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捨て石同然で異世界に放り込まれたので生き残るために戦わざるえなくなった  作者: よぎそーと
六章

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98/102

第98空間 不穏分子2

 翌朝。

 テルオに案内されて問題の連中のところへと向かっていく。

 仲間も一緒に動いていく。

 今の居住地では、朝は食堂に集まって食事をとるのが一般的になってるという。

 そのため、見張りなどについてた者達以外はたいてい食堂に集まっている。

 件の連中も例外ではない。

 実際、テルオと共に出向いた食堂には、問題の連中の片割れである5人がいた。

「あいつらだ」

 小声で示すテルオに、トモキは「分かった」とこれも小さな声でこたえた。

 そのまままっすぐに問題の連中へと向かっていく。

 腰にはいた刀に手をかけ、すぐに抜けるように。

 操気法も用いて動きを加速していく。

 そうしてる間にもシュウジとコウスケがボウガンを手にして狙いを定める。

 それを見た者達が驚き慌てようとしたその時に、ボウガンから矢が放たれた。

 トモキ達の方を向いていた男が、慌てて動き出そうとするも遅い。

 放たれた矢に対処する前に男は胸を貫かれる。

 同席していたもう一人にも矢が突き刺さる。

 それを見てトモキは、近くにあった食卓に上がり、その上を走っていく。

 人と食卓と椅子のある床をゆくよりは早い。

 あっという間に接近したトモキは、抜いていた刀をそのまま背中を見せていた者に振りおろす。

 確かな手応えとともに、鮮血が飛び散った。



 ようやく何事かが起こった事を理解した相手であるが、先手を打たれた不利は覆せない。

 無傷の2人もすぐにマサタカとトシユキに切り捨てられる。

 ほとんど食卓を囲んだ状態でいた5人は、例外なく床に倒れていった。

 もれなく血を吹き出して。

 何が起こったのか分からなかった者もいるだろう。

 そうでなくても、なぜこうなったのかを理解出来ないでいる。

 何が襲いかかって来たのか目で見ながらも、そこに至る理由を思いつかない。

 いや、理由は分かっている。

 自分達のとってる態度を省みれば、何かしらの反応が出て来るとは思っていた。

 しかし、ここまではっきりとした行動をとるとは思っていなかった。

 周りの連中は彼等の頭領が言葉で抑えていた。

 言葉でどうにかならない者達は、彼等自身が集団で取り囲んで威圧して黙らせた。

 それで問題は無くなっていた、あったとしても表に出て来る事はなくなっていた。

 そのはずだった。

 しかし、それが今崩れた。

 呆気ない程簡単に。

 それをやった者が彼等の前に立っている。



「あ、あんた……」

 比較的傷の浅い者が口を開く。

 矢で体を貫かれているが、まだ息がある。

 胸に、肺を貫通してるからそんなに長くはないが、それでも他の者達に比べればマシだった。

 何せ三人は体を切断されている。

 これではどんなに頑張っても生きながらえる事は出来ない。

 発見された超能力や魔術による治療でも受ければどうにかなるかもしれないが。

 しかし、それをするにしても即座に対応をせねばならない。

 まだ息があるうちに、死ぬ前に傷を塞がねばならない。

 超能力にしろ魔術にしろ、傷を即座に癒す力がある。

 だが、あくまで生きてるうちの話だった。

 死んでしまえば効果を発揮する事は無い。

 なので、倒れた者達が生き返る可能性はほとんどなかった。

 仮にこの場に治療が出来る者がいたとしても、あまりに深い傷をなおすには時間がかかる。

 それまでに死んでる可能性の方が高い。

 肺を貫通してる者達も同じだった。

 すぐに矢を抜き取り、傷を塞げばどうにかなるかもしれない。

 だが、周りの者達は動こうとしない。

 あまりの事に頭が働かない。

 何をどうすれば良いのか判断がつかない。

 治療が出来る者がいるかどうかも分からないが、いたとしても即座に動ける状態ではなかった。

 それが傷を受けた者達の生き延びる可能性を奪っていった。

 それを理解してるのかどうかは分からない。

 だが、やられた者達はこれらをやってのけた者に言葉を吐き出す。

「こんな事して済むと思ってるのか!」

 彼等からすれば一方的な暴行である。

 たとえ彼等に非があるにせよ、裁きも何も無くこのような暴行がなされて良いわけがない。

 ……という考えはすべて彼等の頭領の受け売りである。

 だが、なまじ現代日本で生きていた彼等にとって、それはごく当たり前の事に思えた。

 実際、それほど間違ってるわけでもない。

 ここが日本であればそういった意見は通ったであろう。

 一部例外はあったかもしれないが、たいていの場合はそれで通る。

 しかしそんな彼の前に立つトモキは、ただ一言で切り捨てた。

「良いに決まってるだろ」



 あっさりと言い放ったトモキは、何を言ってんだと思いながら目の前に倒れる者を見た。

「やらかした奴を倒して何が悪い?

