救出 -クレール目線-
クレールさん、救出します!
~~~数十分前~~~
私が急いで大広間に戻り、隈なく探し回るが、ラフィニアの姿は見つけられず。
すでにランス先輩の手に落ちてしまったとしか思えなく、生涯初の悪態を口の中で呟いた。
くそっ。
私は両手を握りしめ、ランス先輩の元に戻り情報を得ようと踵を返した。
しかし、そんな私を止めるように腕を後ろから取られました。
「ジョビニア次期公爵!」
振り返るとサヴィニオン公爵がいて、その後ろには夫人も控えています。
私は彼らに構う時間も惜しく、「急いでいますので、お話しは後で…。」と腕を離してもらおうとしましたが、それを公爵に遮られてしまった。
「うちのマリエッタを知りませんか?」
「え?」
私は驚き彼らの顔を見ると、明らかに顔色が悪く、婦人は口元をハンカチで押さえている。
「マリエッタの姿が見えないのです。貴方の元に行っていると思っていたのですが、どうやら違うようで…。今家の者を使って探させていますが、未だ見つかりません。知りませんか?」
「いえ。知りません。」
私が知らないと首を振ると、彼らは更に顔色を悪くさせました。
そして公爵は詰め寄ってくると、私のジャケットを掴んで縋られてしまいました。
「…あの子は、貴方の事をお慕いしていました。今日の夜会も、どんな形であれお会いできると楽しみに。だからお願いです、一緒に探してください。」
藁にも縋る思いなのでしょう。私に頭を下げながら迫る公爵に、私は私を掴む彼の手を包みました。
「…お探しは出来ません。…私の婚約者も姿が見えないのです。」
これは譲れない事。今最優先に考えたいのはラフィニアのことだけだから。
首を振って、彼らの要求に答えられないと伝えると、今度は鬼気迫った顔で迫ってこられた。
「新しい婚約者の為なら、マリエッタのことは知らないとおっしゃるのですか?一時でしたが、貴方の婚約者であったマリエッタを捨て置いても、貴方は何も感じないと?」
「…………。」
確かにこの14年、一緒にいたのはマリエッタです。
あんな別れ方をしてしまったけれど、マリエッタの事を心配じゃないと言えば嘘になる。
しかし今、何よりも私の心を占めているのはラフィニアで。
彼女も今どこにいるか分からない。
どうしたらいいのか、頭を整理していると、真剣な声が上から降ってきた。
「クレール。うちの部下から連絡が入った。俺の計画の前に、賊がこの屋敷に侵入。攫われたのはラフィニアとマリエッタ嬢だ。今、俺の部下とゲイル達が後を追っている。」
「ランス=フォード次期侯爵!」
「ランス先輩!」
腕を組んで難しい顔をしているランス先輩を、仰ぎ見て公爵の両手を離させました。
「私も行きます。」
「言うと思った。馬を用意してある。」
ランス先輩と踵を返すと、公爵夫妻が私たちを呼び止めた。
「マリエッタを!どうかマリエッタをお助けください!!」
悲痛な叫びに私たちは頷くと、次こそ大広間を抜け廊下を走りました。
ラフィニア、どうか無事でいて!!
