婚約者だった人 -ラフィニア目線-
ラフィニアちゃん、天然炸裂っ☆
お兄ちゃん・ビスター・クレール、あんた達素敵だね。
ダビニオン、最低だね。
クレール様と、様々なドリンクが置いてあるテーブルに向かいました。
そこには、色とりどりの液体が入ったグラスが、列にして置いてあります。
「お酒は、口にしたことありますか?」
クレール様は、各グラスを見渡した後、私に聞いてくださいます。
私は、領地にいたころを思い出しました。
海町に住む私の周りには、お酒が好きな方たちばかりです。
海の男は酒が主食!!と公言する方たち。
なので、領地で飲むと、もっと飲め!もっと飲め!と勧められて、あっという間にへべれけにさせられてしまうのです。
ある時、兄がいない時にお酒を口にして、記憶を飛ばしてしまったことがありました。
次の日、自分のベットで目覚めた私に鬼の形相の兄から「お酒は俺がいるとき以外、禁止!」と禁止令が出てしまっているのです。
私は「嗜む程しか。」と、苦い思いで答えると、彼は少し笑って二つのグラスを持って来られました。
レモンが縁に飾られたグラスと、白ワインが入っているグラスです。
私には、レモンが飾られた方のグラスをくださったので、受けとりました。
受け取った時、彼が少し迷った顔をされたので、「どうしましたか?」と首を傾げると、
「デビューのお祝いですから、お酒をお渡ししてもいいとは思ったのですが。貴女が飲み慣れないものは、勧めたくないので。」
レモン水でよろしいですか?と、気を使ってくださいました。私は、改めて自分のグラスを見ると、レモンの爽やかな香りと氷がカランと鳴って冷たくて、とても美味しそうです。
私は「美味しそうです。」と笑って答え、彼に向かい合いました。
「では、ラフィニア=コンタージュ嬢。デビューおめでとうございます。乾杯。」と、クレール様が小さく呟くと、白ワインのグラスを小さく上げられました。
私は、小さく膝を曲げ礼をとり「ありがとうございます。」と言うと、顔をあげました。
そして一口レモン水を口に含みます。
踊ったばかりだったので、レモンの程よい酸味と甘みが私の喉を滑っていきます。
口を離し、「ふう。」と小さく息を吐くと、
「沢山の人の前で踊って緊張しましたね。少し座りましょうか?」
と、私の顔色を見て、手を差し出してくださいました。
「心配してくださって嬉しいです。では、お庭が見えるところへ行きたいです。」
と言ったところで、突然呼び止められました。
振り返ると、久しぶりに見るダビニオン様です。
「ラフィニア=コンタージュ!」
ダビニオン様は、最後に見た顔と同じ顔で私を睨んでいらっしゃいます。
私は、久しぶりに会った彼を見て笑顔を作りました。
「お久しぶりですわ。ダビニオン次期侯爵様。」
そして近くのテーブルにレモン水を置き、簡易な礼を取ります。
クレール様もグラスを脇のテーブルにそっと置かれました。
すると、突然右手を取られ引っ張られました。
え?
突然のことで驚き、身体が彼の方へ傾きかけると、私の両肩をクレール様が後ろから捕まえてくださいました。
「クレール様。ありがとうございます。」
私は、支えてくださったクレール様を振り返りお礼を言うと、苛立ちを含んだダビニオン様の声がまた私を前に向かせます。
「俺が話をしているんだ!こっち向けよ!」
ダビニオン様の声が大きくて、また驚きます。
どうしたのでしょう。
私は、首を傾けダビニオン様の話を聞こうとしたところで、私の前に男の人の背中。
見上げると、後ろで支えてくださっていたクレール様でした。
「…久しぶりだね、ダビニオン=ソルベール。」
お顔は見えません。
でも、クレール様の初めて聞く声音です。
少し硬く低い声です。
「…ジョビニア先輩。」
はたっと気が付きました。
“先輩?”私がクレール様の後ろ姿を見上げると、クレール様がダビニオン様に捕まれていた腕を解いてくださいました。
私は右手をゆっくり自分の胸に引き寄せ、掴まれたところを左手で摩ります。
少し赤くなってしまったようです。
「私の婚約者に、許可なく触れないで欲しい。」
婚約者。
あ、そうですわ。
私、クレール様の婚約者でした。
一時だけなのですけど。
「ラフィニアは、俺の婚約者だったんですよ。…挨拶ぐらい普通でしょう。」
ダビニオン様の顔も、こちらからでは見えませんが、挑発的にクレール様を煽っていらっしゃいます。
「あれが普通の挨拶だと思っているのなら、もう一度学院に帰って勉強し直した方がいいよ。」
「なっ!?」
クレール様も先ほどの声音で、ダビニオン様を諭していらっしゃいます。
でも…
クレール様の手が少し震えているように感じます。
私は心配になり、クレール様の横に歩みより腕にそっと触れました。
すると、その感触に驚いたクレール様が私を振り返ります。
手の震え、止まりました。
私はそのまま彼を覗き込み、笑顔になります。
クレール様も少し表情を緩めてくださいました。
私たちの空気が柔らかくなると、先ほどクレール様に言い返されたダビニオン様が鋭い言葉で割って入ってきました。
「とんだあば擦れだな、ラフィニア。俺と婚約破棄したと思ったら、次はジョビニア次期公爵に鞍替えだ。変わり身の早さに、舌を巻く。」
「ソルベールっ!」
顔を歪めて、私に悲しい言葉を口にするダビニオン様。
クレール様が厳しい口調で、ダビニオン様を呼びます。
私はと言うと、その間にどうしようかと考えていました。
あの言葉は、明らかに私への侮辱の言葉です。
でも、ダビニオン様と婚約破棄をして、すぐにクレール様と婚約したのは事実。
此処は、あの言葉の訂正からでしょうか?