 このまま放置して被害が出るより、さっさと潰す。

 それが普通だ」

 トモキとしてはそうするしかないと思っていた。

 確信と言ってよい。

 かつてそれが出来なかったから招いた悲劇がある。

 二度と繰り返さないように、やれる事はやっていく。

 ただそれだけだった。

「ふざけ……」

「いいから、死ね」

 なおも言いつのろうとする相手に刀を叩き込む。

 絶妙な力具合と刃筋と操られた気によって、それは相手の頭を粉砕した。

 5人はあっさりと倒され、食堂に血のにおいが漂っていく。

 それを見てる周りの者達は表情を無くした顔を並べていく。

 モンスターを倒す事はあっても、人の死を見る事は無かった者達である。

 殺伐としたこの世界においてであっても初めて見る人の死に驚きを隠せないでいた。



 倒れた連中をビニールシートでくるみ外に運び出していく。

 それから食堂の掃除にとりかかる。

 飛び散ったのは血だけではない。

 他にも色々と汚れがある。

 それらを洗い出すために、食堂は一時使用不可能となっていった。

 食事時だっただけに人も多かったが、誰もがそのまま外へと出ていく。

 さすがにそのまま食事を続ける事が出来るほどの胆力(もしくは鈍感さ)を持ってる者はほとんどいない。

 食べてる最中の者も、まだ何も口にしてない者も例外なく退出していった。

「さすがになあ……」

「弁当にするか」

「俺、しばらく食べなくていいや」

 そんな声があちこちから上がっていく。

 当然だろうなと思いつつも、トモキは車を持ってこさせて、死体を荷台に載せた。

 念のために荷台にもビニールシートを敷いて、汚れが拡がらないようにしてから。

 そんなトモキにカズアキは、やれやれといった調子で接している。

「なんか申し訳ないでござる」

「気にしなくていいよ」

「いや、本来ならモレがどうにかせねばならなかった事案でござる。

 それをトモキ殿にやらせてしまい、申し訳ないであります」

「まあ、そこはそれだわな」

 カズアキにも今の立場があるのだろう。

 だからこそやりたくても出来ない事だったのだろうとは思う。

 そこを糾弾する気はなかった。

 むしろ、やりにくい中で必死になって頑張っていたのだと思いたかった。

 今や中心的な立場にあるようだし、それなりに苦労もあるのだろう。

 そこはトモキとは違う。

「俺は俺のやれる事はやった。

 そんだけだよ」

 カズアキにもテルオにも出来なかった事をやった。

 そうと決まってるわけではないが、他の者達に出来なくて、でもトモキの立場や位置なら出来る事。

 それが今回こういった事だったというだけである。

 今はそう思う事にした。



 そんなトモキ達に、

「いくら何でも、これはないだろう」

 食ってかかる者が出てきた。

 トモキとカズアキの所に出てきたその者は、トモキのやった事を非難してるようだった。

「いきなり斬りつけるなんて、どういうつもりなんですか。

 いくらあなたが重鎮でも、さすがに許される事ではないですよ」

 そういう彼をトモキは驚いて見つめた。

 何言ってんだこいつと思いながら。

 相手の後ろに控える3人の取り巻きらしき者も見つめて。

 やがて気持ちも頭も冷めていき、相手の事を見つめる。

 自分でも分かるほど感情や気持ちが消えていた。

 動かないというのが正確なのかもしれない。

 その間も相手は何か言いつのっていたが、それが耳に入る事も無かった。

 ただ、刀を手にして相手を斬りつけていた。

 何の容赦もなく。

 袈裟懸けに切られた相手は、自分に起こった事を理解出来ないといった様子であった。

 無表情のままトモキは残る3人も切り倒す。

 ただ切る事だけ考えながら。



「何なのこれ?」

 近くにいるカズアキに尋ねる。

 聞かれた方は肩をすくめて、

「同調してた奴らって事になるのでありますかね。

 偉そうに講釈をたれてた連中とは別行動をしてたみたいでありますが」

「うちらのやり方に賛同出来ないって事では同じではあったけどね」

 テルオの補足もあってトモキは事態を理解する。

「同類ってことね」

「まあ、そんなものでありますな」

「当たらずしも遠からずになるのかな。

 もの凄く似たような何かだとは思うけど」

 非情なまでに冷めた調子で斬り殺した4人を評価するトモキ達は、ただただ呆れたように亡骸を見下ろす。

