表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄同士ですね。  作者: もっちりワーるど
49/50

どこに居ても己の全てを尽くすのみ -ゲイル目線-

明けましておめでとうございます。

暦の上では、“立春”春ですね。

冬眠明けのクマのように、執筆を再開します。

………お待たせしました。


薄暗い執務室からバルコニーへ出ると、港が見える。

通常、あの港には大小様々な船が何隻も入港し、人の行き交いが活発だ。

しかし、今見えるのは自軍の船が待機し、戦いに備えて積み荷を運んでいる。


第2軍まで出航し、今港にいる船は3軍だ。

祖父と父はすでに軍艦に乗り出陣し、海の上で敵船を迎え撃つ為、他国軍と陣営を組んでいる。


俺と母は、この領地で戦いに備え、領民をまとめ、軍を指揮していた。

まあ、俺も領館は母に任せ、明日、ここを出てもう一方の港へ向かうことになっている。

……確実に劣勢に追い込まれるであろう港へ。

死を近くに感じる。


そう思うと、自然と自嘲気味に笑みがこぼれる。



「…はは、こんな時に…。」



頭にちらつくのは、王都にいる妹と、守るべきシルビアの事だ。

俺は、常に、何時命が終わってもいいように、思い残すことなく生きることにしている。

今回の王都滞在もいつもと変わらないと思っていた。


だというのに、胸に引っかかる感情。

妹の事。

シルビアの事。

中途半端にしてきた感はあまりある。


だから

俺は、まだ死ねない。



眼鏡を指で押し上げ、顔を無理やり上げた。

満点の星空と月が見える。

黄色い月は細く、まるで夜空をハサミで切れ込みを入れたようだ。

耳に届くのは、遠い波の音。

瞬きして一度見れば、星がチラチラと瞬いている。これから争いの地になろうとしているようには、とても思えない静かな夜だ。

でも、後3日もすれば、ここからも敵船を確認する事になるのだろう。

胸に広がるイラつきをどうにか鎮める。



何という失態だろう。

自分の帰還と伝令が行き違い、祖父の指令を果たせず、明らかに不利になるこの状況を作りだしてしまった。

この今後起こるであろう局面を、自分の持ち駒だけで切り開かなくてはいけない。



頭を軽く振り、自身の両手を見る。

この手にこの身に、この領民の国の未来が掛かっている。

絶対に何とかしなくてはならない。

何とかしなくては。

領地に帰り、母から祖父が俺に増員要請の指示があったことを聞いた時、我ながら自分らしくもなく取り乱した。


だが、あの後冷静に頭を冷やし、思いついたのだ。

今から新しい駒を作るより、すでにある駒を使えばいい。いや、すでにあるとは語弊がある。

誰のものでもない駒を、こちらに引き入れればいい。


が、もちろんリスクがある。

しかし、そのリスクを鑑みてもやってみる価値はある。



俺は両手を握り閉め、部屋を早足で横切り、廊下へ出た。


蝋燭の炎が揺らめく廊下を、早い足取りで過ぎ、母の部屋の前で止まる。

ノックをすると、すぐに返事が返ってきた。

ゆっくりと扉を開き中に入ると、母が簡易なドレスにショールを羽織った姿で部屋の椅子に腰を下ろしていた。



「…ゲイル、何か用ですか?」


「はい、母上。」



母の琥珀色の瞳が、俺を見る。

厳粛な雰囲気を纏う母は、現当主の父の留守を守る者の姿だ。



「伯母上に会いたいのです。」


「………お前は何を言っているのか分かっているの?」


「……はい。考えつくした結果です。」


「意思は固いのね。」


「はい。」


「……分かりました。手配しましょう。」


「ありがとうございます。」



母はゆっくりと立ち上がり、胸に揺れる小さな金の笛を吹いた。

音は聞こえない。

しかし、その聞こえない音に呼ばれるように、黒い人影が天井から現れた。

その人間は母の足元に跪いている。



「…御用は。」


「姉さまの元にゲイルを連れていって。」


母の言葉にその従者は俺をちらりと見ると、口を開いた。


「…すぐにご案内してもよろしいのでしょうか?」



母は、ゆっくりと俺を見た。

引き返すなら今というような視線だ。

しかし、俺は母に頷き、その従者に視線を移した。



「時間が惜しい。すぐにでもお会いしたい。」


「……だそうよ。連れていって。」



母の命令に、従者はすくっと立ち上がり頷いた。

そして、低い声で小さく呟いた。



「自分の身は自分で守ってください。…外に馬を待たせます。」



そういうと、そいつは窓から外へ出た。

俺も急いで後を追おうと、部屋を出ようとしたら、母に呼び止められた。



「ゲイル。くれぐれも…戦う相手を間違えないように。」


「……はい。」



母の言葉を胸に、俺は今度こそ部屋を出た。




-----------------------------------




門の前に2頭の馬が待っていた。

俺は外套を着こみ、その馬の元に近づくと、母の従者がいた。

さっきの奴だ。



「コンタージュの奥方の命により、貴方をご希望の方の元へ送り届ける。しかし、努々忘れないでください。今から行く場所は、とても安全な場所ではない事を。」


「あぁ。」



俺は従者が用意した馬に跨り、夜の道を走る。

