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015:噂には深層がある

「なにって、その生意気なコをちょっと、おとなしくさせただけよ。女同士、話し合いでね」

 アイミアはつんと顎を上げ、高飛車に言い切った。

「この娘が冷凍少女(フリーザーガール)なら、もう少し丁寧(ていねい)に扱え。お前よりは使えるシェイナーだからな」

 彼はあからさまに不機嫌な声になった。


「あら、言ってくれるわね、シェイナーくずれの盗掘屋が。忠告してあげるわ。この()、まるで使えないわよ。ろくな訓練もせずに、本能だけで遺跡を飛び回っている遊び人だから」

「それでも強い能力者なんだろう。冷凍少女は遺跡荒らしでも有名じゃないか。この前、蹴砂の街では、遺跡を二つに村を一つ、完全破壊したそうじゃないか。五千人の村人が黄砂都市の警備隊に救助されたと聞くぜ。すごい破壊力じゃないか!」

 首領の発言に、あからさまに小娘と馬鹿にしていた男達の視線が、感心するふうな目付きに変わった。


 それは良いとして、なぜ、晶斗とプリンスまでユニスを見るのだ?

 ユニスはがっくり顔を俯けた。

 噂に尾ヒレが付くのはいつものことだ。それに今聞いた噂の元ネタになった事件には、晶斗とプリンスもしっかり加担していた。ユニス一人に注目するのは間違っている。


「この娘はね、訓練された能力者のように、ある特定のモノに焦点を絞ってコントロールする、というのができないのよ。ようするに、シェイナーとしての技術がないの」

「どうせ、破壊に使うだけだから、細かい作業はどうでもいいんだよ。あの黒いチョーカー、封印の呪紋を掛けたな。解呪(かいじゅ)のキィワードは?」

「だめよ、ボスにも教えられないわ。あんたたち、顔の割に根が甘いから、女の子にコロッと(だま)されるわよ。それより、その男、使えるけど、どう?」

 アイミアは、親指でクイとプリンスを差した。

 首領は大型銃をプリンスに向け、にやにやした。

「これはこれは、シャールーン帝国の宰相閣下ともあろう御方が、こんな僻地で跡形も無く果てたら、さぞかしすごいニュースになるでしょうな」

 男達がドッと笑った。

 ユニスはゾッとした。プリンスの性格がその美貌と真逆なのを知っていれば、とても笑えないだろうに。ユニスがプリンスをよく知る人物から聞いたのは、その場での処刑も自らの手で執行する性格だとか――恐る恐る様子を窺うと、プリンスは平然と首領を見返していた。

 笑わない者達の目は、プリンスの顔に釘付けになっていた。何人かは(かすみ)がかったような表情で、ボケッとしている。プリンスの美貌に魅了されるのは男も女も無いらしい。

「ここでアンタを殺したらさぞ面白いだろうな、皇族の大公さんよ。それとも次代の皇帝の身代金を取った方が得かな。もっとも、何をしても危険な橋を渡るくらいのことはわかっているさ。だから俺達はコルセニーの遺産で我慢しておくつもりなんだ」

 首領は銃口を下ろした。

「お前らがコルセニーの使徒なんだろ。古代理紋を持ってるにしちゃ、賢いやり方じゃないな」

 晶斗がいつの間にか、ユニスの前にいた。

 ユニスは晶斗の背中を見つめて息を呑んだ。ずっと庇ってもらっていたことに、今さらながら気付く。――まずい。晶斗の目には、ユニスとアイミアのやりとりが、どう映ったのだろう? 誤解していなければ良いのだが……。

「あんたは東邦郡のシリウスだろ。腕が立つのは聞いているぜ。仲間になるなら歓迎するが?」

「強盗団と組んでも俺に得があるとは思えんな。今すぐ俺たちを自由にする方が賢明だぞ。シャールーンの警備隊が来る前に投降しろ」

「それこそ冗談じゃないぜ。いいから、ちょっとこいつを見てみろよ。あんたは遺跡に馴染みのある護衛戦闘士だ、俺たちが手に入れようとしているお宝が何か知ったら、協力するのも悪くないと思うだろうよ」


 男はもったいぶって、ポケットから何かを取り出した。小さくて(まる)い銀色の、紋章が刻まれたメダルのようだ。


「神々の理紋ですね。……確かに本物だ」

 プリンスが呟くように言った。

 それでユニスにもわかった。プリンスが探していたのは、これだ。

「そう、古に失われたという伝説の、『コルセニーの紋章』だ。神殿にさえ伝承されていない、新発見の、超強力な古代理紋さ。まさに神々の力そのものだ」

 古代の女神コルセニーの使徒を自称する男は、歯を剥き出して笑った。


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