王女とワルツ 繋いだ手 -ゲイル目線-
まさか主人公ちゃんたちより先に踊っちゃうとは。
まぁ、王女様のが先か。だって王宮の舞踏会だもんね。
俺はラフィニアより早く王宮に到着し、王広間の横に用意された休憩室にいた。
窓際に立ち、自分の姿を確認する。
久々に着る、侯爵家の軍服。
そして窓に映る俺の胸には、勲章が3つ。
侯爵爵位を意味する、ダイヤモンドに百合モチーフの勲章。
海軍軍師指揮官を意味する、サファイアに剣モチーフの勲章。
そして特殊功績栄誉を意味する、一粒ルビーと金の勲章。
すべて、今までの俺の動向で得た勲章だ。
先ほど自邸で頭も軽く切り揃えた。そっとバックに上げた前髪をまた手櫛で流す。
セットなんか久々にする。
指で押し上げる眼鏡も、サイドの蔓に一粒のサファイアをあしらった夜会用の物だ。
そう。鏡に写るのは、ゲイル=コンタージュ次期侯爵だ。
領地を守り、国を守る。
それ以上でもそれ以下でもない。
自分に課せられた義務と忠義。それに、約束を果たすため、俺は休憩室から音もなく出て、王広間へ続く廊下を歩き始めた。
王広間に着くと、王族が座る玉座に近い位置に待機させられた。
俺は、用意された場所から、各貴族の動向を確認して自分の領地に必要な案件を思案し始める。
冬が来る前に各物資の補充が必要だ。あの壁際にいる伯爵に依頼して、男爵を動かそう。
医師医療器具、薬の類ももっと欲しい。山脈地帯の陸軍侯爵領に全部取られないように、動かないと。
口元に手を置き、感覚を研ぎ澄ます。
シーズンが終わるまでに、手配を完了させて領地に戻る必要があるのだ。
そう呑気に構えてられない。
俺は、目を細めゆっくりと視線を端から端までぐるりと見渡した。すると、
ラフィニアとクレールじゃないか。
俺は、王広間の入り口付近で妹と友人の姿を捉えた。
妹は相変わらず天使で、クレールは妹の横で硬い笑みを浮かべている。
相変わらずヘタレだな、クレール。
全神経を会場の来場者に集中させていたはずなのに、あの2人の姿を見たら力が抜けてしまった。
特にガチガチのクレールを見ると、笑いまで込み上げてくる。
ぽやぽやとした雰囲気を出して、辺りに注意を払う妹:ラフィニア。
次期公爵として背伸びした社交をしている友人:クレール。
きっと周りの貴族にはそんな風に見られていないし、気づかれてない。
立派な2人として映ってることだろう。
でも、2人を良く知る俺だから、うまく動こうとする姿を遠くから見ると、軽く親心じみたものを感じてしまう。
でも、あんまくっつくなよ~~~~!
許さねぇかんなぁ~~~~!
