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婚約破棄同士ですね。  作者: もっちりワーるど
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公園での婚約破棄 -クレール目線-

公園で出会った空色ハンカチ王子。クレール目線です。

あれ?まさか、うちのヒーローまだ名前出てなかったかも!!(汗)

「R・C…。」


一週間前、公園で黄色いドレスの女性に出会った。

私はその時、婚約者に平手打ちにあって、頬を腫らしていたところ、彼女が自分のハンカチを濡らして冷してくれたのだ。

名前聞けなかったけど、ハンカチにイニシャルあって良かった。…R・C…。あの身なりとか仕草とか、一般階級じゃないと思うんだよな。


綺麗な黄色のドレスに、髪には白い花の髪飾り。ミルクティー色の髪の毛は、結い上げていたから、解いたら長いのだろう。琥珀色の眼は大きく、白い肌にピンクの頬。すごく綺麗で優しげな人だった。…また、会いたいな。



「おい、クレール。婚約破棄されたってこの前言ってたけど、まだ未練でもあんの?」


「え?」


「今、会いたいって言ってただろ?」



どうやら心の声が出てしまっていたようだ。

不審そうな顔で私を見るのは、悪友のビスターだ。

今日は、後2週間で社交シーズンが始まる王都に合わせて、領地から帰還した親友を歓迎する、遊戯会だ。

場所は、貴族子息が集うサロン。ビスター以外の他の友人たちも、ビリヤードやダーツ、チェスなどを酒と一緒に楽しんでいる。


ビスターは、右手にキューを軽く持ち、私の近くにやってきた。

紺の髪の毛は剛毛でつんつんしていて、瞳も相変わらず切れ長。男前の部類なのだろう。その男らしくワイルドな雰囲気で、女性関係は派手な奴である。

ただ、グラスで酒を飲む作法は優雅で、さすが貴族の息子と思わず笑ってしまう。



「口に出てた?」



私は自分の髪を片手で撫でて、自分のキューを持ち直した。

次は自分の番だ。



「お前の元婚約者?あれ?結局、婚約は破棄したんだろ?あの、お子様マリエッタと。」



カツンッ



私が打ったボールが、6番ボールに当たったが、ポケットに入ることなく転がっただけだった。



「お子様ではないよ。彼女は立派なレディーだった。来年社交デビューだったしね。ただ…、関係修復はせず、婚約は……結果破棄した。」



思い出すと今だに憂鬱になる。

大変だったのだ。




~~~ 回想 ~~~



マリエッタとの婚約は、彼女が生まれた時に決まった。

彼女の家、サヴィニオン家は王家の血を持つ公爵家で、生まれたマリエッタを下級貴族に嫁がせる訳にはいかない為、国の第四名家の一角、私の家ジョビニア家に白羽の矢が刺さったのだ。


当時6歳の私、クレール=ジョビニアは、生まれたばかりのマリエッタに会いにいった。

白い肌にすべすべぷにぷにのほっぺが可愛くて、彼女の小さい手を握ると、強い力で握り返してくれた。

その力に、その愛らしい顔に私は、『この子を守っていくんだ。』と幼心にも誓った。


しかし、彼女が物心が付き成長していくと、愛くるしかった笑顔をみることはなくなり、眉を顰め顔を背けられる。話をしようとしても何がいけないのか、キツイ言葉ばかり言いつのられていた。


それでも彼女と一緒に生きて行こうと、彼女の手を離さないでいたつもりだった。

何を言われても、彼女の本心ではない。と言い聞かせて、彼女の気に入る菓子をプレゼントし、ドレスや宝飾品を贈った。



でも、この前の事は頭が真っ白になったのだ。



春になり、素敵な日和に私は彼女をデートに誘った。

公園をゆっくり散歩して、お茶をして、夜には夜会に行こうと思っていたんだ。


なのに。


『あなたなんて大っ嫌いよ!趣味の悪いドレスも宝石も、迷惑なのよ!誰にでもそういうものを贈って機嫌を取るんでしょ?!私なんか、好きでもないくせに!!大っ嫌い!』


この日、特別マリエッタの機嫌は悪かった。何故機嫌が悪かったのか、後に知ることになるのだが…。

けど、あの時の私は、とにかく彼女の機嫌を直して欲しくてこう言ったのだ。『新しいドレスが欲しいのかな?それとも宝石?』と。


そうしたら、さきほの言葉で罵られてしまった。

最後には彼女の右手で頬を叩かれた。


そして、彼女は去り際にこういったのだ。



『あなたとは婚約破棄するわ!!!』



公園の噴水の前で、彼女の平手打ちを食らって。




あの時、私の中でマリエッタへの気持ちが完全に消てしまった。


本当にどうしらたいいのか分からなくなったんだ。

男らしくないと思うよ、我ながら。

本当に大切なら、好きなら、縋ってもいいから彼女を繋ぎとめるべきなんだ。

でも私はそうしたいと思わなかった。


今年14歳になるマリエッタ。

公爵家の一人娘で他の貴族からも蝶よ花よと可愛がられ、愛されてきた。

そんな彼女は、私では物足りなかったのだろう。



もう、いいか。



私は諦め、近くにあったベンチに腰かけた。


