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婚約破棄同士ですね。  作者: もっちりワーるど
14/50

おしまいだ。 -ゲイル目線-

ダビニオンが、ゲイルとビスターにお仕置きされる話です。


クレールにつれられて俺たちの前から離れる、ラフィニア。




…………さて、どうしてやろうか。




俺は、ビスターに肩を組まれたダビニオンの後頭部を見据えた。

そして、俺の気配を感じたのだろう。ビスターが鼻で笑ってダビニオンの肩をパンパンと乱暴に叩く。



「さぁ、そろそろ先輩にご挨拶だ!こっち向け。」



勢いをつけて、ビスターがダビニオンを俺の方に向かせる。

久しぶりに見るダビニオンは、青い顔をして心なしか震えているようだ。



俺は魔王か何かか?



俺は、自分の眼鏡と一緒に口角もゆっくり上げ、“知り合い”を見た。



「ダビニオン。久しぶりだな。君はまだ、ソルベールの次期侯爵なの?」


「はっ、あのっ、…はい。」



ビクッ!と肩を震わせたかと思うと、反射的に前を見た奴と目が合った。

本当は話すのも時間の無駄な相手だが、こいつを好きにさせとくと、うちの可愛い妹が穢れる。

ダビニオンは弾かれたように視線を避け、足元に視線を移した。



「ふ~ん。なぁ、さっきうちのラフィニアに、どんな話をしていたんだい?」



怒らないから言ってみ?と匂わせて聞いてやると、首をフルフルと振るだけである。

こういう態度の時、大概こいつは悪いことしかしてない。

俺はダビニオンに詰め寄り、耳元で囁いてやる。



「誰が、“阿婆擦れ”だって?…何が“鞍替え”だって?…なぁ、ダビニオン。」


「なっ!何故聞いて?!」



何で聞こえてないと思ってるんだよ。

残念だな。俺の耳は性能がいいんだ。妹の悪口は真っ先に耳に入ってくるんだよ。

あ、褒め言葉も入ってくるぞ。

まあいい。


驚いて目を見開いているダビニオンを、逃がさないように前から腕で首をホールドした。

意識が墜ちないレベルで締め上げながら、声を潜める。



「分かってねぇ坊ちゃんに教えてやるよ。今度妹に近づいてみろ。お前をす巻きにして、海の藻屑にしてやる。大丈夫。故郷の岩も一緒に沈めてやるよ。

二度と浮いてこれないようにな。」



ダビニオンを腕から離すと、奴は青い顔をさらに青くしていた。

だが、その目は生意気な光を放っている。

俺は、若干片眉を上げてこいつを見ると、ダビニオンが拳を握りしめて叫ぼうとしたその瞬間、邪魔が入った。



「いい加減にしろよ、お前。気づいてないのか?ここに来てる貴族全員から総スカンになってんの。なんで分かんねぇの?」


「え?」



黙って俺たちのやり取りを見ていたビスターが、赤ワインのグラスを手に、何事もないように呟いた。

ビスターの言葉に、間抜けな声を出すダビニオン。

そして、周りをきょろきょろと見回し、他の貴族と目が合っても反らされたり、明らかにそっぽを向かれたのだろう。「嘘…だろ?」と独り言をつぶやいている。


俺は、こんな阿呆に教えてやるのも面倒くさく、ため息をついた。

しかし、ビスターは最後の情けとでも言いたげに、ワインに口を付けたまま不適に笑い言う。



「お前の“イロイロな噂”は有名だぜ。筆頭貴族達は、ソルベールの後継がお前なら、商談や交流を断つつもりだ。

今頃、現ソルベール侯爵もこの事態は知ったはず。お前、マジで侯爵家追い出されるぞ?」



グラスに残った一口分のワインを飲み干し、ビスターは空のグラスをテーブルに置いた。

一連の動作は洗礼されていて、やはりビスターは次期侯爵だ。優しすぎるとも思うがな。



「う、嘘だっ!」



蒼白になったダビニオンに、俺はその頭の悪さを感じずにはいられない。

俺は、もう用は済んだと、奴の存在を無視し、白ワインのグラスを取った。

しかし、ダビニオンはまだ、自分の置かれた状況を嘘だと言い張っていている。そんな様子を見かねて、「あー…。」と唸ったかと思うと、ビスターが威圧的に言った。

こいつは本当に優しすぎる。



「そろそろ帰れ。貴族でなくなるお前を、城の警備兵が放っておくわけないからな。…帰る家、あるといいな。」



最後は残酷なほど明るい声で、ダビニオンの肩を叩き、奴の向きを王広間の出口に合わせ、背中を押した。

