一時の婚約者 -クレール目線-
致命的なことに今更気が付いました。
ヒーローが自分のことを“私”と言います・・・・苦手です。泣
『ぐるしーーーー!!!』
ゲイルの手から逃れようと、2人で取っ組み合っている姿を見ながら、考える。
今、明らかに私の名前が出た。
戸惑いを隠せない私に、ゲイルの手からようやく逃げたビスターは涙目で首を摩ってい言葉をつづけた。
『あー、殺されるかと思ったぁ~。って、何、じゃあゲイルは妹ちゃんをクレールに任せる為に来たのか?』
すると、ゲイルは今までよりもより眉間に皺を寄せ、私を見た。
あ、この顔はあれだ。
学生時代、ゲイルの資料作成の手伝いをした時。
あの時、本当はゲイルは自分だけで作りたかったらしい。
しかし、範囲も規模も一人では難しく、同室の私に応援を頼んできた時と同じだ。
多分、自分が2人いたらやれるのにとか思ってる顔をしていて、少し心に余裕が出来た。
するとそれを感じたのか、ゲイルも表情を緩め右手を差し出した。
『デビュー時の王宮舞踏会でのファーストダンス。お前にお願いしたいんだ。ただ、ファーストダンスは、血縁者か婚約者が決まりだろ?お前には、ラフィニアの一時だけの婚約者になって欲しいんだ。』
『一時だけ?』
『あぁ。』と返事をしたゲイルは、身体の前で両手を組んで、苦笑いをしている。
『実さっき、お前の家にも顔を出したんだよ。その時、お前のおふくろさん、すげぇー剣幕でお前を探しててさ。
俺にまで詰め寄って、“クレールがどこに行ったか知らないか?”って言ってきたんだ。で、話を聞くと、婚約破棄をした息子の、次の相手をすぐ見つけなくちゃって焦っててさ。』
あぁ…母は、ゲイルにまでその話をしているのか。
公爵夫人としてどうなのだろうか…。
まあ、気心知れてるゲイルで良かったけど。
俺が実家の有様に、苦い思いをしていると、ゲイルが悪いという顔をしながら話を続けた。
『で、どうだろうか。
お前、次の相手、こんな焦って決めたくないんじゃないか?実は、俺の妹も婚約破棄したばかりで、結婚だぁ婚約だぁって周囲の勧めがいやみたいなんだ。ここはお互いを利用して、ゆっくり心を癒してから将来の相手を見つけては、と思ってさ。』
ゲイルの優しい声に耳を傾けていると、今まで黙って聞いていたビスターが割り込んできた。
『でも、これでこいつと婚約して、お互い決めた相手が別の人でした。ってなったら、どーすんの?』
それはもっともな意見だった。
ゲイルはどう考えているのだろう。
『ラフィニアがこの王都にいるのは、デビューの為だけだ。この今年のシーズンさえ済めば、あとはずっと領地に帰還する。妹の結婚相手も、領地の者からゆっくり選ばせようって、親たちとやり取りをしてる。』
今年限りの婚約者。
そんな大役勤まるだろうか。心配で自分の手を握ると、ゲイルが俺の肩をたたいた。
『俺は、友人の中で一番お前を信用してる。お前ならラフィを任せられる。俺は一時でも、信用できない奴にラフィは託さない。どうする?』
ゲイルの眼は真剣だ。
本当に大事な妹君を私に託そうとしている。
その本気な姿に、握りしめた手を一度開きもう一度握った。
『はい。お受けします。…ゲイルが向けてくれた信頼に答えるよ。』
私が返事をすると、ゲイルは私の手を取って握りしめた。
そんな私たちの横で、
『要は、クレール以外の友人、俺含め、信用なんないって思ってるわけね、お前。』
じと目で見ているビスターを、ゲイルは『女関係に関してはな。』と、額に本気のデコピンをかまし、のた打ち回らせていた。
男3人でガヤガヤやった後、私は急いで自邸に戻った。
まず、婚約したい人が出来たこと。
その人が今日デビューするから、ファーストダンスを踊ること。これを親たちに報告した。
最初は驚かれ訝しがられたが、相手がゲイルの妹君だと聞いて安心してくれた。
礼服に身を包み、馬車でゲイルの妹君を迎えに行く。
初めてお会いするが、どんな方なのだろう。
自分はうまくやれるだろうか。
そして、ゲイルが紹介したのは、“彼女”だったのだった。
クレールばっかり。
そろそろおなごが書きたい!次話でドレスフリフリ書きたいです。
舞踏会だぁ~♪