男子たちの事情 -クレール目線-
長かったので切りました。
男子も大変です。
ことの起こりは、5時間前の話。
私は、ビスターの屋敷を訪れていた。
いや避難と言っていいのかもしれない。
何故かと言うと、婚約破棄をして以来、母が私を追い立てるのだ。
『早く次の方を見つけなさい!あなたは公爵家の嫡男なのよ?!』と。
そして、今日は特に鼻息が荒く私に迫った。
花嫁探しに絶好な社交場“王宮舞踏会”これを使わないでどうするのだと。
母は私の部屋に来ると、そわそわと動き回り、
『今夜すべての貴族が集まるわ。沢山のご令嬢を見て決めるのよ。あなたの為に、私も情報を集めるわっ。そうそう!今からメイドを寄越すから、頭の先からつま先までピカピカに、魅力的に変身なさい。いいわね!!』
そう捲し立てたかと思うと、嵐のように部屋を出て行った。
私は、このまま屋敷にいたのでは大変なことになると思い、そっと屋敷を抜け出した。
もともと男は夜会だろうと舞踏会だろうと、女性のように朝から仕度はしない。
せいぜい始まる3時間前に風呂に入り、礼服に袖を通すぐらいだ。
今日の王宮舞踏会の開始は7時からだ。
机の上に“3時には帰ります。”と置手紙を置き、家を出たのは、午前9時。
それから今までずっとビスターの家でゆっくりした時間を過ごしていた。
カチ カチ カチ ポーン ポーン
ビスターの部屋の時計が、午後2時を知らせる。
その音を聞きながら、私たちはチェスを楽しんでいた。
『しかし、お前も大変だな。さすが名家公爵家の跡取りだわ。』
面白そうに目を細めるビスターに、私はため息をついて目の前のチェス盤を見つめた。
これで3戦目。
私は白の駒を指でつまみ、マスを進ませる。
『そう言わないでくれ。…今は結婚とか婚約とか考えたくないだけなんだ。』
『でも、お前の周りは焦っているわけか。まぁ、お前だしな。』
『…どういう意味だよ。』
ビスターは長い脚を組み直し、黒のチェスを指でつまんだ。
『異性からしたら、お前はいい意味で紳士的、悪い意味で押しが弱い。ついでに気が弱いし頼りない。』
そう言い切ると、ビスターは駒を進める。
ビスターのナイトが私のルークを捉えている。
私は、顎に手を添え考える。
『…いい意味1つに、悪い意味が3つになってる。』
そっと右手で黒の駒を取り、白の駒をマスに置く。
なんとなく面白くない。
私は獲った黒の駒を盤の外に置き、腕を組んだ。
『本当の事だろ。お前、女は元婚約者しかしらないだろ?しかも、あんなお子様嬢ちゃん。男として経験値が無さ過ぎる。この年で。』
確かにビスターの言った通りかもしれない。
私は、元婚約者しかしらない。ビスターがいう男の経験値なんて、全然積んでないに等しい。
…だって、マリエッタにビスターが暗に言うどうこうをしたいと、まったく思わなかったんだから、仕方ないじゃないか。
ビスターが黒の駒で白の駒を獲る。そろそろこの勝負も終わりだ。
あと一時間で、屋敷に帰らないとさすがにまずい。
私は、白の駒を目指すマスへ一気に移動させる。
すると、ビスターが『待った!待った!!』と慌てた声を上げた。
私はせめてもの仕返しが出来て、口元で笑う。
この勝負、私の勝ちだ。
その時、部屋の扉をノックする音が響いた。
『いいぞ。』
ビスターが声を掛けると、扉が開きエタローン家のメイドと一緒に、悪友が顔を出したのだ。
『『ゲイル。』』
ビスターと私の声は重なり、案内され入室した友人ゲイルは、片手をあげて私たちに返事をした。
『よう。』
ゲイルが入ってきたので、私は退室しようと動くと、ゲイルに止められた。ゲイルの態度にいつもの雰囲気を感じず、私たちは戸惑いながらもチェス盤から立ち上がり、続き間の応接エリアへ足を運び、ソファーにそれぞれ腰を下ろした。
ビスターがメイドにお茶を出すように指示して、私はどうしたものかと視線を巡らせた。
『ゲイルがうちに来るなんて珍しいな。しかも今日は最愛の妹君のデビューの日じゃないか。今、忙しいんじゃないのか?準備とか色々。』
いつもと違う雰囲気は感じても、気負わず話しかけるビスターに、ゲイルは苦笑してメガネを上げた。
『あぁ。ラフィニアは家の者達に任せてきた。その、実は相談というか。なんというか。』
ゲイルは自分のメガネを押しあげ、天井を仰いだ。そして、ぼそっと『そのラフィのことなんだよな。』と呟いたような気がした。
私は何事だろうと眉を顰めビスターを見ると、ビスターも私を見ていて、お互いに軽く一回頷きあう。
『珍しいですね、ゲイルがそんなことを言うなんて。今夜の舞踏会でのことですか?』
『妹が行きたくないとか言ってるのか?』
私たちはゲイルが話しやすいように、明るい声で彼に話を促そうとするのに、ゲイルは眉間のしわを更に深くして、ため息を出した。
やはり妹君の事なのだろうか。
深く話を切り出そうとしたところで、メイドが私たちにお茶を持ってきた。
3人分のカップをサーブすると、メイドは一礼して部屋を出ていく。
これで邪魔ものはいない。
すると、ゲイルが唐突に発言した。
『今夜の舞踏会で、王女と踊ることになったんだ。』
ゲイルがボソッと呟き、置かれたカップを凝視している。
ビスターと2人、今聞いたことを頭で復唱して、目を見開いた。
『お前!ついにシルビアに落ちたのか!!』
驚きと比例するように大きな声で叫ぶビスターに、ゲイルは嫌そうな顔を向けた。
『落ちてねぇよ!!……俺自身もどうして申し出を受けたのか…不明。』
最後の方は聞こえないほどの声でつぶやき、お茶に口を付けている。
王女:シルビア様が、ゲイルを領地経営者としても異性としても好意を抱いていることは有名な話だ。
私でも知っている。
でも、ゲイルは絶対に首を縦には振ってこなかった。
今後もシルビアを受け入れる気はないと言っていた。
なのに、ゲイルは今夜シルビアと踊るらしい。
何か、2人の仲で心情の変化があったのだろうか。
私も自分の前に置かれたカップを持ち、喉を潤す。
すると、ビスターは『あれ?』と声を漏らした。
私はビスターの方を見ると、ビスターはカップを持ったままゲイルを見ている。
『お前がシルビア様と踊るんじゃ、妹は誰と踊るんだ?』
ただ不思議そうに声をあげたビスターに、ゲイルがそれは深いため息をついた。
『それなぁ………。』
そして地を這うような唸った声がゲイルの場所から響く。
どうやら、これがゲイルを悩ませている問題なのだろう。
その様子にニィーと笑みを浮かべたビスターは、ゲイルの肩に腕を回し、ふんぞり返っている。
『じゃあ、この俺が妹ちゃんと踊ってやるよ!なに、上手くやって見せるさ。なんなら、そのまま婚約して結婚してもいいぞ~♪お兄ちゃんっ!』
明らかにからかっているビスターに、ゲイルはブチ切れた!
ビスターの首を絞めながら、振り回している。
『お前になんて、ラフィニアやれるかぁ!!!!お前にやるくらいなら、クレールにお願いするわ!!!』
問題発言を聞いた気がした。
私が・・・・なんだって?!
続きます。
男子たちは集まるとこんな感じなのでしょう。