到着 王宮の舞踏会 -ラフィニア目線-
なかなか踊ってくれない。
でも、ラフィニアちゃんからクレール君をみると、あんまり挙動不審じゃないのですね。
王宮に私たちの乗った馬車が到着すると、クレール様が先に馬車から出て、私に手を差し出してくださいました。
お兄様やお父様以外のエスコートは、久しぶりです。
私は、そんな彼の手を取り馬車から降りました。
その時、若干スカートがふわりと舞ってしまい、私は慌てました。貴族に有るまじき失敗です。
でも、クレール様は何も言わずに私に微笑んでくれています。
優しい方です。…ダビニオン様なら、眉を顰められたでしょう。
いけません。ダビニオン様の事を思い出すなんて。
私は地面に足を付けた後、そっとスカートを撫でました。
今日着ているドレスは、白のレースの生地をたっぷりと重ねたスカート部に、バックは同色のリボン。胸元には白バラをモチーフにしたレースを飾っています。
髪も侍女たちが、せっせと複雑に編み込んでパールを飾り、サイドにカールした後ろ髪を下げています。
アクセサリーは、ダイヤモンドとパールを組み合わせた物で、私には豪華な首飾りと耳飾り。
今まで着てきたどのドレスよりスカートにボリュームがあり、その他の装いも豪華で、非日常感が溢れています。
でも、それをスマートにこなすのが大人の貴族令嬢なのだそうです。
王宮では失敗出来ないです。気を付けなくては。
横に立つクレール様に恥をかかせないように、軽く頭を下げ「はしたない真似をしました。」と言うと、きょとんとした顔をなさいました。
「なんのことですか?あ、私こそ失礼しました。腕をどうぞ。」
クレール様は自分の左腕をそっと開けてくれたので、私は恐る恐るその腕に自分の右手を添えました。
「…行きましょう。」
「はい。」
彼の合図で、私たちは歩き出しました。
クレール様の腕がカチコチです。きっと緊張してるのでしょう。
私も緊張していますが、でも、彼ほどではないです。
緊張しながらも私をエスコートしてくれる彼の姿に、何故か私の緊張はほぐれてしまいました。
笑みまで浮かんでしまったのは、クレール様に失礼かしら?
クレール様にエスコートされ、王宮の中に入り廊下を歩きます。
点在する照明や騎士様の姿を、横目で確認して実感です。
私、デビューするのですね。
ゆっくりとした足取りで、廊下を歩くと見えてきたのは大きな扉。
扉の前には、騎士様と使用人が控えていらっしゃいました。
使用人たちが、扉を開くと、中は絢爛豪華な王広間が広がっていました。
すり鉢型のフロアは広いのですが、もう多くの来場者がいらっしゃいます。そして、一番奥には、誰も座っていない玉座がありました。
王族の方々は、最後に登場されるのが決まり事です。
「いいですか?入りますよ。」
クレール様が少し屈んで、私の顔を覗き込みました。
私は頷くと、彼と一緒に王広間に足を進めました。
素敵なドレスを着た豪華な夫人たちに、お腹が立派な紳士たち。
お洒落に礼服を着こなしている若い子息たちに、華やかなドレスと笑顔の年若い令嬢たち。
そして、私のような白いドレスを着ている令嬢たちが王広間で、自由に談笑しています。
「陛下が入場するギリギリ前に着いたつもりでしたけど、少し早かったのかな。…時間があるので、挨拶回りをしないといけませんね。出来るだけ避けたかったのですが……。……私に付き合ってくれますか?」
クレール様は、弱った顔をなさって私に向かい合ってくださいました。
私は頷きますが、心配です。きっと、私の顔も弱った顔になっているでしょう。
口元を扇子で隠し、小声でクレール様にお聞きします。
「はい。…因みにどのような挨拶を…?」
「…聞かれたら、あなたを私の婚約者として紹介します。まぁ、私はあまり社交が得意ではないですし、あなたの兄上はとても有名人なので、そこまで話が及ばない可能性は高いのですが。よろしいですか?」
クレール様も声のトーンを落として、私に囁いてくださいました。
この場合は仕方ないでしょう。
一時だけですが私はクレール様の婚約者。
次期公爵のクレール様は、しなくてはいけない貴族の義務があるはずです。お付き合いするのは、婚約者の義務です。
…しかし、私の兄が有名人?
