表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/75

014:乙女の真意

「サイメス製の空間干渉装置よ。これを作動させている間、圏内に居るシェイナーはシェインを使えないし、シェイン系の機器も稼働できない。でも、サイメス製の爆弾は爆発させられるわ」

 アイミアが左手に持つ装置をユニスは凝視した。以前、よく似た物を別の場所でも見たことがある。その時と同じように透視が利かないから、本物に間違いない。


「君が私を裏切るとはね」

 プリンスの言葉を聞いたアイミアは、唇をギュッと引き結んだ。が、すぐにニッとふてぶてしい笑いに変えた。

「アイミアさ……」

「ユニスは黙ってなさい!」

 アイミアはユニスをジロリと一瞥した。

「大公殿下を裏切るなど、心臓を抉られた方がマシですが、これも仕事ですわ。理解していただくしかありませんわね。太刀をこちらにくださいませ。あなたもよ、シリウス、そのガードナイフをこちらに寄越しなさい!」

 アイミアの指示通りに、プリンスと晶斗は太刀とガードナイフを床に置いた。アイミアがつま先で触れると、プリンスの太刀が消えた。晶斗がチッと舌打ちする。

「シェインで隠したか。さすが、守護聖都のシェイナーだな」


 アイミアは干渉装置をベルトにつけ、晶斗のガードナイフを左手で拾い上げた。

「いいナイフね。これは私がもらっておくわ。お嬢ちゃんは武器を持っていないけど一番危険だから、シェインを封じさせてもらうわよ。それを首に巻きなさい」

 どこから出したのか、アイミアは左手で黒い紐をユニスに放った。

 足下に落ちた黒い紐を、ユニスはゆっくりと拾い上げた。

「わたし達を敵に回すなんて、おばさん、いい根性してるわね。シャールーン帝国で生きていけると思っているの」

「シェインの封呪(ふうじゅ)を編み上げたチョーカーよ。こちらに向けて留め金を掛けなさい」

 ユニスが黒紐を手にしてプリンスと晶斗を見ると、つけろ、と二人から目で指示された。紐は細い金属の糸を寄り合わせたもので、留め金に透明な石が付いている。ユニスは紐を首にかけ、前で留め金を止めた。

「はずすためのキィワードは私だけが知ってるわ。これで、お嬢ちゃん、あんたは私に逆らえない。まず、おばさんと呼ぶのをやめなさいね。でないとひどい目に遭わせるわよ」

 睨みつけてくるアイミアの目を、ユニスはまっすぐに見据えた。

「わかったわよ、おばさん」

 ユニスはふて腐れた口調でそっぽを向いた。

 バチンッ!

 凄まじい音がユニスの左頬で聞こえた。

 ユニスは後ろへ倒れかけ、途中で止まった。背後からプリンスに抱き止められている。ユニスは右手でプリンスの腕に縋りついた。左手で左耳に触る。晶斗の手が顎を持ち、顔をグイと上向かされた。涙で潤む右目に、晶斗の顔は歪んで見えた。

「くそ、何をしやがったんだ」

「え?」

 ユニスは目を瞬いた。左の頬が急速に熱くなってきた。左手を頬に当てた。目の下までがぷっくりと()れている。ただの平手打ちじゃない、何か付けられた!

「アイミアさん、どうし、て?」

 ユニスは晶斗を押しのけ、プリンスから離れてひとりで立とうとした。が、視界がグラリと揺れた。ふと我に返ると、ユニスはプリンスの腕に抱え込まれていた。ヒヤリと冷たい指先がユニスの左頬に触れた。

「アイミア、次から殴るのは私にしなさい」

 プリンスは珍しく低い声だった。

「いいえ、閣下、この()に受けてもらうのが一番効果的ですもの。さあ、そろそろ上に行きましょう、仲間に紹介するわ」

 アイミアが促すと、晶斗がユニスとプリンスの前に立った。

「よほどいい条件で契約したんだろうな。武器も人数も、ただの強盗団のレベルじゃない。相手はどこの組織だ。サイメスか?」

 晶斗が訊ねると、アイミアは声を立てて笑った。

「噂より頭が切れるじゃない、東邦郡一の護衛戦闘士は。自分の目で確かめればいいわ。さあ、三人ともフロアにもどってちょうだい」


 アイミアに追い立てられ、晶斗を先頭に上階の玄関フロアへ戻ると、男達がざわついた。先に拘束された者達の拘束が解かれている。彼らはまだ失神から醒めていないので、床に転がったままだ。

 武器を携えた男達は、遺跡地帯でよく見かける護衛戦闘士(ガードファイター)と発掘家の中間みたいなガードベストや防護服(プロテクター)を着込んでいた。その顔はいずれも無精ヒゲや傷痕(きずあと)で覆われ、ハンサムとは言い難い。彼らの人相に共通するのは、長年の荒くれ仕事で(きた)えられたと覚しきふてぶてしさだった。

「お、アイミアか。こいつら、誰だ。なんでここにいるんだ?」

 その男は手に、小型衝撃波爆弾(ショックウェイブ・ボム)を持っていた。晶斗が玄関に仕掛けたやつだ。切られたコードがぶらさがっている。コルセニーの使徒は、晶斗が巧妙に仕掛けておいた罠を看破し、短時間に難なく解除したらしい。晶斗もそれに気付いたようだった。

 コルセニーの使徒には、晶斗みたいな一流と呼ばれる護衛戦闘士、あるいはそれに等しい腕を持つ元軍人か傭兵がいる。そこら辺の無法者(アウトロー)を寄せ集めた団体ではなさそうだ。

「ご挨拶ね。契約通り、冷凍少女を取りにここまで来たのよ」

 プリンスに抱えられていたユニスは、俯いていた顔を上げた。

 急に辺りが、シン、とした。

「おい、その女の子に何をしたんだ?」

 ユニスは声がした方を見ようとしたが、左頬の痛みが強烈になり、左目の目蓋(まぶた)が半分塞がってしまった。涙が止まらない。右目だけの視界に映ったのは、太い眉をギュッとしかめた無精ヒゲ面の男だった。

 先ほど監視カメラの画面で先頭にいた首領だ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