第9空間 足りぬ足りぬ、全てが足りぬ
無い無いづくしはまだまだ続く。
だんだんと周囲が暗くなり、夜になっていくのだと実感させられる。
そうなってくるとどこで寝るのかが問題になる。
幸い雨は降ってないし、夜(暗く)になってると言ってもそれほど寒くはない。
それでもテントもなく、布団もない状態で寝るのは結構つらい。
おまけに、モンスターが徘徊してるこの場所で、安全に寝られる場所などほとんどない。
どこかにあるかもしれないが、そんな便利な場所は見つかってない。
どこか適当な場所で野宿をするしかない。
交代で見張りをたてながら。
「布団とか家とかも、そのうち商品に出てきますかね」
「どうだろうな」
最初の当番になったトモキとカズアキは、そんな事を言いながら時間が経つのを待った。
明日の朝が来るまでは、腰を落ち着けた森の中で一夜を過ごす事になる。
見通しは良いが簡単にモンスターに発見される平野は避けた。
視界は遮られるが、遮蔽物もあるし隠れるのも容易な森の方がまだましであるとの判断だった。
発見されないように灯りも点けないように徹底していた。
おかげで焚き火もないので暖も取れない。
それほど寒くはないが、夜間と思われる暗くなってるこの状態は、明るかった時より幾分肌寒く感じる。
せめて毛布などがあればと思うが、当然そんなものはない。
全員、ここにやってきた時に身につけていたものだけしか持ってない。
「……着替えとか、風呂とかも考えていかないとな」
「そういえば、それも必要でござったな」
「そのうち商品にも出て来るのかな」
「わからんですが、可能性はあるかと」
現在の保有点数に応じて商品は増えていくようなので、いずれは様々な物品を手に入れる事が出来るようになるはずだった。
ただ、どこまで物を揃えてるのかは分からない。
それほど多くは増えないかもしれないし、もの凄く多くの品を選べるようになるかもしれない。
「稼いでみないとわからんか」
「左様。
全てはやってみるまで分からない事でござる」
「モンスターとやりあうしかないって事だよな」
「然り。
どのみち、襲われる前に倒さねばならぬでありましょうぞ。
ならば、出来るだけ積極的に狩りをするのが吉かと」
「そうだな。
食い扶持を手に入れるにも、やらなきゃならないし」
食っていくのも大変である。
「これがゲームだったら、もっと楽しくやってたでござるがなあ」
「そうだよな。
……って、そういやネトゲとか何とか言ってたよな」
前にカズアキがそう言ってたのを思い出す。
「何かやってたの?」
「ええまあ。
拙者、ネトゲ歴は長く、様々なものに手を出しておりまする」
「ここみたいな感じのゲームとかもあったわけ?」
「いや、さすがに全く同じようなものは無かったですな。
ステータス画面とかはそれっぽくはありますが」
さすがに現実とゲームは違うだろう。
「でも、まだゲームとか言われたほうが信じたよ。
どこにモンスターがいる世界があるんだっての」
「確かに。
いくらなんでも、これはあまりでござる」
そう言って二人ともため息を吐く。
「ゲームにしてもクソゲーという他ござらんです。
あまりにもバランスが悪いし、初心者用のチュートリアルもろくろくないですからな」
「やっぱりゲームより厳しいか」
命がけだから当たり前ではあるが。
「でも、抜け出すまでがんばろう。
こんな所で死にたくない」
「同意するでござる。
拙者もこんな所で死にたくはありませぬ。
やってる途中のゲームがまだありますし」
「それが理由かよ」
笑うしかなかった。
「でも、やりたい事があるだけいいよな」
「ヤシロ殿にはないのでござるか?」
「特にはね」
「だったら、帰れたら拙者とネトゲをどうですかな?」
「考えておくよ」
とりたてて興味はないが、それもいいかなとは思った。
たまに遊ぶくらいならば。
時間が来て他の三人と交代する。
それから更に数時間、空(天井?)が明るくなってから活動を再開する。
とりあえずは朝食をとっていく。
これでカズアキの貢献度は無くなった。
トモキとマキの分も残り少なくなっている。
