誘拐事件 前編-ラフィニア目線-
ラフィニアとマリエッタ、逃走中。
私はマリエッタ様と手を繋いで、ボロボロの廊下を歩いていきます。
足音を立てないように、ゆっくりと。
「…ねぇ貴女。これ、本当にいるの?」
「お布団がなかったので仕方ありませんわ。」
「…布団無いからカーテン被るって、本当にあっているのかしら…。」
コソコソと小声で話すマリエッタを振り返り、自信満々で答えました。
私たち今、あの捕まっていた部屋に吊るされていたカーテンを頭からすっぽりかぶっている状態です。
そう。
“お布団被ってちょっと来ておくれ”ならぬ、“カーテン被って頑張って逃げてっ!”って感じです。
月明かりが足元を照らしてくれるので、私たちは足音を立てない事に集中しながら進む事が出来ます。
廊下の3つ目の窓の横を通ると、その先には大階段があり、下はエントランスが続いています。
大階段がある壁には大きな素敵なステンドガラスの窓があり、綺麗にエントランスを照らしています。
埃っぽく朽ち果てたエントランスなのに、ステンドガラスの光は綺麗でアンバランスな世界です。
私は顔だけを出してきょろきょろと見回しました。ここからでは大階段しか見えず、下に広がるエントランスはあまりよく見えません。
私は、ふぅと息を吐いて後ろに控えているマリエッタ様を見ました。
「マリエッタ様。ここで待っていてください。私が逃げられるか見てきます。」
「危ないわよ。私も一緒に行く!」
繋いだ手に縋りつくように訴えてこられたマリエッタ様を、優しく笑って彼女の縋った手を包みました。
「…駄目です。私は、誇り高い海の軍を任されたコンタージュの娘。公爵令嬢の貴女を守らなくては。それに………妹がいたらこんな感じなのかしらと…思ってしまうのですわ。頼りないですが私、頑張ります。」
そういうと、マリエッタ様の手を外し前を向きました。
私は被ったカーテンを握りしめ、ゆっくりと足を進めました。
下へと伸びる大階段まで歩いていくと、真ん中ではっと気が付き歩みを止めました。
ステンドガラスの光が届かない暗闇に、人の気配が大勢するのです。
20人以上はいるでしょう。
蠢く人の気配に足がすくみ動けないでいると、その陰がゲラゲラと笑いだしました。
「お嬢様やるね~♪」
「縄どうやって切ったのぉ??」
「やっぱり、コンタージュのご令嬢はお兄ちゃんと同じで、強いのかな?」
嫌に粘つく言い回しをする男性の声に、指先が震えます。
しかし、そうも言ってられません。
階段の上にはマリエッタ様がいます。私が食い止めなければ…。
「あ…貴方たちはどなたですか?」
震えそうになりながら、勇気を振り絞り大きな声で聞くことが出来ました。
「“どなた”だってさ!!」
「“貴方たちはどなたですか”~って、震えちゃってさ。はははは!!!」
「教えてやれよ、ダビ。」
竦み上がっている私の事を面白がっている男性たち。
すると、その中の一人がゆらりと前に出ました。
その人物はステンドガラスの光が照らすところまで歩んできて、止まりました。
「ダビニオン様っ!」
その人物は私のよく知る人物。
彼は階段の上にいる私を見上げて、醜く歪んだ顔で笑っていました。
驚きで被っていたカーテンがバサッと足元に落ちました。
「久しぶり。ラフィニア。」
犯人は、彼でした。
ランスが仕組んだことなのでしょうか?




