王宮 庭園での語らい -ラフィニア目線-
ラフィニアちゃんは、色恋沙汰に鈍感です。
でも、他は案外しっかりしているようですね。
※ラフィニアとシルビアの台詞、訂正しました。
クレールは次期侯爵ではなく、次期公爵ですので(汗)
クレール様に手を引かれて、私はお城の庭園へたどり着きました。
王広間に面した夜の庭園は真っ暗ではなく、お城の窓から光が漏れています。
それに随所の松明もありますし、見上げると月も星も綺麗です。
幻想的なお庭をクレール様とゆっくり歩いていると、彼は歩みを止め、私を振り返りました。
「突然連れ出してしまって、申し訳ありませんでした。」
私の手を握ったまま、申し訳ないという顔をするクレール様。
私は頭をフルリとゆっくり振って、眉を下げました。
「いいえ。…私、皆様に守っていただいたんですよね。…ありがとうございます。」
分かっています。
クレール様もお兄様もビスター様も、ダビニオン様から私を庇ってくださったこと。
庇われるだけだった私は、今は感謝の言葉をいうのが精いっぱいです。
スカートを持ち膝を折ると、「頭を上げてくださいっ!」と慌てた声が降ってきました。
そっとクレール様を見ると、とても慌てた顔をしてらっしゃいます。
「あなたに、頭を下げさせるためにしたわけじゃないんです。」
私の腕を優しく引き上げ、立たせてくださったクレール様は、眉をハの字にして困った顔をしています。
私も、彼にそんな顔をしてほしくてありがとうを言ったわけではなかったので、本末転倒です。
私も困ってしまって、2人で眉をハの字にしていると、クレール様がそっと手を引いてくださいました。
「…えっと、その。折角のお城の庭園です。少しゆっくり歩きませんか?」
「…はい。」
彼の提案に乗って、2人で庭園を歩き始めました。
月の光と松明の光で、足元が照らされていて歩きやすい園内。
でも、今が昼間なら、美しく咲いた花々を愛でながら素敵な散歩が出来たでしょう。
もったいない気持ちもしますが、私の手を引いて前を歩くクレール様の背中を見ると、そんな気持ちもなくなってしまいました。
そして、少し歩くと、庭園にベンチがありました。
「座りましょうか?」と、クレール様がおっしゃったので、私は「はい。」と答えて2人でベンチに腰掛けました。
クレール様のエスコートで、私が先に腰かけ、その横にクレール様が座られました。
腰を掛けて視線が自然と上に向くと、広がる星空に胸がときめきます。
しばらく、素敵な夜空を見ていると、先ほどのダビニオン様が頭に浮かびました。
最後に見た、何か言いたそうな顔のダビニオン様。
今はクレール様と一緒にいるのに。
私は、横に座るクレール様をそっと見ました。
彼は今も星空を見ていて、声を掛けることを躊躇いました。
でも、私は、意を決して小さな声で呼んでみました。
「クレール様…。」
「はい?」
私に呼ばれて、彼は視線を私に向けてくださいました。
その優しい眼差しに、私はやはり躊躇いました。
こんな彼に聞いていいことなのか。
「どうしました?」
彼が優しく声を掛けてくださって、私はそっと息を吐いて彼に身体を向けました。
「こんなこと、クレール様に聞いていいものではないと思いますが、でも。…ダビニオン様は、何を言おうとしたのでしょうか。」
私が話すと、クレール様は驚いた顔をされたかと思うと、頭を振られました。
「私にも分かりません。それはダビニオンしか分からないことだと思います。」
「そうですわね。……ごめんなさい。こんな話をしてしまって。」
やはり失礼な話でした。
クレール様には関係ない話です。
私は、頭を下げて「忘れてください。」と小さく言い、ドレスのスカートを撫でました。
すると、
「…あなたは、何も気にしなくていいと思います。」
きっと、私の憂いを晴らそうと思ってくださった言葉です。
私は改めて、クレール様に視線を合わせました。
彼の緑色の眼は、優しさに満ちています。
でも、それは…。
「クレール様。」
ドレスの上で重ねた自分の両手に、力が入ります。
「…あなたもお兄様も、そしてビスター様も、近い将来領地を納められる大事な方たちです。あなた方に従うのは、侯爵家の娘として当然のことだと思っておりますわ。あなたが“気にするな”とおっしゃるなら、そうした方がいい。分かっております。
でも。…でもです。
本当は、“気にしなくていいことは何もない” そう…思ってしまう私は、おかしいのでしょうか。」
一度は、ダビニオン様と婚約していたのです。
彼が最後に何を言いたかったのか、気にしないわけにいかないと思うのです。
確かに先ほどは、ひどい言葉を言われましたけど、やはり最後まで話を聞くべきだったと思ってしまうのです。
私の拙い言葉を最後まで聞いてくださったクレール様は、目を見開いていらっしゃいます。
こんな私、きっと幻滅されてしまったでしょう。
私は帰ろうと、お別れの言葉を口にしました。
「申し訳ありません。今日はもう「ごめんなさい。」すると、私が言い終わらないうちに、クレール様が頭を下げて、謝られてしまいました。
目の前で起こったことが、なんなのか分からず、「え?」と聞き返すと、クレール様は私に向き直り、私の手を握られました。
「先ほどは失礼な発言でした。私はあの時。ダビニオンに会ったとき。あれ以上あなたに触れさせ………っ…いえ。あなたの事を悪く言われるのが嫌だったんです。」
眉を寄せ絞り出すような声に、私は戸惑いました。
それと同時に、胸に優しくあったかい気持ちが広がります。
「あなたは優しい方ですね。知り合って間もない私を、そこまで気遣ってくださる。本当に優しい方です。」
「……え?」
「私が傷ついてしまわないように、悪口を止めてくださるなんて。ありがとうございます。」
「え?あれ?あー…はい。あ、いえそんな、お礼を言われることではないんです。」
何故か、わたわたとし始めたクレール様を私は見上げていると、
「クレール。うちの可愛い妹に手出してないだろうな?」
「今晩は。ジョビニア次期公爵。そして、コンタージュ侯爵家のラフィニアさん。」
王広間の方からやってきたのは、お兄様とお兄様にエスコートされたシルビア様でした。
「王女様。お兄様。」
「シルビア様っ。ゲイルっ。」
お兄様達の声に驚いて、私の手を弾かれたように離したクレール様。
私はベンチから立ち上がり、その場で最上位の礼を取りました。
クレール様もさっと立ち上がり、最上位の礼を取られました。
「堅苦しい挨拶は、舞踏会の初めに戴いたわ。2人とも楽にして?」
私たちは王女様の言葉に顔を上げると、シルビア様は優しい顔で微笑んでいらっしゃいました。
「こんな人気がないとこで、手なんか握ってナニしてたんだ?あぁん?」
顎を反らせ眼鏡を押し上げるお兄様に、クレール様がタジタジになっています。
そして2人がわちゃわちゃとじゃれ合い始め、私が止めようとすると、シルビア様がクスクス笑っていらっしゃる姿が目に入りました。
「本当にシスコンなんだから。…困った人ね、あなたのお兄様は。」
お兄様はクレール様の首にヘッドロックを掛けていて、楽しそうです。
そんな様子を、優しく悲しそうな眼差しで見守っているシルビア様。
私は複雑な気分になりました。
でも、この気持ちが何なのか分かりません。
考えても分からないことは、後で考えることにします。
私は、王女様に「はい。」と答え、お兄様とクレール様のじゃれ合いを2人で見守っているのでした。
2カップルの束の間のダブルデート(?)
両カップルの恋の行方。
どうなるのでしょう。




