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ルーンゴーストⅡ『コルセニーの紋章』  作者: ゆめあき千路


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035:雪の魔神は使い魔を顕現させる

 ユニスは古代理紋に意識を集中させた。

「これに似た物をどこかで見た気がするけど、発動の鍵は何だったのかしら」

 白くけぶる視界の中で、壁の中央だけが淡い銀色に輝いている。

「キイワードとなるきっかけは言葉ではなく、侵入者そのものか、あるいは理紋を取ろうとする行動でしょう。これはコルセニーの理紋の力を使った(トラツプ)です」

 プリンスが発音したコルセニーという言葉に呼応するように紋章の光りは強くなり、辺りを煌々(こうこう)と照らし始めた。


 あちらこちらで、光る冷気の(もや)凝集(ぎょうしゅう)していく。フワフワと空間を漂い来て固まっていく。

 やがて白い獣のシルエットが、そこかしこで立ち上がった。


「おい、そこの二人、シェインを使えるなら、デカい明かりをくれ。こいつらは魔物なのか?」

「そうらしいですね。これだけ同じものが複数同時に出てくるのは、私も初めて見ます」

 晶斗の求めに応じて、プリンスは左手の上に、黄色みを帯びた光の球を五つ出現させた。光の粒子をシェインで固めた輝きの結晶だ。

 プリンスの手首の一振りで、光球は五つの異なる方角へ投げ上げられ、天井に貼り付いた。辺りがたちまち真昼のように明るくなる。


 ふさふさした白い毛並みが揺れた。

 グウゥ、と大きく伸びをしている。剛毛の下に潜む強靱(きょうじん)な筋肉がしなった。額の中央に大きな一つ目。それはダイヤモンドさながらに透明な光を湛え、牙のある大きな口は耳まで裂けていた。


 プリンスは太刀を抜きはなった。

「サンソスの(こおり)(おおかみ)です」

 プリンスと晶斗は、古代理紋とユニスを背後にして、半円に取り囲まれた。

 その数、九匹。

「雪の魔神サンソスの使い魔です。人間を凍らせ、生きたままむさぼり食うという。シャールーン帝国の遺跡地帯で、真冬の、特に寒い夜に現れるという伝説の魔物です」

「ハッ、馬鹿なんだな、出る季節を間違ってるぞ。こいつでヤツの毛皮を斬れるか?」

 晶斗の白いガードナイフの刃が、シュッと伸びて片刃の剣になる。(ディバイン)(ボーンズ)の剣だ。ダイヤモンドすら切れるこの世でもっとも硬い(やいば)

 プリンスはうなずいた。

「もちろん、と言いたいが、サンソスの氷狼の毛皮は鋼鉄の装甲並みです。一撃で止めを刺すのは難しいので、一つ眼を狙ってください、そこが急所です」

 プリンスはユニスに向いた。

「今のうちにコルセニーの紋章を壁から外して下さい。もう発動したから、触ってもシェインを使ってもかまいません。とにかく早く」

 ユニスは思いきって理紋の縁に触れた。理紋のボードの縁に両手を掛けて引っ張ってみる。

 びくともしない。

「ああ、もう、どうすればいいのよ。……ん?」

 ユニスは手を止めた。古代理紋に触れている指先から妙な感覚が伝わってくる。


――なんか、懐かしいような?


 ユニスは目の前の古代理紋を凝視した。見た目だけが似た銀色の理紋なら、市販品でもいろいろ売っているが。

「でも、これは違う。まさか!? わたし、同じ物をどこで見たの?」

 ユニスは古代理紋の表面にべったり手を当てた。はめ込まれた九つの白い貴石を指先でなぜてみる。そうすると、記憶の底からおぼろげな映像が浮かんできた。

 いつか、どこかで、月光に輝く銀色の理紋を見た。

 それは遠い遠い昔の記憶。

 幼いユニスが、生まれて初めて見た古代理紋。


「これは『セビリス』よ!」

 ユニスは叫んだ。


「コルセニーじゃない、セビリスなんだわ。言い伝えにある氷の女神にして女悪魔の。昔、わたしが子供の頃に故郷の洞窟で見つけた、セビリスの紋章!」

ユニスの背後で、氷狼の唸り声がした。一頭が晶斗とプリンスの防壁の隙間からユニスを狙い、右に左に、動き回っている。

 プリンスが顔だけ振り返った。

「間違いないですか。セビリスの理紋を目にしたのは、現代ではあなただけです」

喋りながら、プリンスが移動した。

 ユニスが振り向いたら、プリンスの背中しか見えなかった。真正面にいた氷狼が見えない。プリンスは、ユニスを狙う位置にいる氷狼の目からユニスが隠れるように、立ち位置を変えたのだ。

 と、晶斗がプリンスの左側へ音も無く歩み出る。

 二人は言葉も交わさず、自然な態で互いの死角を守りあっている。

 ユニスは息を呑んだ。二人ともすごい。こんなふうにして組んで戦うのは初めてだろうに、相方の息を読むのが絶妙だ。

 これが東邦郡一と呼ばれた護衛戦闘士と、シャールーン帝国で並ぶ者無しと称えられた剣士の実力なのか!

「ええ、絶対よ。親友のマユリカも一瞬見たかもしれないけど、あの時、理紋のすべてを吸収したのは、わたしだもの」

 その時、氷狼達の一つ目が、ギョロリと同じ方向へいっせいに動いた。

 まるでユニスの言葉を理解したかのごとく。


「それなら、この寒さの説明がつきます。ユニスの能力と同じに、セビリスは雪と氷と極低温を司る女神です。強力なのも道理、領域を護るために、あらゆるモノをはね返す結界の力が宿されているんでしょう。強盗団は知らなかったようですが」

「コルセニーでもセビリスでもどっちでもいいが、俺にもわかるように説明してくれッ。セビリスとサンソスの氷狼との関係は?」

 晶斗はじりじりと後退していた。晶斗に四頭、プリンスに三頭。氷狼はプリンスよりも先に、晶斗の方へ戦力を割くつもりにしたようだ。

「伝説では、雪の魔神サンソスはセビリスの眷族(けんぞく)です。ですから、ユニスのシェインの力と同系列なはずですが」

 プリンスは前に一歩出た。

 氷狼達は動かない。

「だったら、ユニス、こいつらをコントロールできないのか?」

 晶斗の提案に、ユニスは左肩越しに晶斗へ振り向いた。

「そんなの無理よ! 考えている余裕も無いから、スパッと退治して!」

 サンソスの氷狼が放つ凶暴なシェインの波長は初めて感じるもの。ユニスにはさっぱり理解できないから、分解することもできない。


 刹那、氷狼が一斉に襲い掛かってきた。


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