そこで出会ったのは、春の陽のような女性だった。




柔らかい物腰、ゆったりとした雰囲気。

鈴を転がすような可憐な声。

彼女は、自分のハンカチを濡らしてくれて、私に差し出してくれた。


ゆっくりとした時間の中。

私は彼女に、彼女は私に、お互いの婚約破棄をしゃべった。


しゃべることで、マリエッタとの今までの時間が消化されていく感じがした。



そして気が付いた。彼女も怪我をしていた事に。

私も自分のハンカチを水で濡らし、彼女の怪我した手に巻き付けた。

彼女の手は滑らかで、近づいた彼女からは甘い匂いがしたような気がした。

離したくなくて、無意識に彼女の手をそのまま握っていたら、私の何かを感じ取ったのか、一目散に逃げてしまった。

いや、一目散とはいっても、追おうすれば捕まえられたと思う。テトテトしてたし。

だが、私は、彼女を追うことはせず、彼女のハンカチを握ることしかできなかった。





翌日、マリエッタの実家サヴィニオン家から、謝罪の文が届いた。

許されるなら、直に謝りに行きたいとマリエッタが言っているとも。


しかし、昨日帰宅した私の顔を見た母は激怒し、父も淑女としてあるまじき行為だとマリエッタの行いに眉を顰めた。

そんな両親をなだめ、私はマリエッタに会うことにしたのだ。


最後に、さようならを言う為に。



その翌々日、マリエッタとサヴィニオン家公爵、公爵夫人が我が家に来られた。

私の父は、サヴィニオン公爵の言い訳を眉を少し寄せながら聞き、母は、両親の間で縮こまっているマリエッタを良く思わないのか、口元を扇子で隠している。



『マリエッタは、最近気苦労が多くてな。淑女としての勉学作法等、目が回るような忙しさなのだよ。そんな中、クレール殿とのデートで、疲れていたのだと思う。貴殿に言った事、すべて本心ではないのだ。どうか許してやってほしい。今まで通り、マリエッタと婚約して欲しい。』



サヴィニオン公爵は、娘が可愛いのだろう。

どうにか私に許してもらおうと、マリエッタを弁護し、私に許しを請う。

私は、マリエッタを見た。

顔色が悪い。



バチッ



彼女と目が合った。

会った瞬間、プイッとそっぽを向かれた。


あぁ…



私は、頭を下げた。



『申し訳ありません。この婚約はなかったことにしてください。』


『何故だ?!こんなに謝っているのだぞ!?』


『っ!』



サヴィニオン公爵は、激怒を隠しもせず私にぶつけた。

人の怒りの感情は怖い。指が震えそうだ。

マリエッタも目をこれでもかという程、見開き声なき声を上げた。



『私で、は、マリエッタ様を幸せに出来ません。』



私のなけなしの勇気を振り絞り、噛みそうになりながらは頭を下げた。



『………何故、そうお思いになるの?』



今まで私たちの会話を静かに聞いていた、サヴィニオン公爵夫人は扇子を握り、私に聞いてこられた。

侯爵夫人こそ、現国王の従姉妹君。その佇まいは落ち着いていて威厳がある。

今度こそ足まで震えそうになるが、両手に力を入れて足の震えを止める。



『私は………私は、もう何年も彼女の笑顔を見ていません。笑顔に出来ない男なんです。』


『私っ!いやっ!』



俯きながらしゃべる私に、マリエッタの声が響く。


こんな時にも、『いや』と言われるのか。


私は、顔を上げマリエッタと視線を合わせた。

心なしか、彼女のブルーグレーの瞳は潤んでいるような気がする。



『マリエッタ。さようなら。』



私は失礼を招致で、ソファーから立ち上がり頭を下げると、部屋を後にした。


部屋の中から、マリエッタの声が聞こえたような気がしたが、耳を塞いで早足で廊下を掛け屋敷を出たのだった。




~~~回想おわり~~~



それからもサヴィニオン公爵から、再三マリエッタとの再縁をを望まれたが、その度に丁寧に断りを入れ、ついには、公爵夫人から私を諦めるよう働きかけがあったのか、『迷惑をかけて申し訳なかった。』と文が届いた。


それが、今日の朝の事だったのだ。



私は、キューを台に置き、サロンに設置してある高い位置に腰かけるスツールに腰かけた。

私の後追うように、隣のスツールに腰かけたビスターは、酒の入ったグラスを渡してきた。



「酒は好きじゃないのにな。」


「そういうな。失恋した親友を励ます、男前の友人に感謝するんだな。」


ほら、乾杯。と自分たちのグラスを鳴らした悪友を見る。

美味しそうに喉を鳴らし酒を飲む姿は、私にないものだ。

私も慣れない酒を一口飲む。喉の奥が焼けるように熱い。

そのまま何口か嗜むと、頭がぼーっとしてくる。


そんな時、私もビスターのような男だったら、と考えてしまった。

そしたら、マリエッタともうまくいったのか…?

諦めたはずの元婚約者に意識が行くのは、酔っているからなのだろう。



だんだん視界がぼやけてきて、そのまま私は意識を手放した。





気弱なのか、ヘタレなのか。どっちもか?

クレール君は、優しい青年なのでしょね。きっと。

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