「私、あば擦れではありませんわ。だって、ダビニオン様もクレール様も馬だと思ってませんもの。」
「「 は? 」」
睨み合っていたはずの、クレール様とダビニオン様の声がハモり、同時に私を見つめました。
?仲良しなのでしょうか?
「私、乗馬はあまり得意ではないのです。得意なのは、泳ぐことですけど。あ、でも、海で泳ごうとすると侍女たちに泣かれるので、最近はぱったりと泳いでないのですが。」
私が2人の視線を感じながら、一生懸命に説明していると、笑い声が聞こえました。
「何やら、楽しい話をしているようだね。ラフィニア。」
「お兄様。」
ダビニオン様の後ろから、お兄様ともう一方男性がいらっしゃいました。
私は、簡易な礼を取りお兄様に笑顔を向けます。
お兄様は視線をクレール様に移して、笑顔になります。
「妹が世話を掛けたな。世間知らずのぽわぽわ天使なんだが、迷惑を掛けたか?」
不適なお兄様の笑み、クレール様はほっとした顔をして、肩をすくませました。
「いえ、お噂以上に素敵なご令嬢です。」
「そんな。」
クレール様のお褒めの言葉に、頬を熱くして答えると、お兄様と一緒にいらした男性が前に歩み出て、片手を胸に当てました。
「初めまして、ラフィニア=コンタージュ嬢。俺は君の兄上とそこのクレールの友達、ビスター=エタローンです。ビスターと呼んでください。一応、次期侯爵ですよ。以後お見知りおきを。」
そう言って、私に礼を取られました。
彼が頭を上げる際、ウィンクされたのは気のせいでしょうか?
私は、スカートの裾を持ち礼を取ります。
「初めまして、ビスター様。私はラフィニア=コンタージュ。ラフィニアとお呼びください。」
お互いに自己紹介が済むと、気が付きました。
お兄様が腕を組み、ダビニオン様を射抜いている姿を。
ダビニオン様、錯覚でしょうか?小さく見えます。
「そこにいるのは、俺の義理の弟になる予定 “だった” ダビニオン=ソルベールか?」
ダビニオン様の肩が、大きくビクッ!と動きました。
そして、膝をガクガクさせ、顔色が悪くなっていきます。
私は心配になり、ダビニオン様へ手を差し出そうとして、その手をクレール様に優しく握られました。
ん?と、クレール様を見上げると、彼自身も驚いたように、自分の手と私の手を見つめていました。
そんなことをしている間に、ビスター様がダビニオン様の肩を組む形で、がっちりと捕まえました。
「おい、ダビニオン。久しぶりだな。学院以来か?」
「っ!は、はい……、ビスター先輩。」
「2年ぶりだよな。随分 “イロイロ” 噂を聞くが、元気だったか?」
「………はい。」
私はそんな仲が好さそうなお2人に、私は不思議に思ったことを伺います。
「ビスター様は、ダビニオン様とお知り合いなのですか?そういえば、クレール様も先ほど…。」
私がクレール様を見上げると、クレール様は苦笑にながら教えてくださいました。
「学生時代に知り合ったんだ。彼は私たちの2歳下だからね。」
そういうと、視線を私からお兄様に移しました。
お兄様は小さく頷くと、クレール様も頷いて、先ほどから繋いでいる手を引きました。
何かあるのでしょうか?不思議に首を傾げると、
「私たちは、少し外の風に当たってきます。後は、皆さんで過ごしてください。行きましょう、ラフィニア嬢。」
「あ、でも?」
私は失礼がないのかとお兄様方を見ると、頷かれました。
ビスター様も、ダビニオン様の肩を組んだまま、軽く片手を振ってくださいます。
ダビニオン様はというと、私が行くと知ると顔を上げ、何か言いたそうな顔をなさいました。
ダビニオン様、何か言いたげです。聞いてあげた方がいいのでは?
どうしましょうと眉を下げ、クレール様を見上げると、「大丈夫。」と口パクで伝えられました。
私は、頷くと「では、失礼いたします。」と、クレール様に手を引かれ、その場を後にしました。
怒れるお兄ちゃん。
次話、降臨です。




