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婚約破棄同士ですね。  作者: もっちりワーるど
18/50

お願い事 -ラフィニア目線-

一話では、自分の不甲斐なさを痛感していたラフィニアちゃん。

彼女は、己の成長を望み始めました。

舞踏会から、1週間後。



最近、私の兄が変なんです。


私は、テラスに飾っている植木鉢の花たちに水をやりながら、チラリと兄を見ました。

ガーデンテラスのテーブルに書類を置いて、仕事をしている兄。


「ん~。」とか「うーーーん。」とか、一人で唸っています。


その様子は今に始まったことではないのですが、時々ペンを止めぼーっとしているのです。

私は、水やりを止めてジョーロを両手に持ちました。



「…お兄様?」



お兄様を呼ぶと、はっとした顔をして私を見てくれました。



「何かな?ラフィニア。」



眼鏡を押し上げながら、笑顔を向けてくれました。

少しお疲れ気味なのか、お兄様の笑顔に元気がないように思います。

私は、控えている侍女のカレンに視線を送り、お茶の準備をお願いしました。

カレンが私たちに礼を取り、テラスを出て行きます。

お兄様と二人きりです。



「えっと……、クレール様の事です。」


「クレール?あぁ、そういえば一日に一度、プレゼントが届くな。」


「はい。そのことなんです。」



私は眉を下げて、持っているジョーロを床に置き、お兄様の隣の席へ座りました。



「ん?それがどうしたんだい?」



私が何を言おうとしているのか、本当に分からないようです。

いつもの鋭いお兄様なら、一言で十は分かってしまうのに…やっぱりいつもの兄ではないように感じます。



「私、クレール様にお会いして、頂いたプレゼントをお返ししようと思ってるの。」


「…。そうか。でもあいつ、最近は仕事で王宮に篭ってるだろ?会えるか?」


「ううん。だからお兄様、お願いがあるの。」




にっこり笑顔でお兄様を見ると、私は“お願い”をしました。





------------------------------------




王宮の敷地には、王宮の他に、離宮・祭祀宮・政府庁舎や国立図書館があります。


王宮に努める家臣達は、その政府庁舎で仕事をしており、各貴族達もシーズン中はここに足を運んでいるのです。

貴族達は主に自分の領地で対応しきれない案件や、国王の確認・決済が必要な案件を、この場所で調整対応をするんです。


お兄様も1週間の間に4日は政府庁舎に行き、領地経営に関する仕事の調整を掛けています。

だから、クレール様も次期公爵の仕事で、この政府庁舎に頻繁に出入りしているようなのです。






「わぁーー……。」



目の前に、政府庁舎です。

初めて訪れました。

そう。私は、お兄様と一緒にその政府庁舎へやってきました。



「ラフィは入れないから、向かいの国立図書館で待ってて。クレール呼んでくるから。」


「はい。」



私は頷き、お兄様に礼を取りました。

政府庁舎に入っていくお兄様の背中を見送り、また建物を仰ぎ見ます。

ここで、この国の重役たちが、この国の為に働いているんです。



そこで働いている、お兄様もクレール様もすごいです!



