表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルーンゴーストⅡ『コルセニーの紋章』  作者: ゆめあき千路


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/75

037:魔物の紅玉は乙女に惹かれる

 氷狼が、晶斗の前に降り立った。たちまち、雪の結晶となって砕け散った。

 ユニスの真上から、雪の塊がドサッと降ってきた。

「ぎゃあ、なに!?」

 ユニスは頭の上まで積もったサラサラの雪から這い出した。頭数から察するに、ユニスを狙いに来た氷狼だろう。晶斗を襲ってから飛び回っていたヤツだ。

 プリンスに斬られた一番大きな一頭が、氷狼の(かなめ)だったらしい。ボスが滅ぼされた時、部下もボスの運命に従ったのだ。

 

「アンタ、すごいな。最後のは、太刀がぜんぜん見えなかったぞ」

 晶斗の声には悔しさが滲んでいた。神の(ディバイン)(ボーンズ)の剣をガードナイフの大きさに戻し、胸の前の鞘に収めた。視線はプリンスの太刀に注がれていた。

最後の大物に止どめを刺したのは、プリンスの剣技の冴え。

護衛戦闘士(ガードファイター)に見ぬかれるようでは、魔物狩人の看板は背負えませんよ。一頭も(よみがえ)ってこないところを見ると、氷狼のトラップは終わりのようですね」

 晶斗とプリンスは、ようやく、背中合わせの位置から離れた。

 地面は砕けた氷狼の雪の粉で一面白く染まっている。

 その上に、ポツンと黒っぽい小石。

 プリンスが拾い上げた。

「魔物の紅玉(ルビー)か……。雪の結晶が氷狼に結束するとき、混じった石が圧力で変化する宝石(いし)。昔、狩人はこの貴重な宝石を手に入れるため、わざと危険な狩りに出たそうですが……あげます」

 紅い粒がユニスの手に置かれた。小指の爪ほどの紅玉だ。

「狩人の若者は、恋人へ求愛する時の贈り物にしたそうですよ」

「こっちにもあった」

 晶斗は足下に落ちてた紅い粒を拾い、ユニスの手に落とした。

「俺のもやるよ」

 二つの紅玉を、ユニスは右手の平で転がした。

 魔物の宝石は珍しい。血のように鮮やかな紅い石だ。

 白い地面にはもう落ちていない。宝石としても上質だ。市場に出せば、同じ大きさの紅玉よりはるかに高値が付く。ありがたく頂戴しておくことにした。

「嬉しいわ、二つあるからイヤリングにする」

 ユニスは、右肩上に手を上げた。空中に隠してあるシェインのポケットから、ピンクの巾着袋を掴み出す。ハンカチに紅玉を包んで巾着袋に仕舞い込み、シェインのポケットに投げ戻した。

「それで、コルセニーの紋章はどうなった?」

 ふいに、晶斗に聞かれ、ユニスは、即答できなかった。この状況下でシェインが使えなくなったとは、非常に言いにくい。

「それなんだけど、ディバインボーンズで壁を斬ってもらおうと思って……」

 ユニスが言葉を濁すと、

「だから、どこだよ?」

 晶斗は左右を見回した。

「え?」

 ユニスは壁に向き直った。

 古代理紋は消えていた。残っているのは、菱形の黒い跡だけだ。

「ユニス、どこへ片付けたんですか?」

 プリンスがやんわりと訊く。

「知らないッ。わたしじゃないわ」

 ユニスは首を横に振った。ブンブンと音がしそうな勢いだ。

「何かシェインを使いましたか?」

「ホントに何もしてないから! 絶対に、シェインも使っていないわ。古代理紋には触ったけど、ビクともしなくて、どうにもできないから、あとで剣かナイフで斬ってもらおうと考えていたのよ」

 ユニスは必死で首を横に振った。二人が驚いたのと同じくらい、ユニスも驚いた。

「これもトラップかな。俺達が氷狼の相手をしている間に、古代理紋が勝手に避難するなんてあるか? どこかその辺に落ちていないかな」

 三人で辺りをゆっくりと眺め回した。

 地面が白くなっている他は、特に変わったものは見出せない。

 プリンスが古代理紋のあった壁に近付いた。

「二人とも、ここを見てください」

 壁は一面、暗い土色だ。古代理紋があった菱形の跡すら無く。

 晶斗は壁に手を当てた。

「固いな。この辺にあったはずだが、俺がナイフで(えぐ)りかけた穴の跡も無いぜ?」

「古代理紋の存在そのものが失われたのね。まるで、ロミさんのいたあの研究所の中身みたいに、きれいさっぱり消えちゃった、ってことかしら」

 三人で顔を見合わせた。

 晶斗とプリンスは、いつもは何が起ころうと感情の変化を悟られはしない。だが、今日ばかりはともに表情が張り詰めている。ユニスにもわかるほどにだ。現実ではあり得ない異常事態。シェインや剣の技では対応できない、異常な事態。それでも、夢ではなく、現実。

「外へ出ましょう。ここには我我の知らない時空間の歪みがあるようです」

 通路を戻ると、外への(ゲート)は開いていた。どうやら、先刻、鍵を開けた状態のままらしい。

 ユニスが先頭に立った。肉眼では見えない空間の位相を通り抜けた。小走りに入り口を昇りきる。

 陽の差し込む『(おもて)』に出た。

 これで安心だ。

 ユニスは振り向いた。

 そこには、森の木々は無く……。

 三百六十度に開けた自然の風景が広がるばかり。

 見たこともない丘の頂上だった。

「晶斗? プリンス?……どこ?」

 ユニスは独りになっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