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捨て石同然で異世界に放り込まれたので生き残るために戦わざるえなくなった  作者: よぎそーと
六章

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第90空間 追跡

 兆候を掴んだのは、それが接近してきてからだった。

 距離はおよそ数十メートル、背後から接近してくるのに気づいた時には、もうそこまで近づいてきてた。

「なんだ?」

 気づいたトモキがボウガンを取り出して構える。

 他の者もそれを見て武器を手にとっていく。

「何があったんです?」

 ボウガンを構えるトモキに、近くにいたコウスケが尋ねる。

 トモキは「分からん」と答える。

「何かが近づいて来るけど、何なのかまでは分からない。

 でも良いやつじゃないとは思う」

 エンジン音などに負けないように張り上げた声でトモキが説明をする。

 要領をえたものではないが、それでも周りの者達は武器や盾を構える。



「一度止まりますか?」

 運転席のシュウジが尋ねてくる。

 だが、トモキは「そのまま走ってくれ」と告げた。

「止まったらどうなるか分からん。

 ここは逃げの一手でいく」

 何が迫ってくるのか分からないだけに、止まる事の方が危険に思えた。

 守りやすい場所に立て籠もるならともかく、開けた場所ではさすがにそれも難しい。

 空間中央部の丘、それを覆う森の中に入ろうかとも思ったが、それもどれだけ効果があるのか分からない。

「トンネルまで走ってくれ。

 とにかくやり過ごしたい」

「はい!

 それじゃ、飛ばしますよ」

 その声を聞いて助手席以外の者達は荷台の縁を握る。

 割と凹凸のある平原では速度をあまり出せない。

 下手に出せば、乗ってる者達を吹き飛ばすことになりかねない。

 車にも無理な負荷をかけてしまい、壊れる可能性があった。

 そうでなくても、横転する可能性は避けられない。

 なので、時速50キロにおさえて常に運転はしていた。

 それにしたって、かなり神経を使う。

 そこから更に加速して速度を上げると言ってるのだ。

 皆、慌てて体を固定しようとする。

 体を伏せる者もいた。

 そういった努力も虚しく、速度をあげた車は地面の凹凸にあわせて揺れ、体が時折荷台から跳ね上がる。

 外に飛び出すほどではないが、気持ちのよいものではない。



「どうです、少しは引き離せましたから?」

 運転席からの質問に、トモキは少しだけ頭をあげて後ろの様子をさぐる。

 震動する車の上では目標を目にとらえる事も難しかったが、それでも迫って来る気配は感じられる。

「駄目だ、多少は開いたかもしれないが、まだ追ってきてる」

「しつこいですね」

 誰かが舌打ちしつつそんな事を言う。

「なんなら撃ってみますか?」

「そうしたいけど、これだけ揺れてるとな」

 トモキの腕では当てる事は難しい。

 そもそも狙いを付ける事もままならない。

「ですね。

 もうちょっとおさまってくれればいいんですけど」

 トモキよりボウガンの技術は上のコウスケすらそう言っている。

 これでは狙って当てるのは難しい。

「どうします。

 引き離すのも難しそうですし」

「とにかくトンネルまで行こう。

 そうすりゃ、少しは速度も出せる」

 トンネルの中は平坦な道になってるので自動車の最高速度を出せる。

 そこならば少しは時間が稼げるだろうという目論見があった。

「それに、揺れない車の上なら狙いも付けられるだろ?」

「まあ、それなら少しは」

 実際は相手の動きや、車自体の動きもあるので簡単に狙えるわけではない。

 今よりはマシであるが。

「とにかく、そこで一度やってみてくれ。

 与えれば儲けもんだし」

「分かりました」

 そういってコウスケは頷いた。

 当てられるかどうかは分からないが、そういってくれて少しは気が楽になった。

 絶対に当てろと言われないのはありがたい。

「あと、トンネルを抜けたらシュウジは運転を代わってくれ」

「分かりました」

 運転席から元気の良い返事が聞こえる。

 運転技術を身につけてるシュウジであるが、ボウガンの腕もこの中では高い。

 トモキと代わった方がボウガンの命中は期待出来る。

 交代で運転していたが、それが今は仇となっている。

「それまで後のやつが離れていってればいいけど」

 期待は出来ないが、願わずにはいられなかった。



 幸い、トンネルに入り、最高速度まで上げた自動車は追跡してくる何者かを離していく。

 ただ、歩きでは長いトンネルも来るまではすぐに通り抜けてしまう。

 そんな短い距離の中で差を付けてもそれほど大きな成果にならない。

 トモキとシュウジが運転を交代したから、その差もほとんど無くなる。

 だが、少しでも止まっていたおかげで、コウスケがボウガンを放つ事が出来た。

 一直線に迫って来るモンスターは格好の的である。

 ついでに迫って来るものの姿も、多少は観察する事も出来た。

 車を発進させたトモキはそれを尋ねていく。

「相手は見えたか?」

「ええ、少しだけですけど」

「どんなやつだった?」

「それは……なんとも言えません。

 今まで見た奴とは少し違ってるようではありましたけど」

「となると、新種か」

 新しい敵という事なのだろう。

「どこから来たんだか……」

「あそこじゃないですか、一番奥の所とか」

「あそこから?」

 キヨヒデの言葉に思わず聞き返した。

「俺達が行った一番奥の場所だろ。

 そんな所からついてきたってのか?」

「そうかもしれないって事で」

 キヨヒデも自信はないようだった。

 だが、否定するべき理由もない。

 今のところ、可能性は全てありえる事としてとらえねばならない。

 検証を重ねて、可能性の有無を確定しない事には、自ら様々な可能性を潰す事になる。

 謎だらけのこの世界において、下手に可能性や疑いを切り捨てる事は、自ら退路を断つことにもなりかねない。

 だが、それでもさすがにそれは信じたくなかった。

「ここまで2万キロくらいあるんだぞ」

 慎重に速度を出しながら運転するトモキは、速度計の示す時速とその下にある走行距離をちらっとみてぼやいた。



 可能性としてそれがあり得るのは確かだった。

 今までにない強力なモンスターが出て来ていた地域である。

 見た事もない、今まで以上に更に強力なモンスターがいてもおかしくはない。

 その中でも、移動速度に秀でた存在がここまで追跡してきた、というのはありえる事ではあった。

 だが、それにしても2万キロである。

 それだけの距離を足で移動してきたというのは考えにくい。

 トモキ達を追跡してきたというなら、時速50キロを超える速度で移動してきたという事にもなる。

 昼も夜もなく、ひたすら動いていたならもう少し落ち着いた速度でも良いだろうが。

 だが、休むことなく動ける体力がなければ出来ない事である。

 もしそうなら、それはそれで驚嘆するべき、そして恐るべき能力を持つモンスターという事になる。

「どっちにしても、たまんねえな」

 トモキとしてはもう少し大人しい能力である事をねがわずにはいられない。

 だが、後ろからついてくる敵は、そんな願いを粉砕してくれている。

 バックミラーにわずかに見えるモンスターは、つかず離れずの距離を保ちながらトモキ達を追っていた。

 明日も19:00公開予定

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