「ラフィニア様。」



胸に溢れる尊敬が顔に溢れ、一時停止していたらしく、カレンが申し訳なさげに私を呼びました。

私は我に返って「はい。」と頷きます。

そして政府庁舎の向かいに建つ、国立図書館へ足を向けました。



大きな木製の扉をカレンに開けてもらい、私は国立図書館へ入りました。


広いエントランスで、上を見上げると天井はガラスの吹き抜けになっていました。

床は木目細工で出来ていて、エントランス中央に国花が描かれています。


本当に図書館なのでしょうか。

まるで、美術館の様に美しいエントランスに、暫し言葉を失っていると、カレンが私の代わりに受付を済ませてくれました。



「入館許可書です、お持ちください。図書室内は私語厳禁とのことです。」



カレンから、入館許可書の国花が彫られたレリーフを受け取り頷きました。


図書室に入る扉は一つだけです。

両開きの重厚なドアがあり、両サイドに王宮騎士様が立っていらっしゃいます。



「扉を開けてください。」



私は、右横にいらっしゃる騎士様にお願いしました。

すると、私が持つレリーフを一瞥して扉を開けて下さいました。


お礼を言ってカレンと中に入ると、圧巻の景色が広がっていました。


図書室内は広く、壁一面に本が収納されています。何段にも何十層と重なっている書架。天井にはシャンデリアが室内を照らしています。

私はゆっくりした足取りで、綺麗に陳列された書架の脇を歩いていきます。

クレール様が来てくださるまで、きっと時間はあるでしょう。

私は適当に一冊本を抜き、両手に抱えました。

そのまま静かにフロア中央にある閲覧スペースまで行き、椅子に腰かけました。


しばらく静かな図書室内でその本を読んでいると、出入り口の扉が開きました。


私は本から顔を上げると、慌てた様子のクレール様が視界に入りました。

私は慌てて立ち上がり会釈をします。

クレール様もすぐ私に気が付いてくださって、会釈をしてくれました。

私はジェスチャーでそこで待ってて欲しいとクレール様に伝え、読んでいた本をすぐ元の場所に戻し、クレール様の元へ向かいました。


彼と連れ立って館内から出ると、併設しているカフェへ行くことになりました。




白を基調としたカフェスペースで、私たちは向い合せに座りました。

困り顔のクレール様を前に、私は両手を握りしめます。

そして意を決して、私は話を切り出しました。



「私、プレゼントは要りません。」


「え?えっと…私が贈ったプレゼントが気に入らなかったのでしょうか?」



戸惑っているクレール様を真っ直ぐ見て、話を続けます。



「違います。あの……プレゼントを戴くのではなくて、教えて欲しいことがあるんです。」


「教えて欲しい事?私に?」



益々困惑するクレール様に、申し訳ない気持ちになりましたが、全部話してしまうことにしました。

私は身を乗り出して胸の前で両手を組みます。



「私に領地経営学と軍事戦略学を教えてください。」


「……え?領地経営学?……えっと…、コンタージュ家にはゲイルがいます…よね?何故貴女が?」



眉を下げて私を見つめる彼に、私は椅子に座り直して彼を見つめ返しました。



「私は、生まれた時から兄の背中に守られてきました。幼い頃に婚約もしていましたから、ソルベール家へ嫁ぐための勉強が優先されていました。でも、婚約は破棄されて、このシーズンが終われば、私は領地に帰ります。……私、何も得ずに領地に帰りたくないんです。出来ることなら、兄の力になりたいと思っています。」



話終えて一息つくと、今まで真剣に耳を傾けてくれたクレール様は、両腕を組んでしまいました。

…やっぱり、図々しいお願いです。

私は自然と視界が下がってしまいました。

しばらくすると、



「…海に面したコンタージュ領と内陸部のジョビニア領、きっと経営基準も心得もずれていると思います。それにうちの領は軍を持っていません。軍事戦略学は学院で習っただけで、教えられるほどではありません。」


「そう…なのですね。…大変無理を言いました。忘れ「基礎学になりますが、いいですか?」」



私が言い終わる前に、クレール様が信じられない事をおっしゃいました。



「…え?」



顔を上げると、素敵な笑顔のクレール様がいらっしゃいました。



「私が教えられるのは領地経営の基礎です。シーズン中の期間で出来るだけお教えします。それと軍事戦略学は、教えられる人に心当たりがあります。私ではなくその方に教わったらいいと思います。今度私が紹介します。……どうでしょうか。それでもいいですか?」



信じられない言葉です。

私は、首を請われたおもちゃのように縦に振り、笑顔になってしまいました。



「はい!…何卒、宜しくお願い致します。」


「えっと、教える時間ですが、私は朝から昼過ぎまで政府庁舎で働くことが多いです。なので、昼過ぎから夕方までこの図書館の学習スペースで講義しましょう。どうですか?」


「はい、お願い致します。」



私は、二つ返事で頷きました。

自分の希望が叶って安心して力を抜くと、クレール様が、小さく吹き出しました。

私は、何か?と、首を傾げると、



「いえ、初めてです。プレゼントより知識が欲しいと言われたのは。」


「変わり者ですよね。」



自覚があるので眉を下げると、彼は首を横に振りました。



「変わっていますが、いいと思います。流石ゲイルの妹君です。」



彼の言葉に、それは誉め言葉ではないのでは?と、眉を寄せたのは言うまでもありません。



私たちは、早速明日から、勉強会をすることになりました。




因みに、今まで彼から頂いたプレゼントは、返されても困ると言われてしまったので、ありがたく貰うことにしました。

でも、今後は一切要らないと釘を刺させていただきました。

ラフィニアちゃんは、物欲ではなく、知識欲でした。

そして、相変わらずプレゼントで解決しようとするクレールくん。

幼い頃からマリエッタのご機嫌を取るため、プレゼントをしてきた彼。それ以外の方法をしらないんです。


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