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010:乙女の信念

 守護聖都フェルゴモールでいったい何があったのか?

 ユニスと晶斗はプリンスに詰め寄った。

 プリンスは涼しい顔で「詳しいことは守護聖都に戻ってから」と、教えてくれなかった。


「この仕事、受けるんじゃなかったわ」

 アイミアは形よい唇をとがらせた。

「えらく弱気だな。シェイナーで護衛戦闘士(ガードファイター)なら、俺より仕事はやりやすいんじゃないか」

 同業者だから話しかけやすいのか、晶斗の口調は軽い。

「東邦郡のシリウスと比べて欲しくないわ。しかも一緒にいるのが氷の女悪魔セビリスの再来と有名な破壊の権化、冷凍少女じゃないの。これを災難といわずして何というのよ」

 アイミアは三日前に、遺跡探索関係の代理人(エージェント)を通じた仕事の依頼を受けた。

 渡されたのが、この自然地区付近の詳細な地図だ。

 政府の管理地近くなのは知っていた。遺跡地帯の境界線に沿って移動するうちに、この廃墟へ辿り着いたという。


 建物から外に出ると、辺りが急に暗くなった。

 雨だ。

 飛空艇が来るまで中で待つしかない。

 ユニス達は建物の中に戻った。

「アイミアさん、わたしと会ったことはなかったっけ?」

 機材の箱を椅子代わりに適当に座ったところで、ユニスは唐突に話しかけた。

 ユニスの対面に腰掛けたアイミアは、あからさまな困惑を浮かべた。プリンスをチラリと見てから、ユニスに目を戻す。

「きっと、『サイト』で見たのね。この前、インタビュー記事が載ったから」

『サイト』は遺跡(サイト)ハンター必見の遺跡情報誌だ。遺跡地帯で活動する護衛戦闘士の特集も組む。腕の立つ護衛戦闘士の美女は良いネタだろう。

「へー、そう。わたしは知らないわ。そういえば、さっきは宰相閣下のことを『プリンス』って呼んでたわね?」

 ユニスは大きく首を傾げてみせた。

「シャールーン帝国では、宰相閣下のことをそう呼ぶじゃないの。国民のアイドルですものね。いったい、何がいいたいわけ?」

 アイミアはプリンスと晶斗へ助けを求めた。二人ともユニスの意図を知ってか知らずか、プリンスはポーカーフェイス、晶斗は肩を竦める。

 ユニスは、ここぞと息を吸い込んだ。

「アイミアさんは守護聖都の護衛戦闘士で、シェイナーでしょ。わたしの推理が正しければ、七星……」

 だが、ユニスの言葉は、プリンスによって遮られた。

「アイミア・葉姫(ようき)・リフレートは、私の七星華乙女会十二幹部(かんぶ)の一人です」

 一拍の、空白めいた沈黙が落ちた。

「はあぁッ!? ずっとユニスの監視をしてたっていう、例のあれか。しかもアンタが幹部かよ?」

 晶斗が不気味そうに横目でアイミアを見やる。

 アイミアは左手で額を押さえた。

「やめてよ、人を犯罪結社のボスみたいにいうのは!」

「違うのか? ルーンゴースト大陸の裏社会じゃ聞いたことは無いが……。だったら、なぜユニスの監視なんかしてるんだい?」

 晶斗は本当に知らなかったらしい。

「失礼ね、七星華乙女会は、宮内省公認のファンクラブなの。純粋に、プリンスをお慕いする乙女が、ときどき集まってお茶会をしているだけよ。ユニスもプリンスファンなら参加するべきでしょ!」

「長年、監視して脅迫してたくせに、なにが乙女よ。アイミアさんがここに来るなんて、やり過ぎだわ」

 ユニスは冷たく言い放った。

「だから、それは関係ないってば。もう、こんな形でプリンスとお会いすることになったのは、こっちだって、恥ずかしい限りなんだからね」

 アイミアは真っ赤になり、両手で顔を覆うと、膝に伏せた。

「けっきょく、わたしは騙されていたのね。アイミアさんの大嘘つき!」

 ユニスが呟いた途端、ホールのあちこちから、ピシーンッ、パシーンッ、と鋭い音が鳴り始めた。どこからともなく白い(もや)のような冷気も漂ってきた。

晶斗が、ギョッとして、音の発生源を探して辺りを見回している。

「な、なんだ、この音。騒霊音(ポルター)かよ。ここって、何か出るのか?」

 晶斗にはわからないだろう。

こういった現象は、そのほとんどが原因不明だ。

 まれに目に見えないエネルギー体が浮遊していることもある。

 幽霊の仕業なんて呼ばれたりすることもあるが、これは違う。

シェイナーのプリンスとアイミアは音の正体を解っているから、何も言わない。

 そう、ユニスの仕業だ。

 プリンスがいち早く天井を見上げた。

「半分はユニスの怒りの波動ですね。ほら、あちこちに氷柱(つらら)ができています。感情の乱れだけでここまでの現象を引き起こすシェイナーはめったにいませんが……」

 空気が急速に冷えた。天井から垂れ下がった何本もの氷柱がキラキラ光る。

「うわッ、寒いッ、これをするから氷の女悪魔なんて呼ばれるのよ。そんなに怒らないでよ、だって、あなたにはいろいろ悪かった、と思ってるだから!」

 アイミアが両手を前に突き出して立ち上がりながら、慌てて弁明する。

「あ、そう。わたしのことは気にしないでッ!」

 ユニスは勢いよく立ちあがった。

 直後、アイミアは床を蹴って跳びずさった。

 室内の照明が、消えた。


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