇気を振り絞って移動するか。


 ……でも、どこへ行けば良いのだろう。


 丘の麓から、細い煙が何本も立ち上っていた。煙一本ずつの間隔は適度に開いている。たぶん、家家の(かまど)の煙だ。人が生活している印。

 古代理紋のあった森の近くに、こんな丘や人の住まう村は無かった。

「村があるのなら……シェイナーもいるかしら?」

 時空間がずれていても、ここはシャールーン帝国のはずだ。

 シャールーン帝国では、古代より各村に必ず一人、村の相談役や賢者や医師としてシェイナーが駐在していた。そういった賢いシェイナーになら、時空間の歪みやユニスのシェインについても相談できる。


――とにかく、あっちへ行ってみよう。

 ユニスは丘を降った。

 中腹まで降りた時、木木の密生する手前で、銀色が閃いた。

 ユニスは目を凝らした。

 次の瞬間、ユニスの前に、銀の髪の男が立っていた。

「空間移送してきたのッ!? シェイナー」

 ものすごく背が高い人だ。彼の顔を見るのに、ユニスはうんと顔を仰向けた。身長は二メートル以上、いや、三メートル近くあるだろう。均整の取れた体格だ。白い服は動きやすそうな簡素なデザインの上着とズボン、足には動物の革製らしいブーツを履いている。肌色は色素が薄く、青白いほど。銀色の長い髪は首の後ろで一つに束ねられている。ユニスを見下ろす目は、黒い……いや、深い藍色(あいいろ)だ。細面の整った顔立ちは、どこかがプリンスを連想させた。その顔の造作はあきらかにシャールーン帝国の民の、民族的特徴を備えている。それも貴族階級に属する人種との類似点が大きく感じられた。

 男が口を開いた。

「君は人間だね」

「うそ、しゃべったッ!?」

 プリンスを連想させる藍色の瞳を見上げながら、ユニスはへたりこんだ。

 白い巨人は少し困ったような優しい表情で、ユニスを見下ろしていた。


「わたしは*****だ」

 と、巨人は、名前らしい響きの語を発音した。その名前だろうと思われる単語は、ちゃんと聞き取れたはずなのに、ユニスには記憶の中でさえ再現できなかった。

「あの、わたしは、ユニスです」

「ユニス? それが君の呼び名か」

 巨人の唇が、名前を呼ぶところでゆっくりと動いた。

 会話するときの唇の動きと音声がずれている。

 シェインによる心話(テレパシー)だ。ただ、完全には通じていない。

 複雑な意味を含む名称や単語は、お互いに共通する知識や認識があってこそ解るもの。発音さえ掴めない巨人特有の単語は、ユニスのシェインを含む能力と理解力の範疇外にある。

 ユニスは首を傾げた。今のユニスはシェインを使えない。つまり心話もできない状態だ。彼と意思が通じるのは、彼がシェインで一方的にユニスへ心話を送信しているからだ。

――この人は、すごく強いシェイナーなんだわ。

「わたしの村へ行こう。人間の住む集落は、ここから遠く離れている。君の足では今日中には行けないよ」

 白い巨人は、ユニスをひょいと抱き上げ、自分の左肩に座らせた。

「ここは我々*****が住んでいる。我々は****から来た。君は非常に変わった人間だな。どこから来たんだい?」

「ええと、その……時空間の歪みから、ってわかるかしら」

「ああ、歪みに巻き込まれたのかね。それは可哀想に……」

 ユニスと話をしながら、白い巨人は丘を降った。

 歩幅が大きいから、あっと言う間に丘の麓まで来た。

 森に入った。森の中には細い道があった。

 ユニスが通過する森の景色を眺めていたら、村の入り口に着いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