この言葉が多少引っ掛かりはしましたが、まぁ冗談なのでしょう。
私は聞き流して、彼を見て頷き、扇子を口元から外しました。
「分かりました。クレール様に着いていきますので、お願い致します。」
「はい。出来るだけ、面倒な人には当たらないように気を付けます。」
クレール様の言葉に、クスッと笑うと彼自身も笑っている。
2人でクスクス笑い合っていると早速、呼び止められました。
「クレール君。久しぶりだね。」
黒燕尾が良く似合う紳士が現れ、スマートな礼をされる。
私たちも形式通りに礼を取り、挨拶をした。
「お久しぶりです、ベルゴーニュ公爵。公爵領の自慢のワイン、好んで飲ませていただいています。でも、とても希少で、中々手に入りませんが。」
「いや、ジョビニア領の良質な毛織物や羽毛には及びません。それに、小麦などの食物生産量もそちらは高い。いや、まったく羨ましい。」
「去年は気候が良く、いい小麦がとれただけですよ。」
“社交が苦手”と言ってらっしゃっらのに、滑らかに目の前の公爵と話をする姿は、やはり次期公爵様で、しっかりなさっている。
私はクレール様の新たな一面を見て、内心関心していると、クレール様と話していらっしゃる公爵が私の事を見た。
「…ところで、そちらの御嬢さんはどなたかな?」
あぁ、きた。
「この方は、コンタージュ侯爵家ご令嬢のラフィニア=コンタージュ嬢です。ラフィニア…、ベルゴーニュ公爵です。」
「初めまして、ベルゴーニュ公爵様。コンタージュのラフィニアと申します。」
紹介を受けたことで、私はスカートを摘まみ礼をすると、ベルゴーニュ公爵も紳士的な礼をとってくださった。
「初めまして、ラフィニア嬢。そうか、君はコンタージュの娘なのだね。と言うことは、あのゲイル君の妹君か。」
「ベルゴーニュ様は、兄をご存じなのですね。」
「君の兄上は有名人だからね。学生時代から優秀だと思っていたが、今は国中の貴族が押えておきたい貴族の一人だから。」
初めて聞きました。
さっきクレール様が言っていたのはこのことでしょうか。
私の兄は、そんなにこの国の有名人だったとは。
あまりの話に、本当に自分の兄の話なのか首を傾げると、クレール様が笑っている。
クレール様に聞きたいのに、ここで口に出来ないので彼を見上げることしか出来ないでいると、それを見ていたベルゴーニュ公爵が、面白そうに微笑んでいて。
「お似合いだね、クレール君。彼女のファーストワルツは君が踊るのかな?」
「はい。」
「そうか。では、そんな初々しいカップルの邪魔をしないよう、おじさんはそろそろ退散しよう。」
公爵は片眼をつぶりウインクした後、「では、楽しい夕べを。」と片手をあげて、去って行ってしまった。
茶目っ気たっぷりの公爵に、私は呆気にとられて慌てて裾を摘まみ礼をしました。
「小さい頃から知られている人なんだよ。うちの領とベルゴーニュ領は近い位置にあるからね。」
クレール様はベルゴーニュ様の後ろ姿を見送りながら、教えてくださいました。
「そうなのですね。素敵な方でした。」
「そうですよね。」とクレール様が落ち着いて私の言葉に返してくださって、私はそういえばと、クレール様を見上げました。
「うちのお兄様。有名人なのですか?」
見上げると、何故かクレール様がそーっと視線をそらされ、口元に手を置いてしまいました。
「…うん。有名人だよ。侯爵領の経営者としても優秀だし、何と言っても“国境防戦の将”だからね。」
「国境防戦の将?」
「決して攻め込まず、攻め込ませず。国が建国してからずっと、海からの侵略をさせずにいるコンタージュ一族の嫡男にして才将。今や彼の手腕は貴族で知らない人はいないよ。」
「そうなのですか……。」
自分の家の話なのに、雲の上のような話です。
確かにうちの一族は、国を守るために領を強化していますが、海に出て暴れることが好きなお父様とおじい様は、他から見たら海賊のようでしょう。
領民も、幼い頃から海に出て、船の上で戦う技術を身につけさせられます。
最近だと、反り返る岸壁を縄だけで登ったり、砂浜をダッシュ、領内の高山をおもりを付けて登山するなど、様々な訓練も取り入れられています。
…確かに、最近の訓練はお兄様が領経営を手伝い始めた時期のことですわ。
そんなことを思い出して、居心地悪く扇子を広げて顔を隠しました。
「どうしましたか?気分が悪いですか?」
そっと、私に聞くクレール様は、心配そうです。
私は、申し訳なくて「いいえ、大丈夫です。」と笑って答えると、彼は安心したのか「そうですか。」とほっと息を吐かれました。
その後は、私の知らない兄の学生時代の話を聞いて、2人でクスクス笑っていると、
会場に流れる音楽がやみました。
そして、トランペットのファンファーレが鳴り響きます。
「 国王陛下、及び、王妃殿下、王女殿下、入場---- 」
集められた貴族たちは、私たちも共に、最上級の礼を入場される王族へ贈ります。
「皆の者、面を上げよ。」
静まり返った王広間に、陛下の良く響くテノールボイスが響きました。
私たちは礼をゆっくり時、壇の上に座る陛下たちを見上げます。
「今年もシーズンがやってきた。各領地を治める者達よ。交流を深め、更なる国の発展になるよう尽力してくれ。さぁ、ダンスを始めよう。」
パンパン
陛下が手を鳴らされると、私たち貴族は壁側へ寄ります。
まずは、陛下たちのダンスです。
開けたダンスフロアに、陛下が王妃様の手を引き立たれました。
そして、シルビア様の前には、私の兄ゲイルが手を差し出しています。
シルビア様の今日のドレスは、シルバーで豪奢なドレス、頭にサファイアのティアラを付けていらっしゃいます。
シルビア様が兄に手を引かれて歩くと、その度にスカートが優雅に輝いて上品です。
でも、兄も負けてません。
紺色の軍服に、陛下より賜った勲章を胸につけています。
あの軍服は、うちのコンタージュ一族が身につける海軍の正装です。
陛下たちの準備が整うと、指揮者の元、オーケストラがワルツを奏でだしました。
舞踏会が始まりました。
次は、お兄ちゃん目線です。




