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ルーンゴーストⅡ『コルセニーの紋章』  作者: ゆめあき千路


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23/75

023:時空間の狭間

 サロンルームの中央、床の一メートルほど上方に、薄黒いもやが浮かんでいた。

 その空間に薄黒い三日月形の亀裂が入っているようだ。

 もやは、ぐるぐると流動しながら大きくなった。目を凝らして見れば、黒い粒子の集合体だ。どんどん色合いが濃くなる。粒子が密度を増していく。

 見る間に、ひと抱えほどもある球状に膨らんだ。それがグニャリと上下に伸びて、刻一刻と形状を変えてゆく。

 やがて、人間らしい五体を備えた後ろ姿と成った。

 長身の男だ。黒いガードベストに腰の後ろの大型ガードナイフ。ユニスがよく知っている護衛戦闘士の装備だ。

「晶斗?」

 ユニスは、そろり、と左側から前に回った。

 短い黒髪、日焼けした額に迷彩色のバンダナを巻いた精悍な顔。

 やっぱり晶斗だ。左腕を曲げ、左手首の腕輪型センサーに真剣な目を注いでいる。その口は何かを呟くように動いている。

「なに? なんて言ってるの?」

 何も聞こえない。ユニスは晶斗の口元を必死で見つめた。

『ゆ・に・す』

 確かに、そう動いた。ユニスに読み取れたのはそれだけだ。

 晶斗が目線を上げた。顔は動かさずに、目だけを動かして左右を見渡している。ユニスの幻覚でなければ、晶斗には、ユニスが見えていないのだ。

――もう、夢でも幻でも、なんでもかまわない!

 ユニスは晶斗の視線を捉えたくて、一歩だけ前に出た。


 いきなり、晶斗の声が聞こえた。


「……か? 俺はこの時空間の歪みの狭間に立っている。こっちからのアプローチはこれが限界だ。ここは不安定で時間がおかしい。ユニス、俺の前に来い。ユニス、聞こえるか? どこにいるんだ?」


「晶斗!」

 ユニスは両手を伸ばした。

 手は空を切った。

 晶斗には実体が無い?

 違う、時空間の狭間にいるから、ユニスとは空間の位相がズレているだけだ。

 ユニスは立ち位置を変え、晶斗の真正面から両腕を差し伸べた。

 突然、晶斗の右手がサッと伸びた。左腕を掴まれた。力強い腕がユニスを引き寄せ、ガードベストの硬い胸にユニスの額がぶつかる。

 しっかりと抱きしめられた。

 確かな現実の手応え。


「確保したぞッ!……うわあッ、なんだこれッ!?」

 救出成功の嬉しい表現にしては、晶斗の反応はおかしい。

 晶斗の胸にすがりついたまま、ユニスは恐る恐る上を向いた。

 ユニスを両腕に抱えながら、晶斗は前を向いてあんぐり口を開けていた。

 近くに立つプリンスとアイミアも目を瞠っている。この二人がいるということは、ユニスは無事に元の時空間へ戻って来たのだ。

 ユニスのすぐ後ろで、上ずった声がした。

「な、なんで、ここに、プリンスが、いえ、宰相閣下がいらっしゃるの。ここはどこで、あなたたち、だれなのよ?」

 ユニスの長い髪の先をしっかり握って、ロミがへたりこんでいた。


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