偶然と必然と緊張 -クレール目線-
緊張するさ、だっておなごが可愛いんだもん。
パカ パカ パカ ……
馬車の中の2人は、今無言のまま揺られていた。
私は今の状態が信じられず、じーっと自分の膝に穴が開くほど見つめていた。
ゲイルの妹君が、まさか公園で出会った彼女だったとは…。
急展開だ。
“R・C = ラフィニア=コンタージュ”
本気で探そうと思ったら探せた相手だったのだ。だってこんな近くにいたのだから。
だけどしなかったのは、自分が次に会った時、彼女とどう接したらいいか分からなくなると思ったから。
現に今、どうしたらいいか、気の利いた事一つ言えないでいる。
己の不甲斐なさに、ため息が出そうだ。
馬車に乗り込んだ時、向い合せに座る彼女を盗み見て、見過ぎるのも失礼だと思い、さっきから視線を上げることが出来ないでいた。
すると、向いに座るラフィニア嬢が、申し訳なさそうに頭を下げられた。
「…クレール様。あの、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。私のせいで貴方を巻き込んでしまいました。」
頭を下げ、伏せられた瞳。琥珀の瞳に元気がない。
私はそんな顔をさせたくて、一緒に行くのではない。
少しでも、自分の想いが伝わればと自分の出来る精いっぱいの優しい声音で彼女に話しかけた。
「頭を上げてください。…こんな大役をゲイルより仰せつかって光栄です。でも…私で良かったのでしょうか?自慢じゃないですが、ダンスはあまり得意ではないのです。」
「大丈夫ですわ。優しいあなたと一緒なら楽しく踊れると思います。」
「っ!」
今の言葉は反則だと思います。絶対耳まで真っ赤になっている。
私はゆっくりと視線を上げると、白のドレスに同色のロング手袋を嵌めたラフィニア嬢が微笑んでいた。
公園で会ったときのままですね、あなたは。
その笑顔はあの時のまま、春の陽のような笑顔。
まだ顔は暑いし緊張もしているが、さっきよりは車中の空気が軽くなった気がした。
きっと彼女の笑顔のおかげだ。
私は、彼女の少しでも力になれるよう笑い返してみた。
そしてさっき馬車に乗り込む前に言えなかった言葉を口にした。
「ラフィニア嬢。デビュー、おめでとうございます。素敵な夜にしましょう。」
「はい。」
私たちを乗せた馬車は、もうすぐ王宮に着こうとしている。
今から、私たちは婚約者になるのだ。
ちょい短いですが、次話が長い。
男子たちのトークです。