幼馴染と問題山積み -ゲイル目線-
ゲイルさんとランスさんの対峙。
彼らは生まれた時から比べられてきたライバルです。
相手の全部を知っているからこそ、容赦なく責め認めあっている仲なんですね。
因みに、ラフィニアはフォード家とは会った事はありませんでした。
コンタージュの両親が会わせないようにしていたんですね。
政府庁舎に入り、俺はランス=フォードがいる部屋に向かった。
足早に庁舎の廊下を歩き、ランスの部屋に着くと扉をノックしてドアノブに手を掛ける。
「ゲイル=コンタージュだ。入るぞ。」
俺は奴の許可を待たずに、扉を開いた。
ランスは、執務机に広げた地図と書類を前に文官と王宮役人と話していたようだ。
「お、ゲイルか。久しぶりだな。何かあったか?」
俺に気が付いて顔を上げたランス。
相変わらず、鍛え上げたマッチョだなおい。
「ちょっと話がある。」
俺は威厳を持ってランスに対峙すると、ランスは「仕方ねぇやつ。」とぼそっと呟いて、文官と役人に合図して下がらせた。
文官と役人2人は、ランスと俺に礼を取って部屋を出て行く。
俺は彼らと入れ違いになるように、ランスの部屋に入室した。
そしてランスの前まで歩くと、執務机の書類と地図が目に入る。
俺は、書類と地図、駒の配置を見て口を開いた。
「…戦争になりそうか?」
「…お前のとこもだろ?」
「「………。」」
お互い得ている情報は多分同じだろう。
諸外国できな臭い動きがあるとは、シーズン前から情報が入っていた。
だが、今朝届いた報告書で、事態が動いたと報告が上がってきたのは予想外だ。
しかも、海向こうの戦争大好き国と、医療の国の隣国が手を組み連合国になるとか、面倒くさすぎる。
だが、今日はこの話をしに来たわけじゃないんだよ。
俺は、気を取り直してランスを見る。
「お前、俺に話あるだろ?」
俺は怒ってるぜ?
射抜くよな視線でランスを見ると、奴は面白げにクスクス笑い、机の上の書類たちの前で腕を広げた。
「話?…お互い戦いを控えているなーって話じゃないのか?」
「…それじゃない。」
分かってるくせに、はぐらかすこいつに、正直イライラする。
俺は血管をビキビキ言わせて、睨んだ。
「じゃあ、シルビアがエバンス王子と最近仲良しだなって話か?」
「…舐めてんのか?」
そろそろ殴ったろかと、拳を握りバキバキ言わせると、ランスが「分かってる分かってる。」と笑いながら手を振った。
「お前の妹君の件だろ?」
その目は明らかに面白がってやがる。
…学生時代の悪友に、俺は机をバンッと両手で叩いて威嚇した。
「…うちの妹に、お前何吹き込んでんだ?」
「吹き込むって、人聞き悪い言い方だな。」
俺の威嚇なんて全然堪えない。この状況を面白がってもいる。
俺は、諦めて体制を戻して腕を組んだ。
「クレールも巻き込んでるだろ。何企んでやがる。」
「へー。珍しいな、ゲイル。お前の事だから、もう全部バレてると思ってたぜ。」
俺が全部を把握していないことに、心底驚いているようだ。奴の鋭い目が若干開く。
…なんだか癪だ。
俺は、自分の手札を一枚切ることにする。
「領地経営学、軍事戦略学ってのは分かってるぜ?」
「なんだよ。把握してんじゃねーか。」
やっぱりゲイルに隠し事って出来なくね?とか呟くランスに、俺は奴の胸ぐらを掴み、顔を近づけた。
「そうじゃなくて、なんでそれをラフィニアに教えてんだってことだよ。」
そんな危ない知識、次期侯爵の俺だけの仕事だ。
これからも俺だけが守っていく。今更、この世界にラフィニアを巻き込むなんて絶対しない。
ぶち壊しやがって!