クレール達に俺の自分勝手な視線を送っていると、目の端でビスターが笑っている顔が見えたような気がした。
絶対、次会ったらアイツの脇腹に軽く一発当てとこう。
そう計画を立てていると、ファンファーレが鳴り響いた。
王族が登壇すると、俺ら貴族は最上位の礼を取る。
陛下のお言葉で顔を上げると、国王陛下・王妃殿下・王女殿下が各玉座の前で立っておられた。
陛下のお言葉を聞いた後、ダンスタイムに移る。
陛下は王妃様をエスコートし、王広間のフロアに移動される。
次は俺の番だ。
俺は、王女シルビアの前に立ち、一段高い位置にいるシルビアに右手を差し出す。
すると、シルビアは俺の手に自らの手を重ねた。
視線を重ねられた手に向けると、手は細くて白い。
そのまま視線を上げと、シルビアの瞳とぶつかった。
彼女の瞳には、からかいの色が見られる。
くっそ。余裕じゃねぇか。
俺はこんな時でも、余裕を見せるシルビアに一泡吹かせたくなって、フロアに降りる最後の一段で少し強引に引っ張って、自分の胸に引き寄せてみた。
「っ!」
息を詰めるシルビアに満足して、口元に笑みを浮かべると、シルビアが一瞬眉を顰めた。
しかし一瞬のことで、その後は2人でフロアに歩み出る。
ゆっくりした動作で、シルビアが俺の右腕に手を添え、俺はシルビアの腰をホールド。
最後に、シルビアの右手を自分の左手で繋いだ。
貴族たちの視線が俺たちに突き刺さる。
こんな注目の仕方は、あまり好きじゃない。
…こんな大勢の視線、軍事練習の時しか感じた事ねぇし。
まぁ、いつもは野郎どもばっかの視線だけど。
意識をそっちに持ってこうとする。
が、ダメだ。
初めて触れるシルビアの予想以上に細い腰、俺は男の性を感じずにはいられない。
“平常心・平常心”という言葉を心で繰り返す。
視界に入った、艶やかなデコルテに、大きすぎず小さすぎない胸。
“見えない・見えない”とまた繰り返す。
そして、彼女と息を合わせ視線をからませる。
俺はシルビアに合図を送る。
いくぞ。
軽く顎を引いたシルビアに、カウントをし、最初の一歩を踏み出した。
~♪
動き始めると後は音楽に乗って、足を動かした。
ステップを踏んで、ホールドを離し、シルビアと繋いだ手を上げて舞わすと、シルバーのドレスがさらりと舞ってキラキラと輝いている。
スカートが舞う度に、綺麗だなぁと、客観的に思っていると、視線を感じた。
シルビアだ。
シルビアは、口元を緩ませて口パクで俺に。
“楽しい”と言い笑顔になる。
楽しいって。おい。
次は、少し歩幅を広げ、勢いをつけてクルクルと回してステップを踏む。
シルビアはステップを踏んだ後、スローで胸をそらせて、ポーズをとる。
そのそらせた横顔に、若干の憂いを見たような気がして、俺の胸が少しざわめく。
……楽しいんだろ?だったら、笑ってろ。
この時間が束の間の夢の時間なら、最高の夢にしてやりたい。
俺は、ワルツのステップの切れ目で、シルビアの腰を捉えて持ち上げた。
目を見開くシルビア。
驚いて当然なんだ。ワルツでこんなリフト行為は含まれない。
俺はそんなシルビアを見上げ、口パクで伝える。
“笑え”と。
シルビアは俺の口パクを理解したのか、一瞬泣き笑いのような顔になり、瞳を閉じた。
俺が下ろすと、シルビアは足を止め、俺の肩口に顔を埋めた。
俺はそんな彼女を抱き寄せたい衝動を抑えて、シルビアの腰と手を取り、クルリとターンさせ向かい合う。
俺を見上げるシルビアと、その瞳を受ける俺。
丁度良く一曲が終わった。俺は我に返りシルビアに礼を取り、シルビアも俺に礼を取る。
そのままエスコートしてフロアから退場する。
次は、ラフィニア達デビューする者達のダンスだ。
四方から、白のドレスを纏った令嬢がフロアに集まってくる。
きっと、ラフィニアとクレールも来るはずだ。
俺は、玉座までシルビアを送ろうとしていると、唐突にシルビアに腕を引っ張られた。
歩みを止め、王広間の人々を見守る。
多くの人が動く喧噪の中、囁くシルビアの声。
「…次期侯爵、優しくて意地悪です。」
「…王女。知ってたことだろ?」
誰にも聞かれない、2人だけの囁き。
誰にも見られないように、エスコートするために握っていたシルビアの手を、彼女のスカートのひだの中に隠して、握ってやる。
シルビアが「好きよ。」と言い。俺が「光栄だ。」と言う。
でも決して言ったりしない。
俺もだ。と言う言葉を。
自分たちの立場を理解しているからこそ、その気持ちから手を離そうとする。
なのに、2人の手は繋いだまま。
次はラフィニアちゃんが踊りますよ♪




