第92空間 追跡3
追ってきたモンスターは5体。
特別多いわけではないが、油断出来ない数だった。
そんなモンスターにシュウジとコウスケの射撃が開始される。
自動車を追跡するほどの脚力を持つモンスターは、動きも機敏なようで飛んでくる矢を避けていく。
だが、それが動きを若干ながら遅くしてもいく。
牽制としてなら十分である。
モンスターの正面に立つマサタカとシュウジの負担が減る。
突進を阻まれただけでも勢いが衰える。
それだけでもありがたかった。
勢いが削がれればそれだけでもぶつかった時の威力が減る。
まずはそれだけで良かった。
始めて遭遇するはずのモンスターである。
顔の形などは他のモンスターと似通ってる。
しかし、体の方などは別ものと言って良いほど異なっている。
今まではどちらかというと肩幅や横幅のあるものが多かったが、目の前のものはかなりの細身だった。
似てるかどうかと言えば首をかしげるが、どちらかというと馬など近い。
これまでのものはクマや牛のように厚みがあっただけに、その差がはっきりと感じられる。
足の速さもその体型によるものなのかと思える程である。
そんなモンスターが迫ってくるのを見て、トモキ達は優れてるのが足の速さだけであるよう願った。
もし他の能力も高ければ、それだけ生き残るのが困難になる。
あくまで相手が一芸に秀でてるだけであれば、対処はまだしもどうにかなる。
ただ、これだけの運動能力をもつモンスターが、他の部分で並以下であるとは考えづらい。
それが大きな不安要素ではあった。
盾を構えるマサタカは、そんなモンスターの前に出ていき剣を振る。
接触してからの攻撃だけに当てる事はそれほど難しくはなかった。
だが、問題なのはそこからだった。
今までのモンスターにはない感触が手に響いてくる。
「なんだ、これ……?」
固い。
獣毛と筋肉の組み合わさった、弾力のある硬さだった。
分厚い楔のような刃が全然食い込まない。
レベル10に到達してるマサタカとトシユキの攻撃ですら完全には食い込んでいかない。
むろん、剣自体の重みに二人の太刀筋の早さと正確さは、モンスターにも相応の損傷を与える。
剣が撃ち込まれた場所の肉はひしゃげ、骨にもヒビを入れんとする。
なのだが、それが既に他のモンスターとの違いを示している。
今までのモンスターであれば、多少強いものであっても二人の攻撃を受ければほぼ一撃で粉砕出来ていた。
当たったのが手足であれば切断し、胴体であれば体の半分は切り裂き、頭であれば文字通り粉砕する。
なのに目の前のモンスターはそこまで酷い事にはならない。
刃が肉に食い込んでも切断というほど酷くは無い。
ひしゃげてしまってるので損傷にはなるが、今までに比べれば浅いものになっている。
それが二人を驚愕させた。
それだけではない。
攻撃を撃ち込んだ二人に、モンスターも反撃を仕掛けてくる。
それをかざした盾で受け止めていくのだが、一撃が重い。
「ぐっ……」
「うわあっ!」
受け止めた盾は、表面を薄い鉄で覆ってるのでそう簡単に壊れる事は無い。
なのだが、打撃を受けた部分にへこみが出来ている。
幸い、受け止めた腕が壊れたりする事はなかったが、衝撃が体全体に響き渡る。
「受け止めるな!