まるで俺を巻こうとするように走る前を行く従者。しかし、俺は海軍総司令指揮官だ。

こんなことで巻かれることはない。

俺は、男の後を離されることなくついていき、港街の花街へ入った。



コンタージュ領は、他の領地より花街が栄えている。

何故なら、ここは“海を生業にする男たちが住まう地”だからだ。

何か月も男だけで海の上の生活した男たちは、この地で心身ともにメンテナンスをする。

身体の疲れや心の疲れ、男の性を、思う存分発散するのだ。


その場所は大きく発展し、港に隣接している貨物倉庫、飲食店、宿屋、等健全な店を抜けていくと、赤いランタンが両サイドに付いた、大きな洞窟があらわれる。

その洞窟を真っ直ぐ通ると、煌々と明かりに照らされた、大きな洞窟都市が広がるのだ。

地上2階建て地下2階の巨大洞窟都市は、すべて春を売る店で出来ている。


店の娘たちは、一階部分の格子が付いた明るい洞窟の中に居て、海の男たちを出迎える。

妖艶に微笑む女、可憐な笑みを浮かべる女。

様々な顔立ち、体つきが違う女たちが、今宵の主人を求めて自分を売り込んでいる。

俺は、その様子を眺め、ここに連れてきた男を見た。


「伯母上はどこにいるんだ。」


「…こちらです。」


男は、俺がこの光景に抵抗を示すとでも思っていたのか、若干意外そうな顔をしたが、すぐに切り替えし、前を歩いて行く。

すると、俺達が彼女たちの部屋の前を通ったことで、彼女たちの関心を引いてしまったらしい。



「いい男!!」


「お兄さん、私を買って~」


「いい思いさせてあげるわよ。」



明るい声を上げ、俺達を誘う女たち。

しかし、俺達はそんな言葉に足を止めることなく進んでいく。

すると、洞窟の脇に更に小道が現れた。

が、その脇に屈強な男が2人、扉を守るように立っている。



「何用か。」


「ここは立ち入り禁止だ。」



小道を守る男たちに、俺を案内している男が近づき、耳元で何か話している。

すると、その男は小さく頷く。



「その男だけ、通れ。」



俺を指差し、指をクイと曲げる。



「分かった。」



俺は、ここまで連れてきた男の顔を見て頷くと、警戒心を強めながら足を前へ進めた。

洞窟なので、足音は響くが、何故か静かだと思う。

ほどなくして、木の扉が見えた。

しかしその扉の脇に机と椅子が置いてあり、そこに金縁眼鏡を掛けシルバーブルーの眼を持つ女性が腰かけていた。

何か書類を書いていたのか、羽ペンを動かしていた手を止め、神経質そうな顔立ちで、俺を見る。



「何用でしょう。」


「使者を送らず、不躾に窺った事を詫びよう。俺は、ゲイル=コンタージュ。伯母上にお願いがあり参上した。何卒、お目通り願いたい。」


「……コンタージュ。それを示すものは?」



俺は、外套の捲り、自身の胸に光るダイヤモンドに百合モチーフの勲章とサファイアに剣モチーフの勲章を見せた。

彼女は、自身の眼鏡を押しあげ俺の勲章をマジマジと見つめると頷き、スカートの裾を持ち上げた。



「ゲイル=コンタージュ様。無礼をお許しください。」


「いい。それより、伯母上に会いたい。取次でくれ。」


「………少々お待ちを。」



そう言い残し、彼女は自身が書いていた何かの書類と、机に置いていた他の書類を束ね掛けた。

そして、木の扉をゆっくり開け中へ入っていく。


メラメラと洞窟を照らすランタンを見ながら、待っていると、ゆっくりと扉が開いた。

そして、中から、先ほど俺と話をした女性が出てきて、俺を招く。



「どうぞ、ミルドレッド様がお待ちです。」



俺は、彼女と入れ違いになるように、室内へ入った。

すると



シュパンッ

カツッ



小型のナイフが、木の扉に突き刺さる。

俺は間一髪で避け、そのナイフを放ったこの部屋の主の方へ視線を送る。



「久しぶりだね~。なんの用だい?甥っ子ちゃん♪」



真っ赤で艶やかな爪を優雅に自身の陶器のように白い頬に添え、同じく真っ赤な唇は挑発するように弧を描いている。

長くくねった真っ赤な髪の毛は、彼女の武器ともいえるしなやかな身体に無造作に流れていた。

そしてその彼女の眼は、俺や妹、母と同じ琥珀色。


血のつながりを感じる。

俺は、投げられたナイフを扉から抜き、彼女の前に進み出た。



「お久し振りです、お・ば・さん。」



俺は自身の前髪を掻きあげて口角を上げた。目を細め、笑みを浮かべる。

そう、まるで目の前にいる伯母と同じような不適な笑みになるように。


新しい登場人物です。

この伯母、ラフィニアとゲイルの母の姉です。

何故、娼館で女主人をしているのか。

そもそも、何故娼館の女主人が血縁者にいる母が、コンタージュ侯爵家に嫁げたのかなど。

謎は、次の話で明らかに!


来週更新できたらな…。げふ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  初めて感想を書きます。  緊迫した空気と重圧の中にいる臨場感が伝わってきて、続きがとても待ち遠しいです!  一筋縄ではいかない新キャラもストーリーにどう関わるのか、今からワクワクしていま…
2020/02/12 14:52 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