勉強会 陸の強将 -クレール目線-
勉強会です。
少し難しく書いちゃった気もします。
……これ恋愛物語ですよね…?
ラフィニアちゃん、一生懸命です。
~次の日~
私の横にラフィニア嬢が座っていて、私たちの前には、私が用意した我が国に関する資料、書籍、地図があります。
私はその中から地図を取り出し、机の上に広げました。
ラフィニア嬢は、私が広げた地図を興味深々に見ています。
少し微笑ましくて、口元が緩みました。
しかし、そうも言っていられません。
これから、彼女に領地経営学の基礎を教えなくてはならないので。
私は気を引き締めて、コホンと咳をしました。
するとラフィニア嬢は、すぐに私に向き直りました。琥珀色の眼が真剣です。
見つめ合う形になり、少し気まずく視線を地図に移しました。
「えー…我が国の爵位はご存じですか?」
「はい。公爵・侯爵・子爵・伯爵・男爵ですね。」
「そうです。爵位の説明は必要でしょうか?」
「あの、一応、復習させてください。」
ラフィニア嬢の困った顔を見て、私は地図を指さします。
「まず、公爵位は、貴族第一位です。この国では四家、その爵位を賜っています。
イヴェルバ家・ジョビニア家・ゾイド家・サヴィニオン家の四家です。
そして、それぞれの領地は王都からすぐの東西南北に分かれています。」
「ここが王都ですね?そして、この色分けされているのが、領地の色ですか?」
「はい。因みに、イヴェルバ家は東、ジョビニア家は西、ゾイド家が南、サヴィニオン家は北です。」
私が地図で各公爵領を指で示すと、ラフィニア嬢も身を乗り出し聞き入ってくれます。
「ジョビニア家…、クレール様のおうちですね。」
そして、私の家に気づくと“分かった!”と、目をキラキラさせてこっちを見てきました。
…自分の耳が熱い気がしますが、気を取り直して頷きました。
「そうです。では、次は侯爵ですね。侯爵位は貴族第二位です。この国では、主に軍事や資源産出を任されている家が、この爵位を賜っています。主な侯爵家としては、海軍のコンタージュ家、陸軍のフォード家です。」
「あ、この前お会いした、ビスター様も次期侯爵様だとお聞きしたかと思います。」
「そうですよ。彼の領地はここです。」
私は北西に位置する鉱山エリアを指さしました。
「彼の家は、鉱山を持っています。ここで金や銅などの鉱石が出るんですよ。品質も良くて、国内外へ流通されています。」
「そうなんですね。」
ふむふむと頷くラフィニア嬢。
彼女が頷く度に、その柔らかそうな髪の毛が可愛らしく揺れている。
…柔らかそうだな。
無意識に手がそれに触れようと動いて、私はすぐに手を引っ込めた。
何しようとした?!
動揺しながらも、触れようと動いた手は机の下。
ラフィニア嬢も気づいていないようなので、そっと息を吐いて、気を取り直して、続く爵位の話を続けました。
聞き入るラフィニア嬢は、時折自分で用意してきた羊皮紙にペンを走らせている。
とても真剣だな。
私の説明を聞きながらペンを走らせる彼女の横顔は、真剣で、女性のそんな顔初めて見た。
私の知る女性は、こんな顔で物書きはしていないように思う。
「クレール様?」
ぼーっと彼女を見ていて、書き終えたラフィニア嬢に呼ばれて、はたと現実に引き戻された。
「あ、すみません。えー、では、経営学です。まず領主には国王への納税義務があります。税の算出はその領地の面積です。計算式は、この……この式を使います。」
私は、机の上に用意してあった本を引き寄せて、彼女の前に出しました。
算出の公式を指でなぞり教えると、彼女はまた自分の羊皮紙に書き写していきます。
「計算は出来ますか?」
「はい。大丈夫です。」
「基本はこの式で納税金額が決まっていますが、そこに毎年の変動もあります。」
「変動ですか?」