 そこには同情や憐憫は欠片もなかった。

 3人は、久しぶりに抱く感情を共有しながらそれらを見下ろし、新たに手に入れたビニールシートでそれらをくるんだ。

「……なんか、本当に思い出すであります」

「……あの時もこんな気分だったねえ」

 無言でそんな言葉を聞くトモキも、同じような気分だった。

 マキが死んだ時、死ぬ羽目に陥った時に抱いたもの。

 そうなる原因を作った連中に向けた感情が、時を経て胸の中にこみ上げてきた。

 だからであろう、情けをかける気には全くならなかった。

 むしろ、もっと早くやるべきだったという、あの時と同じような後悔だけが胸にこみ上げてくる。



 それは食堂の中から見つめていたヒトミも同じだった。

 目の前で起こった惨事と言える出来事を、彼女もどこか平然と見つめていた。

 冷めているといってもよいかもしれない。

 いつか見た不幸を彷彿とさせるような出来事がここ何ヶ月か続いていた。

 誰かが犠牲になって命を落とす……そういった最悪の事態には陥ってないが、いずれそうなるのではないかと感じていた。

 そうなる原因を作った者達を、だが様々なしがらみや大きくなった集団内の人間関係を考えて手を出す事が出来なかった。

 表面的には問題無く続いていく毎日の、裏側や水面下で蓄積されていく淀みを感じていながらも。

 だが、それがようやく終わろうとしてる。

 持ち場である食堂で起こった出来事には驚いたが、なるべくしてなったと思った。

 それ以外に何かを考える事もなかった。

 驚きはしたが、同時に「やっぱり」とも思っていた。

 やはりこうなったか、と。

 そんなヒトミのそばにいた者が、

「あの……」

と声をかけてくる。

 食堂で同じように働いてる者だ。

 元々料理とかが多少は出来たので、戦闘などに出る事もなく食堂の手伝いをしてもらっている。

 それだけに荒事には慣れてないのだろう、顔面が蒼白になっている。

「あの、あれって、あれって……」

「問題を片付けたって事ね」

 言葉がおぼつかなくなってる相手に、ヒトミはさらっと応じた。

 あまりにもあっさりとした、普段と変わらない声音に話しかけた者が驚く。

「最近おかしな雰囲気になってたし。

 こうでもしないといけなかったんでしょうね」

 そこに人が死んだ、殺された事への忌避感といったものは感じられない。

 起こった問題を解決していったというような調子しか見受けられない。

 尋ねた者はそれが信じられなかった。

「でも、人が……」

「うん、そうだね」

 口にするのも憚られたのか、尻つぼみになった言葉を正確に汲み取り、ヒトミは応じていく。

「こうしないとどうしようも無かったしね。

 最近、さすがに態度が酷かったし」

「…………」

「うちの旦那のところに詰め寄ってきたりで結構大変だったんだよ。

 他の皆には迷惑をかけてはいなかったようだけど。

 まあ、簡単な人気取りだろうね。

 ああいう連中はそういう人気取りが上手いから」

 見てきたように語るヒトミは、軽くため息を吐いて言葉を続ける。

「このまま行ってたら、もっと酷い事になってたと思う。

 もう何年も前だけど、そういう事があったから。

 その時も、死ななくていい人が、死んじゃいけない人が、死ぬべきじゃなかった人が死んだから。

 そんな原因を作った連中をそのままにしておいたせいでね」

「…………」

「そうなる前、同じような事が起こる前に片付いて良かった」

「…………」

 その言葉を聞く者の顔は、声をかける前によりも更に白くなっている。

 表情も感情も完全に消えている。

 能面のような、と言ったら能面に失礼になるほど平坦な顔になっていた。

 まさかヒトミがここまで言うとは思ってもいなかったのだ。

「あの、でも、人が……」

「死ぬよ、いつでもどこででも」

「…………」

「ここで、こんな場所でって事じゃなくてね。

 人はね、簡単に死ぬの。

 そしてね、人って簡単に人を殺すの。

 それを躊躇わない人っているの。

 だからね、そんな人を許しちゃいけないの」

 そういうヒトミの声は、誰も聞いた事が無いほど落ち着いた、澄んだものだった。

 なぜか恐怖を覚えるほどに。

「それを許しちゃうとね、取り返しの付かない事になるから」

 ヒトミは尋ねてきた者に見返り、言葉を続ける。

 その顔を見て、話しかけた者は驚いた。