~~~突入の瞬間~~~
ラフィニア達が捕えられている旧貴族の廃墟。
その入り口に、私たちは控えていました。
ゲイルとランス先輩が部下たちに指示を出し、この廃墟を囲うように兵を配置していく。
中の賊は、ラフィニアの元婚約者、ダビニオンが主犯らしい。人数は、約20~30人。
いつの間にこんなに悪い奴を集められたのか、不思議でならない。
彼らのその様子を見ながら、私はランス先輩から馬と一緒に借りたサーベルの柄に手を掛け、ゲイルを見た。
「ゲイル。」
私に呼ばれ、振り向くゲイル。
「ラフィニアは私が助けます。私に任せてください。」
「……駄目だ。ラフィニアは俺が助ける。」
「ラフィニアは私の婚約者です。」
「一時だけのだ!……俺がずっと守ってきた。これからも妹は俺が守る。」
「ゲイル。私は彼女が大切です。私がラフィニアを必ず助け出します。お願いします。」
ゲイルの怒りに燃える目を見つめ返し、しばし睨み合っていると、ランス先輩がゲイルの肩を叩いた。
「ゲイル。クレールに任せろ。お前は俺と一緒に賊の討伐を優先する。いいな?」
「いいわけないだろ?!」
ランス先輩の言葉に食って掛かるゲイル。
しかし、ランス先輩は尚もゲイルを説得してくれた。
「…いつまでもラフィニアを背負うな。クレールは信用できる奴だろ?それに、俺達が速攻で賊を一網打尽にした後、いくらでも主犯を料理していいから。な?……お前をダビニオンに当てると、彼奴を捕まえる前に、殺しかねないからな。」
「………生存していれば問題ないだろ?」
「却下だ。」
ゲイルの本気の呟きに、ランス先輩はため息と共に却下した。
そして、私に向き直ると
「クレール。ラフィニアはお前に任せる。下手に大勢で奴を追うと、何をするか分からないからな。ダビニオン以外の賊は俺達が対処する。いいな?絶対に助けろよ?」
「はい。」
胸に片手を添え頷くと、突入する扉に視線を向けた。
3 2 1
ランス先輩の合図で、入り口が壊され勢いよく開け放たれる。
廃墟のエントランスには賊たちが事前情報通りに20~30人はいるが、私たちの侵入で驚きで動きを止めている。
私は腰のサーベルをゆっくりと抜くと前を見た。
大階段の真正面。
ラフィニアが、首にナイフを突きつけられていた。
ラフィニアっ。
頭の血がサーッと引いていく。
サーベルを握る手に力が入り、私はナイフを突きつけている男を視線で射抜いた。
ダビニオンだった。
「っ!」
ラフィニアを盾にした形で、息を飲むダビニオン。
私はゲイルの号令を聞くと同時に走り出し、真っ直ぐにラフィニアの元に向かった。
「来るな!!!来たらこの女を殺す!!こいつは俺に命を捧げると言ったんだ!どうしようといいんだ!!!」
彼らの前にサーベルを構えて立つと、彼は興奮し大声で叫んだ。
怒りに血走った眼で私を見て、大階段をじりじりと登っていく。
ラフィニアも首を反らし、ナイフを突きつけられた状態でダビニオンと一緒に階段を登っていく。
私も逃がすまいとラフィニア達と一定の距離を保ちながら、階段を登った。
「クレール!ラフィニアを頼んだぞ!絶対に助けろ!!」
廃墟の中は、剣が交わる音など戦闘の音で溢れている。
階段を登る私の後ろで、ゲイルの声が響く。
大階段の中央まで登ると、左右に伸びる階段。
ダビニオンはラフィニアの首からナイフを素早く外すと、片腕を取り、無理やり彼女を右の階段へ引きずり走った。
私も後を追い、彼らを追う。
2階に上がるとそのまま廊下を突っ切り、彼らは突き当りのバルコニーに出た。
「来るな!!こいつを殺すぞ!!」
風に靡くラフィニアの髪が、月明かりでキラキラしている。不謹慎にも、心を奪われてしまう。
しかしその首に、不釣り合いなナイフを突きつけている、ダビニオン。
私はサーベルを床に下ろし、手を広げた。
「ラフィニアを返してくれ。彼女が大事なんだ。」
「馬鹿なこと言うな!俺は此奴を絶対に許さない!俺を虚仮にしたコンタージュを許さない!!」
彼の瞳は病的に揺れていて、私はどうしたらラフィニアを無事に助けられるかとそればかり考えた。
「どうしたら、君は救われる?」
「コイツが…コイツが身も心も壊れればいいんだ。そして自ら命を絶ちたくなるようになればいい!!」
「………本当にそれを望んでいるのか?」
あまりにも身勝手な言葉に、同じ男として目の前のダビニオンが許せない。
冷静でいなければラフィニアを救えないと分かっていながらも、頭に血が昇っていく。