出来るだけ避けろ」
マサタカがどうにか声をあげて警告をする。
だが、それすらもかなり難しい。
俊敏さはモンスターの方が上回る。
そんな相手だけに攻撃速度も速い。
当てるのも大変だが避けるのも難しい。
かなり厄介な敵である。
(さすがに、まずいか……)
彼我の戦力差はおそらくそれ程ない。
それだけに、ほぼ自分達と同数である敵の数は大きな脅威であった。
下手すれば確実に負ける。
死人が出てもおかしくはない。
それが自分になるかもしれないと思ったマサタカは悪寒をおぼえた。
この世界に放り込まれ、最初の戦闘をした時に感じたものと同じだ。
その時と同様、命が潰えていく恐怖をおぼえていた。
森の中に隠れていたトモキも行動を開始する。
まずはボウガンを使って遠距離から攻撃をし、出来るだけ損害を与えていく。
奇襲だっただけに、これは意外と上手くいき、矢はモンスターの体に突き刺さる。
操気法によって気も込めていたので威力も上がっている。
身体能力の向上だけでなく、操気法はこういった用い方も出来た。
これをレベル4まで上げたトモキは、その威力を確かに感じていた。
しかし、目の前のモンスター相手にはこれでも全然足りないようだった。
突き刺さった矢は、確かにモンスターの体に突き刺さってはいる。
それもかなり食い込んでいる。
なのだが、決定打にはなってないようで、いつものようにモンスターが倒れるといった事は無い。
(かなり頑丈だな)
驚くよりも恐怖をおぼえた。
今まで見てきたモンスターとは次元の違う強さを感じる。
それでも森の中からありったけのボウガンで攻撃を加えていく。
元々持っていた7挺のボウガンは、モンスターに多少の損害を与えていく。
しかし致命傷にはほど遠い。
(やっぱり効かないか)
少しでも傷になれば良いと割り切ってはいるが、その望みは果たせそうになかった。
それよりも、横からの攻撃に気づいたモンスターが接近してくる事に気を向けねばならない。
刀を抜いて森の中に入り、相手が侵入してくるのを待つ。
物陰に隠れての攻撃をしていかねばならないので、障害物のある所に敵を引き込む必要がある。
ありがたい事に二体のモンスターがやって来てくれた。
荷は重いが、その分他の者達の負担が減る。
(上手くやってくれよ)
五人の仲間の働きを期待しながら、物陰に潜む。
あとは気づかれないように接近して、攻撃を繰り出していくだけである。
トモキが二体を引き受けてくれた事で、他の者達の負担は確かに減った。
とはいえ苦戦は免れない。
前に出るマサタカとトシユキは、斬りつけながらもモンスターからの攻撃を避け続けている。
攻撃は当たっているのだが、それが効果をどれだけ上げてるのか悩ましい。
おまけに、前に出てるのが実質二人なのに、モンスターは三体いる。
数の上では不利だ。
キヨヒデは最近治療の技術を中心に成長させているので、戦闘力という部分では心許ない。
今まで出て来たモンスター相手なら十分な腕を持ってるが、目の前に出て来た細身のこのモンスター相手では力が不足しすぎてる。
かといって、決定打がそうそうない。
このままでは押し切られて全滅になりかねない。
(一か八か……)
攻撃を避けながらマサタカは考えていく。
自分達と相手の違い、優位な点と不利な部分。
幸い、斜面の上の方にいるので不利はそれほどない。
しかし、力の違いは大きく、どうしても押し切られそうになる。
攻撃は当てるには当てられるが、効果が出てるとは感じがたいものがあった。
これを覆す方法があるかどうかを考えていく。
(これなら、やれるはず)
彼我の差を比べ、可能性を考えていく。
一見不利に思えるが、それが逆に利点になるのではないかと思いながら。
「狙え!
こいつらの頭を狙え。
狙って、撃て!」
後ろにいるコウスケとシュウジに向かって叫ぶ。
それを聞いた二人は、わずかに間をおいたもののその次の瞬間には動き出す。
手にしたボウガンを構えながら、言われた通りに事を実行しようとする。
車の荷台からモンスターに照準を合わせる。
普通なら、間に立つマサタカ達が邪魔になるのだが、今はその心配は無い。
モンスターはマサタカたちよりもが高く、頭の位置はマサタカたちよりもずっと上だ。
加えて二人とも車の上にいるので、射撃位置も高い。
間に障害となるものが無い状態だった。
その利点を活かし、狙いをモンスターの頭につける。
引き金を引き、矢を放つ。
目の前の敵に意識を向けていたモンスターは、それに気づくことなく矢を頭にうけた。
致命的な部分への攻撃は免れたようだが、動きは一時的に止まる。
すかさずマサタカはモンスターの横に回り、脇を狙う。
比較的やわらかいその部分に叩き込まれた刃は、モンスターの太い動脈を切り裂いた。
ここにきてようやく致命傷になりうる攻撃がなされた。
続いてマサタカは膝の裏や手首などを狙っていく。
とにかく相手の動きをとどめることが先だった。
ついでに頭にも回って目も潰していく。
すぐに倒すことは出来ないが、これで相手の動きを封じることが出来た。
そうしてるうちに、無傷で残っていたもう一体にも矢が突き刺さっていく。
それらもまた頭に当たり、肉と骨をえぐっていく。
キヨヒデがそちらに動き、モンスターの目を潰してからあちこちを攻撃していく。
太刀筋はマサタカとトシユキに劣るが、動きを阻害されたモンスターを相手にするには十分だった。
かなり苦戦をしたが、目の前にいる三体との戦いは、マサタカ達の勝利で終わりそうだった。
明日も19:00公開予定