優男だと思われがちだが、こいつと同じように訓練は積んでる。
普通の人間よりは強い力で、胸ぐらを掴む手に力を入れる。
すると
「…お兄ちゃんの助けになりたいんだと。」
真剣な眼がぶつかる。
予想外の言葉に、掴んでいた手の力が抜けランスの胸ぐらを解放した。
「………はぁ?」
目を見開いてランスを見ると、片眼を閉じて自分の首を摩っていた。
「コンタージュのすべてを一人で受け継ぐお前に、少しでも役に立ちたいって。いじらしいよな。俺もあんな妹欲しかったぜ。」
羨ましいな。と口角を上げていうランスに、俺は顔を背けた。
「……なんで止めねぇんだよ。」
忌々し気に口を開くと、ランスが落ち着いた声で答えた。
「“私はコンタージュの娘です。”“軍を持つ領地に生を受けた者として、貴族としての責務を果たす”って言われちゃな。格好良すぎて、教えないわけいかねぇって。」
「そんなことを…?」
俺はランスを見た。とても嘘や冗談で言っていない顔だ。
信じられない。
いつもほわほわと俺の後ろにいて、時に俺の腕について天然発言していた妹が、そんな風に思っていたとは。
「まぁ、お兄ちゃんとしては心配だよな。変な噂も立ちはじめたし。」
「…お前もその噂、噛んでいるのか?」
そうだ。
この話が残っていた。
ラフィニアを陥れる噂が流れているのだ。
こいつが噛んでいたなら、厄介だった。
警戒を強めると、首を振られた。
「流したのは俺じゃない。情報操作は得意だが、流してまったく得のない話だしな。…お前、もう犯人分かってるんだろ?」
「…サヴィニオンの我が儘娘だ。はぁ、クレールがしっかり縁を切らなかったのが悪い。男だったら、別れ話はしっかりしろっての。」
「うわ、厳しい。…お前も言えた義理じゃないと思うが…。」
「うっせい。」
あきれ顔をしたランスは自分の執務椅子に腰かけ、俺は腕を組んで視線を外した。
すると奴が、机を2回ノックした。
「で、その噂な、ちょっと使うからそのままにしといてくれ。」
「…何に使う気だ?」
ランスは学生時代から賢い奴だ。
油断すると足元を掬われかねない。
見下すと奴は余裕の笑みで机に両肘をつき、顎を乗せている。
「なに、ラフィニアにとってもお前にとっても悪いようにはしない。ちょっといい案だ。」
「…信用できない言葉だな。」
こういう顔の時のランス程、怖いものはない。
用心しておいたほうがいい。
「つくづく失礼だからな、お前。あ、そういえば、そのサヴィニオン家で今度夜会がある。」
嫌なところに話がいった。
この話は広げない方がいい。ここは早く話を切り上げて、逃げよう。
「そうだな。…要は済んだ。じゃ「シルビアも出席だってさ。エバンス王子もエスコートでやってくる。知ってたか?」」
逃がさねぇよとでも言うように、俺の言葉にかぶせてきたランス。
俺は、忌々し気に顔を歪め呟いた。
「……………知ってる。」
「さすが、ゲイル=コンタージュ次期侯爵。その時には噂を消してやるから安心しとけ。」
噂を消す話は大事だが、シルビアたちの話は必要だったか?
これだから生まれた時からのライバルは、ムカつくんだ。
俺は返事をせず、踵を返し奴の部屋から出て行った。
そして数日。
明日は、サヴィニオン家の夜会だ。
コンタージュも侯爵家だから、招待状が届かないわけない。もちろん出席する。
ラフィニアもクレールが招待を受けているから、一緒に行かなくてはいけない。
気が重い。
自邸の執務室で、俺は目の前の沢山の書類を眺めていた。
まず、海向こうの諸外国の情報、そして地続きの隣国の報告書、更にラフィニアの動向と噂の報告が置いてある。
まず、諸外国、隣国の連合軍の現状報告書を手に取った。
やはり奴らは動いている。
これは、予想以上に早く領地に帰還した方がいい。
報告書に同封したあった母の簡素な手紙にも、“シーズン終了前に帰還。ラフィニアは王都に残せ。”と帰還命令とラフィニアを王都残留命令が入っていた。
そして、ラフィニアだ。
相変わらず、クレールとランスとで勉強をしている。
基礎知識は、妹の努力もあってあらかた頭に入れたらしい。今は、応用等をこなしているという。
あぁ俺の妹、可愛くて優秀な天使で困る。
喜びそうになって、ゆっくり首を振る。
…だがそんな成長、俺も両親も望んでないんだよ。
両親が何故、条件の悪いソルベールに嫁がせようとしたか。
単に、内陸部の安全な家へ嫁がせたかったのだ。
出来るだけ安全な地域へ。そして、もし国が傾いても逃げられる場所へ。
ま、ダビニオンなんかに嫁がせた方が不幸になるから、ぶち壊したのは正解だったけど。
これから領地も戦場になる。
ラフィニアは、領地に帰還させない。
今のラフィニアなら、無理やりにでも一緒に帰還すると言い切りそうだが…。
そして、ラフィニアに関する噂。
最初は“ラフィニアがクレールを言葉巧みに唆し、謀反させようとしている。”だったが、今は“クレールが謀反を企てていて、ラフィニアを利用している。”になっている。
……クレール、ランスに何かしたのか?
まるで、クレールを貶める形の悪評だ。
心配にはなるが、ランスのあの顔は最終的にクレールをはめる顔ではなかった。
何する気なんだか。
すべては明日。
大小様々な問題が俺の机の上に散らばっていて、頭を抱えそうになるが、噂の件は明日で区切れるだろう。
俺は椅子を回し、窓の外を見た。
自邸の庭が広がっている。
庭師たちがせっせと整え、緑と花々のバランスがいい気持ちがいい庭だ。
青々とした木々を見ていると、あの時の事を思い出す。
サファイヤのティアラ。金髪。シルバーのドレス。細い手。白い肌。…ワルツ。
…明日は、久しぶりに会うのか。
エバンス王子という未来の旦那連れて。
くそったれ。
ゲイルさん、問題山積みっすね!普通の人なら、禿ちゃうよきっとw
そして、ランスさんが何か企んでます。クレールさんはどうなるのでしょう。