今日もある程度のモンスターを倒さねばいけない事を再確認させられる。
どれだけ見つかるかにもよるが、最低でも三体は倒したいところだった。
朝昼晩と三食とるならそれくらいは倒しておかないと余裕がなくなる。
そうそう都合良く敵が見つかれば良いのだが、ここは上手くいくと信じて行動するしかなかった。
ゴミについてはとりあえずそのまま放置する事にした。
マッチやライターを手に入れて燃やしても良かったのだろうが、そうした場合にどんな影響が周りにあるか分からない。
また、草原や森の中で火を使うのも危険だった。
せめて周りに火が燃え移らないようにしてからでないと危険でしょうがない。
そのため、ゴミについては放置するしかない。
あとで片付ける機会があればその時に処分する事にして。
そんな時が来るのかどうかも分からないが。
それにゴミの処分よりも先に片付けねばならない問題は多い。
衣服に住居や風呂などもそうだし、他に排泄物などについても考えていかねばならない。
使ってる武器の限界も問題だ。
ゲーム経験のあるカズアキはそれをしきりに心配していた。
「ゲームによってはこういう武器にも耐久力が設定されてるでござる。
ここではどうか分からぬでござるが、これらも摩耗や疲労をするなら、いずれ壊れるかもしれぬでござる」
そうなる前に新しい道具を揃えておく必要があった。
難点の貢献度が必要なのか分からないが、そのためにも出来るだけ多くの繰り越しを作っておきたかった。
日々の食料に加え、こういった事も考えていかねばならなかった。
幸先が良いのかどうか。
この日、出発して程なくモンスターを見つける事が出来た。
前日そうしていたように、それを複数で取り囲んで一気に片付けていく。
土を投げつける目つぶしも含め、思いつく様々な手段を用いていく。
卑怯だ汚いだと言ってられない。
正々堂々と戦って死ぬわけにはいかないのだ。
勝つ為に、生き残る為に手段を選んでられない。
勝つ為の手段に拘るのは、生き残る事が出来る者達の特権である。
その後も順調にモンスターを倒して行き、夕方頃には五体ほどを倒すに至った。
入手出来た貢献度の合計は500点。
昨日よりもかなり多い点数である。
だが、五人分の食事を出すと、それだけで一気に減ってしまう。
一人三食、一食10点として、五人だと150点の消耗になる。
500点あると言っても、せいぜい二日分の食料にしかならない。
装備の追加も考えると、まだまだ全然足りない。
「こりゃあ、相当頑張らないとまずいな」
稼いだ点数と出費のバランスを考えてトモキが暗澹たる気持ちになっていく。
「赤字じゃないからどうにかなるって」
マキは楽観的に言う。
確かにその通りなのだが、貯金のペースを考えるとどうしても暗い見通ししか立たない。
「出来ればペースを上げていきたけど」
「まあね。
もうちょっと化け物を倒せれば貯金も貯まるんだけどね」
そこはマキも否定しない。
「でも、そうやって無理をして倒れたら元も子もないよ。
継続は力なりってね。
続けていける事が一番の強みよ」
「まあ、そりゃそうだろうけど」
それは分かるのだ。
急いで無理して死んだりしては意味が無い。
いくら一日の稼ぎは過去最高を叩き出しても、支隊になってはそれらを使う事も出来ない。
それは分かっているが、分かっていても焦ってしまう。
気持ちに余裕が無い。
先々への保障がないせいだろうか。
(駄目だな……)
こういう気持ちに余裕のない時が一番まずい。
成果を求めて無理をしがちになる。
はやる気持ちをとにかく抑えていかねばならない。
焦るのはやむをえないにしても、それに押し流されないようにせねばならない。
でなければ、どこかで何かを失敗する。
こんな時こそ落ち着いていくよう自分に言い聞かせる。
そうは言っても、なかなか上手くもいかないものではある。
少しでも余裕が出てくれば変わっていくのだが。
(それが出来るまで、まだ時間がかかるだろうし)
結局、稼いで蓄えていく以外に、焦りの解消手段は無いのだ。
地道にがんばっていくしかない。