不思議そう顔をするラフィニア嬢の前に、資料として用意した羊皮紙を差し出した。
彼女は受け取ると、内容を黙読し始め読み終わると、私が言いたかった部分の文章を指でなぞりました。
「この“軍事貢献・異常気象による天災での徴収税の緩和”というところですか?」
「そうです。毎年課せられる税が変わるんです。私たち、内陸部の貴族は、この異常気象による変動が主です。ですが、コンタージュ家とフォード家は更に、軍事的活動が考慮に入っています。」
「納税の金額が、緩和されているんですか?」
「そうです。軍を持つ領は、常に戦禍に巻き込まれる可能性があるので、納税よりも国への貢献度が重視されているのです。…この軍事貢献でどれだけ緩和されているのか、私には分かりません。」
「そうなのですね。」
「この話と軍事戦略学については、そろそろ来るので、その方に教えてもらいましょう。」
「聞いてもよろしいかしら?どなたが教えてくださるのでしょう?」
「もう少し待ってください。先ほど政府庁舎であってお願いしたので、そろそろ来てくれると思うんです。それまで、この納税金額の算出をしておきましょう。」
「はい。」
私の提案に頷き、ラフィニア嬢は羊皮紙にペンを走らせていく。
この人は貴族令嬢以上の事を勉強してきたんじゃなかろうか?
…マリエッタもこんな風に勉強していたのか?
私はラフィニア嬢の横顔を眺めながら、マリエッタを思い出し、胸がざわつく気がした。
しばらくすると、大股で歩く足音が学習スペース目指してやってきた。
短髪の黒髪、目は鋭く深い藍色。大柄で筋肉ががっしりついている男性。
彼は私を見つけると、意外そうに鋭い目を開いた。
「本当にいたのか。」
「ランス先輩。」
意外そうに私の元に歩いてくるランスに、私は顔を上げて会釈した。
そしてランスは私の隣にいるラフィニアを見ると、また驚いた顔をしている。
「君がゲイルの妹か!アイツこんな可愛い妹隠してやがったのか?!」
「…あの…。」
突然自分の身分を言い当てられたラフィニア嬢は、驚きと困惑が見え、私は立ち上がり、ランスを紹介した。
「ラフィニア嬢。こちら、ランス=フォード次期侯爵。ランス先輩。こちらラフィニア=コンタージュ。ゲイル=コンタージュ次期侯爵の妹君です。」
「フォード…?あ!!」
先ほど説明したフォードの名前に、すぐ気が付いた彼女は両手をパチンと叩いて、ランスを見上げている。
「彼は陸の軍を持つ、フォード家の次期侯爵です。陸の強将って呼ばれているんですよ。因みに、ランスとゲイルは同い年で学生時代からのライバルでもあるんです。」
私はランスの説明をしながら、学生時代の事を思い出していた。
ゲイルは知能戦、ランスは肉弾戦を得意としていた。
そんな正反対な2人は校内で仲が悪いと思われていたが、実際は結構馬があっていた。
やはり、軍を指揮する根本的気質が似ているのだろう。
お互いに譲らないが利用する。
狡猾なやり取りを学生時代にしていた2人。
そんな先輩2人を私たち後輩は、ハラハラして見ていたのはいい思い出だ。
「あいつとは生まれた時からライバルだっての。初めまして、ラフィニア嬢。ランス=フォードだ。」
「はい。ラフィニア=コンタージュです。ラフィニアとお呼びください。」
ラフィニア嬢は、席から立ち礼を取った。
彼女の髪の毛がさらりと落ちて、まつ毛に影が落ちる。
…胸の中がモヤモヤする…。
ランス先輩とラフィニア嬢の挨拶に、割って入りたい衝動にかられたがぐっと理性で抑えた。
「ん?おい、クレール。もしかして軍事を教えてやって欲しい子って、この子か?」
「そうです。」
「………ゲイルは知っているのか?」
慎重なランス先輩。
ゲイルの妹に“いろいろ”教えるということのメリットデメリットを瞬時に計算したのだろう。
私に慎重な態度を見せた。