私は、先ほど床に置いたサーベルの位置を目線で確認していた。
すると、ラフィニアの凛とした声が響く。
「…分かりました。どこまでも貴方が望むようにします。貴方を傷つけてしまったのは、私だから。」
信じられない言葉だった。
ラフィニアから零れた言葉に、私は彼女を見つめ両手を握りしめる。
「だってさ!クレール次期公爵!!イカレた女だろ?自分が聖女か何かだとでも思ってやがるんだ!!俺は、その態度が許せなかったんだよ!!どこまでも俺を蔑んでた、ラフィニアのことが大嫌いだ!!!」
叫ぶダビニオンに、私の怒りが限界を超えた。
奴が彼女に突きつけているナイフの刃を、私は握り、至近距離でダビニオンを睨む。
ぽた
ぽた
視界には、驚きで見開かれているダビニオン。そして、私の行動に驚いているラフィニアが見える。
私の手からは血が垂れ、ラフィニアの肩を濡らす。
一時、時間が止まったようになった私たち。
しかし、誰よりも早くこの静寂を破り、私はナイフを力任せに奪ってバルコニーから投げた。
そして、ダビニオンの腕を思い切り振り払うと、彼はバランスを崩して投げ出され、その場に倒れ込んだ。
「きゃ!」
「ラフィニア!!」
私はダビニオンの上に倒れようとする、彼女の腕を掴み引っ張った。
ラフィニアは私に引っ張られ、私の胸の中に納まると、彼女の髪が私の顎をくすぐる。
「っくっそぉ!!!!」
倒れていたダビニオンは、立ち上がり私たちに腕を伸ばし襲ってきた。
私はラフィニアを咄嗟に後ろに隠し、床のサーベルを足で蹴り上げ、手に持つ。
正気を失い迫りくるダビニオンの脇腹に、サーベルの刃を突く。
「いてぇ……。」
私の攻撃で勢いを無くしたダビニオンは脇に手を当て、痛みに呻いている。
しかしこちらを見る目は、まだ諦めていない気がする。
私はサーベルを握り直し、構える。
すると、ダビニオンが薄気味悪く笑い始めた。
「ラフィニア!お前、約束したよな?俺にすべてを捧げるって!!……俺はもうおしまいだ。生きてても仕方ない。一緒に死のうぜ。」
彼は、私の後ろにいるラフィニアに片腕を伸ばしている。
「俺の人生すべて狂わせたお前が、責任を取って俺と死ぬんだ!な?!」
両手で自分の前髪を力いっぱい掻き毟り、目を見開いたダビニオンは、狂っている。
私は後ろにいる彼女をいかせまいと、片腕で制する。
「ラフィニア。貴女は私と生きるんです。私と共にいてください。」
ラフィニアだけに聞こえる声で、前のダビニオンをけん制しながら囁くと、ラフィニアが後ろで私のジャケットに手を添えたのを感じた。
彼女の手の感触に、自分の思いが伝わったと安堵すると、ラフィニアが私の後ろから一歩横にずれそのまま前に歩んでいく。
「ラフィニア!」
私は彼女の手を掴むと、彼女は驚いた顔をして、私を見上げ微笑んだ。
そして、私と手を繋いだまま、ダビニオンに向かい合った。
「…ダビニオン様。貴方と一緒に死ねません。私は貴女にも生きていてほしい!…綺麗事だって分かっています。また、貴方をまた怒らせてしまう言葉です。でも。それでも、私は貴方に生きていてほしい!」
ラフィニアの言葉に、ダビニオンは虚をつかれたような顔をすると、くるっとバルコニーの手すりに手を突き、その身を投げ出した。
「っダビニオン!!!」
「ダビニオン様っ!!!」
私たちは落ちようとするダビニオンに手を伸ばします。
間に合わなくても、そうせずにはいられない!
2人でダビニオンを掴もうとしますが、間に合わない。
彼はバルコニーから身を投げた。
「……そんな……ダビニオン様……。」
その場に崩れ落ちるラフィニア。
私は、ゆっくりとバルコニーの下へ眼を向けた。
すると
「ナイスキャッチじゃね?」
ビスターが親指を立てて、私を見上げています。
ダビニオンはというと、ランス先輩の部下たちが張った布に落ちたようで、無傷で放心していた。
「ゲイルに生け捕りにしろって言われたからな。このままこいつは、す巻きにしておく。お前らもゆっくり下がってこいよ。賊は全員お縄だぜ。安心していいから。」
ビスターはニーと笑うと片手を上げた。そしてビスターが指示を出して、ダビニオンをその布でぐるぐる巻きにしていく部下たち。
ダビニオンは抵抗もせず、されるがままになっている。
その瞳は、もう何も映していなかった。
救出完了。
ダビニオンさん、これからどうなるのかな?
まずは、お兄ちゃんたちにフルボコにはされるかも…?




