第84空間 新たな技術と可能性 2
「操気法なんだけどな。
どうもこれって能力を底上げするものようなんだ」
身につけて使ってみて分かったが、身体能力や五感が研ぎ澄まされていくのを感じた。
戦闘などで試してみたが、確かに行動がより滑らかになり、威力も上がっている。
モンスターの動きも、以前より感じ取り易くなっている。
「とすると、能力上昇の魔法みたいなものでありますか」
「だと思う。
それも戦闘限定ってわけじゃない」
探知なども、以前よりもはっきりと把握出来るようになっている。
潜伏についても、モンスターに察知されにくくなった。
「たぶん、やる事全部に効果がつくんじゃないかな」
「それは、相当なものでありますぞ」
「そうなんだけどな。
でも、やっぱり問題もあってね」
何事も良い事だけというわけではない。
「なんていうか、意識を集中した時には確かに意味があるんだけど、そうでない時はいつもと変わらない。
それで、意識を集中すると、もの凄く疲れる。
なんていか、体力っていうか精神的に消耗するっていうか。
もの凄く疲れる感覚に襲われる」
「うーむ…………それは、いわゆるMPが減ってる状態なのではなかろうか?」
「たぶんそういうもんだと思う。
なんていうか、何かを消費してるって感じがするんだよな」
「となると、連続して使う事は出来ないと」
「うん。
長く使うとかなり無理が出る。
休めば少し回復するけど、まともな状態に戻るまで時間はかかるね」
「本当にMPのようでありますな」
「細かい作業をするのにも似てるよ。
気を遣ってへたばった時もこんな感じだった」
結び付けるところはそれぞれ違うが、至る結論はほぼ同じである。
「でも、それだけの効果があるなら悪い事では無いでありますな」
得られる効果の大きさの対価が消耗であるという事なのだろうと考えた。
「それだけの価値があるなら、それもやむをえないかもしれぬであります」
「そうなんだけどね。
それが何とも」
トモキは歯切れ悪く言葉を発していく。
「確かに前に比べれば色々上手く出来るようになってるとは思う。
でも、そんなに大きな効果があるかって言われると、ちょっと自信がない。
そんな大きな差が出るほど違いがあるようにも思えないし、本当に効果があるのか疑いたくなる」
「微々たる差という事でありますか」
「うん。
前より上手くやれてるとは思うんだが、本当に気のせいなんじゃないかって思うくらいだし。
正直、10万点も支払う意味があるのか疑問だ」
身につけてみた率直な感想である。
さすがにこれでは、皆にすすめるわけにもいかない。
「ただ、次のレベルには上げやすくなってる」
最初に身につけたときには10万点が必要だったが、次のレベルに必要な貢献度は1万になっている。
「身につけるのに苦労はするけど、あとはそれ程でもないみたいだ。
だから、もうちょっとこれを上げていってみようと思う」
効果があるかどうかはそれから判断しても良い。
今はまだ実験段階のこれの効果を確かめておきたかった。
「他のものには手をつけられないけどね」
「10万点でありますからな。
それも当然かと」
超能力関係の技術がどういう扱いなのかはまだ分かってないが、操気法以外も軒並み10万点で身につけるようになっている。
そう簡単に修得する事は出来ない。
「そっちの方は、他の人に確かめてもらってくれ」
「分かったであります。
希望者がいたら、その支援をしていくであります」
カズアキはそう言ってトモキの懸念を和らげる。
以前出ていた、貢献度を一人に集中させる方法。
それをカズアキは実行していた。
レベルの高い者達から志願者を募り、3人から4人で組ませて行動させている。
戦闘はその中の一人に任せ、他の者は夜間の見張りなどに回っている。
本当に危ない時には助太刀に入るが、基本的には戦闘は一人がこなす事になる。
負担は大きいが、貢献度を一人が大量に稼ぐ事が出来る。
これにより自動車などを二ヶ月程度で入手する事に成功している。
なお、付き添いの者達も、一週間に一度や二度は戦闘をこなして多少の貢献度を稼いでいる。
かなり偏りのあるシフト制のような状態だ。
このあたり、トモキの提案がほぼ全て受け入れられてる形になっていた。
「おかげ様で、色々と便利になったであります」
自動車がやってきた効果は大きく、迅速な展開が出来るようになった。
移動に時間をとられず、人員の交代や貢献度稼ぎが以前より効率的になった。
移動の為に数日を費やし、その分貢献度を稼ぐのが困難だったものが、今は解消されている。
居住地内の他の場所への移動も簡単になり、それが新たな動きになりつつある。