「知りません。」
私はさも、当然とばかりに首を振ると、
「俺に聞かずに、ゲイルに聞けばいいんじゃないか?」
と言い始めた。
…ランス先輩、分かってて言ってるな。
私は、事情を説明しようと口を開き掛けて、ラフィニア嬢に遮られてしまった。
「兄は、私には危険と思う事は教えてくれません。」
ランス先輩は、ラフィニア嬢が答えると思わなかったのだろう。
面白いものを見るように、ラフィニア嬢に視線を移した。
「……君は、これから俺に教わることが危ないことだと理解している。それでも聞きたいのか?」
「はい。私はコンタージュの娘です。兄ばかりに背負わせるわけにいきません。出来うる限り兄を手伝ってあげたいんです。」
彼女の真っ直ぐな願いが届いたのだろう。
ランス先輩は、彼女をじっと見た後私を見た。
そして、
「…………クレール。俺にはこんな妹いなかったけ?」
「いませんよ。男三人兄弟ですよね、確か。」
何をバカなことをと思って首を振ると、ランス先輩はニィーッと笑っている。
私たちのやり取りを聞いていたラフィニア嬢は、ゆっくりスカートの裾を持ち頭を下げた。
「お願い致します。私に軍事戦略学など、軍を持つ侯爵のことを教えてください。」
「…………軍事って言うのは、そう簡単に教えちゃいけないことになっているんだ。他の貴族が知ると、謀反の火種になり得る。だから、領地に軍を持たない貴族には基礎学しか学ばせず、俺たち軍侯爵のみ、詳しい戦い方や戦略の仕方を学ばせる。…機密事項だ。それを知る覚悟はあるか。」
私と話していた雰囲気を消して、ランス先輩は腕を組み真面目な話をした。
そうなのだ。これが、私だけでは彼女の“願い”を叶えてあげられなかった訳。
軍を動かす知識は、私たちにとって“知ってはいけない知識”だ。
日常的に戦うことを余儀なくされている侯爵のみが知り得る知識。
ランス先輩から漂うピリピリした空気を感じる。
私が感じるくらいだ、ラフィニア嬢には痛いと感じる程だろう。
それなのに、彼女は両手を握り顔を上げた。
強さが宿る琥珀の瞳が、ランス先輩を捉えた。
「はい。お願いします。私も女ですがコンタージュです。軍を持つ領地に生を受けた者です。貴族としての責務を果たすため、お願い致します。」
ランス先輩は、真剣に訴える彼女を見つめていた。
そして、彼女の瞳の中の決意の色を見たのか、しばらくしてふぅと息を吐くと、組んでいた腕を解いた。
先ほどより若干明るくなった声で、私が用意した本を指さす。
「…分かった。じゃあ、ラフィニア。まず……この本のここ。この貴族相関図、全部覚えろ。明後日、またこの時間この場所に集合。あ、クレールはどうすんだ?…俺がラフィニアと二人きりはすぐ噂が立つ。お前も近くに座っとくか?」
どうする?と軽い雰囲気で聞く先輩に、私は眉を寄せた。
…ラフィニア嬢を呼び捨て…?
私だって、呼び捨てなん意識的にじゃないと言えないのに。
「はい。私はラフィニア…の婚約者なので、隣にいます。」
ナチュラルにラフィニア嬢を、呼び捨てに出来ない自分。
腹の下に力が入っているのが分かる。
そんな私の変化を、違う事として受け取り(絶対わざと)大げさに驚いたふりをしている。
「はぁ?!マジか!!お前、マリエッタとの婚約破棄ってガセじゃなかったんだな!!」
「…相変わらず、失礼ですよね。先輩。」
本当にいい性格をしていると思う。ランス先輩も。ここにはいないゲイルも。
私は、このやり取りに若干の疲れを感じながらも、何とかラフィニア嬢の“お願い”を叶えることに成功した。
この時、私たちのこのやり取りを、物陰から見ている人物がいるとは、夢にも思わなかった。
爵位の解釈は、オリジナルです。
また、ランス先輩は、体育会系のガッシリさん。
最後に物陰から見ていたのは、誰だったのでしょうね?