そして奴が暴れ出す前に、俺は近くの兵士に手を振って合図し、ダビニオンを拘束させた。

ぐうの音も出させないうちに、拘束された自分の状況にダビニオンは怒りを露わにし、怒鳴りあげようと口を開いたその瞬間。

“絶対的零度の睨み”を効かせ、黙らせた。

領地で海軍兵士どもを一発で黙らせる、俺の得意技だ。

金縛りにあったように顔面が固まったダビニオンを、兵士が連れて行く。

そして俺は、今度こそ奴の存在を忘れ、白ワインをまた一口飲み、息を吐いた。



「…やっぱりお前を敵に回したくねぇ。」


「何の話だ?」



我知らぬと言った顔で、明後日を向く。

ビスターは「おっかわりっ♪」と言って、今度は白ワインを手にした。


そしてお互い並んで、王広間で踊る貴族達を何ともなしに眺める。





「…あの坊ちゃんの人生。全部潰したのお前だろ?」


「 何のことかな? 」




素敵な音楽が奏でられ、優雅なダンス、煌びやかな衣装。

俺は白ワインの残りを掲げ、照明に透かせて見る。

半透明な液体が、煌びやかな世界を歪ませる。

それはアルコールのせいなのか、自分自身のせいなのか、その両方か。




ラフィニアが婚約したのは、俺が15の時だ。

当時の俺から見ても、ソルベールからの婚約の条件は、決していいものではなかった。

でも、父と祖父が口約束で決めてしまったからには仕方なく、この話は動いたのだ。


今もだが、領地における事務的公務は母が一任しており、当時は俺もそれを手伝っていた。

だから、婚約における契約書の作成の際、俺は無理を承知で、一文を入れてほしいと主張した。

それは、


“婚約破棄を申し出た場合、速やかに破棄。申し出された側の違約条件をすべて飲む事。”


と。



妹の幸せの為と言いながら、すべては領地の利益になるように書いた一文だった。


それからは、相手のダビニオンがどういう人物なのか、俺が持つ小隊の一部を使って逐一報告させた。

妹を大事にしているなら、この一文は何も効力を発揮しないただの“文字”で終わる。

しかし、奴は自らその文字を自分を殺す“凶器”に変えた。


誰も見ていないと思って、まだ幼いラフィニアのドレスを破き、嫌がるラフィの髪をハサミで切った。

ラフィニアを苛め蔑むダビニオン。

苛めている時のダビニオンの顔は醜く、歪んでいた。


俺は、妹を不幸にする奴を許さないと言いながら、奴に手を下す時期を窺っていた。

そして、領地に最大の利益を生む条件を整える為、最小の手段で動くことにした。

俺がしたのはただ一つ。年頃に成長したダビニオンに、末端の男爵家の女を言葉巧みに操り、奴へ近付けさせただけ。

それだけだ。

それからは、面白いほどダビニオンはその女に貢ぎ散財。公衆の面前で噂が立つほど、その女を傍に置きはじめた。そしてついにその時がきた。

ダビニオンは自ら婚約破棄を言ったのだ。


その言葉が、貴族の自分を殺す言葉になるとは知らずに。





ただ、俺もまだ甘い。

もう少し早く片付くと思っていたが、思いの他時間が掛かった。

予定では、何も憂いなくラフィニアのデビューを迎えられると思っていたのに。

奴がこの会場に来ているとは。

もっと、完璧に自分の作戦を遂行出来るようにならなくてはならない。




黙ってグラスの中の液体を眺める俺を、黙って見ていたビスターが、力任せに背中を叩いてきやがった。



バシッ!



「ってーなっ!ビスター!」



急に現実に引き戻され、俺は背中の痛さに顔を歪めると、思わぬ真剣な顔のビスターと目が合った。



「俺はお前の敵になるつもりはない。きっと、ずっとな。」



何てことだ。

こんな最低な男が、こんな優しい男を友人として得てしまうとは。

俺は、口角を上げた。



「……明日は雨だな。」


「ひっでーーーー!!」



その後、たわいない話をしてはワインを飲む俺たち。

そこに、シルビアがやってきて、テーブルに用意されたワインをあらかた飲み尽した俺たちを見て、呆れたのは言うまでもない。






10年掛かりの策略。

最後に笑うのは、コンタージュだったというわけですね。

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