「今までトンネル一つに貼り付いてなくてはならなかったであります。
でも、これからは定期便を出して交代出来るようにしようと考えてるであります」
「バスを作るって事か」
「そうなるであります」
移動が困難だったので、どうしてもトンネルの前に一定の人数が貼り付いてる必要があった。
しかし、自動車の出現でその必要も薄れている。
朝に一度であっても交代の要員を送り込む事で交代を容易に出来る。
そうであるならば、わざわざ分散して各地に住んでる必要も無い。
「こっち側に人を集めて、まとまって暮らすように出来ないかと考えてる所であります」
まとまってる事で出て来る問題もあるが、便利な所も大きい。
食事を取るにしても、武器や防具の修理をするにしても、一カ所にまとまっていた方がやりやすい。
全体の人数がようやく100人を突破したばかりであるから、料理にしろ鍛冶にしろ、まだそれほど多くの職人を抱える事も出来ない。
大工にしても、あちこちに移動するのは手間で面倒が多い。
だったら、まずは一カ所に集中していた方が様々な手間が省ける。
「それに、人が集まってた方が持ち寄りも便利であります」
資本の集中という程では無いが、人が集まればそれだけ持ち寄る量も多くなる。
一人一人の提供する量は少なくても、多くの人間が積み重ねれば結構な量になる。
薄利多売と本質では同じかもしれない。
そんなわけで、今の居住地は新たな発展の段階に入ろうとしている。
「移動が簡単になっただけでかなりの違いが出て来てるであります」
自動車の登場はそれだけ大きなものであったようだ。
「他にも色々と手に入れていくつもりであります。
まだ先の事でござるが」
発電機に無線通信機に冷蔵庫などなど。
かつての生活で身近にあった物などを含め、様々なものを導入予定であるという。
ただ、どれも維持に手間がかかるものでもある。
入手するにも何万点という貢献度が必要であり、すぐに導入するわけにもいかない。
導入しても、整備が出来る者がいない。
それらを扱える技術者も同時に育成していかねばならず、早くても数ヶ月先になるだろうと予想されていた。
「でも、いずれ必ず」
そう言うカズアキは、これからの発展に確信を得ているようだった。
それらを自分達で促そうという意欲も見える。
(変わっていくだろうな)
次に来た時にはまた違った姿になってるだろう。
そう思えるだけの事をカズアキと居住地の者達はやってきている。
これがそのまま続く事を願った。
「それで、トモキ殿はこれからどうするでありますか」
ある程度報告が終わったところで、話は先の事に向かっていった。
「こちらもそれなりに動いていく予定でありますが、トモキ殿はこれからどうするでありますか」
「まあ、行ける所まで行ってみようと思う」
「では、探険に?」
「ああ。
これからは移動に専念して、進めるだけ進もうと思う。
あいつらもそれなりにレベルを上げたしな」
先に進むのに問題のないレベルにまでなっている。
「燃料を手に入れながらだからそんなに進めないけど」
「こればかりはどうしようもないでありますな」
「1万だからな。
どうしたって時間がかかるよ」
以前に比べれば移動出来る距離は増えたが、制限が無くなったわけではない。
やはり移動しっぱなしというわけにはいかない。
「長距離の移動になるから故障も出るだろうしね。
修理が出来る人間と部品も必要だ」
「やはり、簡単にはいかぬでありますな」
「まあ、この世界がそんなに拡がってないなら、問題は無いんだけどね」
長期間の探険になるとしたら、それはこの世界の奥行きがどこまで拡がってる場合である。
ある程度の所で空間が行き止まりになってるなら問題は無い。
そこで探険は終了、居住地に戻ってくれば良い。
それがどこにあるか分からないから悩みもする。
「最低でも半年は行ってくる事になると思う。
場合によってはもっとかかるかも」
「そうでありますか」
「まあ、そこまで行かないでも突き当たりに出るかもしれないから。
その時は早めに帰ってくるよ」
どうなるか分からないので、トモキはそういう事にした。
本当に奥行きがそこまでなければ早めに帰ってくる事も出来る。
だが、そうでないなら、どこまでいく事になるか分からない。
だから、期限は決められなかった。
それでも、
「まあ、一年もしたら一応は帰ってくるよ」
それを最大限の期限とした。
いつまでもやってるわけにもいかない。
報告も必要なので、ある程度の期限は必要だった。
「報告を楽しみにしてるであります」
探険の大まかな概要は決まった。
明日19:00に更新予定。