 表に出る事はなかったが、胸の中で感じた衝撃は大きい。

 とても澄んだ顔で、とても穏やかな顔をしていて、それでいて何かを秘めてるような、隠してるような表情だった。

 ヒトミという存在の持つ深淵がそこにあるようだった。

 あまり口数が多くない、どちらかと言えば物静かな彼女らしい、それでいて彼女らしからぬものを感じた。

 そんなヒトミの口から出て来た言葉も、やはり彼女のものとも思えない彼女らしいものだった。

「わたしもね、色々あったんだよ」

 尋ねた者が抱いていった疑問への、この上ない回答であった。

 そこまで言い切れるのは何故なのか、と思っていた矢先である。

 気持ちを読まれたのかと思って驚いた。

 そして、あらためて恐怖をおぼえた。

 日頃親身になってくれるヒトミの持ってる何かに。

 色々というこれまでに何があったのかに。



 処分した者達を載せてトモキは車を走らせた。

 適当なトンネルを幾つか超えて先へと向かう。

 まだ人が踏み込んでない場所に向かい、轍を作っていく。

 ブレーキを踏んだのは空間を5つほど超えた場所。

 そこで、積み込んできたものを放り出していく。

 先ほど斬り殺した者達だ。

 車を汚さないようにするのにちょっとだけ気を遣ったが、それ以外はぞんざいな扱いになる。

 丁重にする理由もないので、それで全く気にならなかった。

「しかし、こんな所に放り出しちまうんですか?」

 さすがに思う所があるのか、トシユキが躊躇うような声を出す。

 それほど接点があったわけではないが、それでも人をこのように扱う事に抵抗があるのかもしれない。

 そんな彼にトモキは、

「これ以外に無い」

とはっきり言い切った。

「まともに生きてたなら、丁重に葬るさ。

 でも、こいつらにそんな事をする理由は無い」

 問題を起こしてる連中である。

 丁重に扱う理由がない。

「こいつらもまともに扱ったら、他の連中に申し訳がない。

 やらかした事にふさわしい対応ってのがある。

 そこはしっかりと分けなくちゃ駄目だ」

「はあ……」

「それに、こいつらをあの人と同じように、同じ所に埋めるなんて絶対に出来ん」

 生きていたらどれだけの事をもたらしてくれたのか分からない人と同じ扱いは出来なかった。

 死ねば皆同じ────そんな事は絶対にないし、絶対に認めてはならない事だった。

 だとすれば、マキも救い用の無かったあの屑も同等になってしまう。

 そんな事認めるわけにはいかない。

 周りにいた者達も、その声を聞いて何も言えなくなった。

 言葉もないというよりは、何かを言う事が憚られるような気がして。



「でも、本当にあれで良かったんですかね」

 帰りの車中でトシユキは再び尋ねた。

 トモキのやってる事に異論があるわけではない。

 ただ、自分の中に釈然としないものが残っていた。

 それがどうしても納得を拒んでる。

「なんか、罰当たりな気が」

 知らず知らずに身につけていた考えや思いがそう思わせる。

 幾らやらかした者とはいえ、あんな雑な扱いで良いのだろうかと。

 トシユキだけではなくその場に居た誰もがそれについては似たような考えを抱いていた。

 そんな彼等にトモキは、

「大丈夫だ」

と告げる。

「神や仏だって、善人と悪人で天国行きと地獄落としの差を付けてるんだ」

 俺らが同じように差を付けて何が悪い、と続ける。

 言われた他の者達は「ああ……」と声をあげた。

 まだまだ納得まではいってないが、なるほどと思えるものがあった。

 それが完全な解答でないにしても、一考の余地のある何かを感じていった。



「ま、そんな事はこれから考えていけばいい」

 車中の空気を変えるようにトモキは口を開く。

「まだ片付いてない連中がいる。

 そいつらもどうにかしないと」

 言われて彼等も思い出す。

 まだ完全に片付いたわけではないと。

 居住地にいない5人をどうにかせねばならないのだと言う事を。 

 現状では続きがいつになるか分からない。

 昨日も書いたけど、毎日の投稿はつらい状態。

 週一でやろうかと考えてもいる。

 あるいは、書き貯まったらその都度投稿していくことにするとか。

 どうしたもんかと悩んでいますが、なかなか決められずにいます。

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