第82空間 いつも通り、この先についての話し合い
「それで、これからどうするかだな」
割り当てられたテント(大)に戻ってきたトモキ達は、これからの事を考えていく。
「何にしても燃料なんだよな」
「そこですよね」
「1万はやっぱりでかいですわ」
全員、意見は同じである。
どんなに便利であっても燃料がない事には車は走らない。
その燃料に1万点が必要となると、おいそれと使うわけにもいかない。
とはいえ、探険となるとどうしても移動しなくてはならない。
「上手く稼いでいかなきゃどうにもならないよな」
「でもどうしますよ、これ」
「一ヶ月あれば稼げないでもないですが」
トンネル前でモンスターが出て来るのを狙っていっての話である。
「三人一組でやって、だいたい一人一万か二万。
無理はしてないですけど」
「でも一ヶ月かかるんだよな、確実に」
成長やら何やらは後回しにしていくしかない。
しないでも当面困らないが、それはそれで不安は抱く。
この先もっと強いモンスターが出て来たらどうするのか、もっと大量にあらわれたらどうなるのかと。
だからこそ、成長はしておきたかった。
どれほど遅くなるにしてもである。
「それもそうだがよ」
周りの者達の話を遮ってトモキが口を挟む。
「お前らに出させるかどうかも問題なんだよ。
俺の持ち物だし、さすがにそれもな」
これはトモキが悩んでる部分だった。
まず、持ち主のトモキが燃料を出すのは当たり前である。
だが、同乗してる者達はどうするのか、という事にもなる。
彼等にもある程度の負担を求めるのも悪くはないだろう。
だが、どの程度負担を強いるのかである。
「出来るだけ協力してくれると助かるけど」
「そりゃそうですね」
「どうしたらいいですかね」
彼等にとっても足になる貴重な道具である。
維持のために多少の供出をするのはやぶさかではない。
だとしても、全面的な支援を求められたら困る。
このあたり、兼ね合いというか分担が難しかった。
「走行距離からある程度逆算ってのもあるでしょうけど」
「それでも、どれくらい負担すればいいのかだよな」
「そもそも50リットルを一気に買うんだろ。
分割なんて出来ないだろ。
半端が出たらどうするのさ」
「それもそうなんだよな。
だから、どうするかって考えてんだよ」
何にしても他の者達の負担を極端に増やすつもりはない。
かといって全く負担がないのもどうかというところ。
何かしら良い条件で折り合いをつけたかった。
「どれだけ使うかっていうか、どれだけ走るかによもよってくるでしょうね。
使わせてもらえればありがたいですし」
マサタカの言葉に全員頷いていく。
「無いと話にならないですからね」
「先に進むなら絶対に必要だし」
その利便性については誰もが納得してる。
実際乗ってみて、足を使うより格段に早く遠くまで進めるのは分かっている。
「まずは速度とか燃費とかじゃないか。
それによって負担の大きさも変わってくるだろうし」
コウスケが最も基本的な部分を求めてくる。
「速度は、140まで記してあった。
単位はキロメートル。
マイルとかじゃない」
「燃費の方は分かりますか?」
「ディーゼルだから結構良いみたいだな。
減り具合から、たぶん20キロから30キロくらいはいけると思う」
「リッター当たりですか。
となると、1万点で1000キロくらいは確実って事ですね」
1万点で手に入る50リットルだとそれくらいになる。
これも路面状態や積載量次第で変わるが、それくらいは走ってくれるはずである。
「じゃあ、一回全員で燃料を提供したら、かなり走ってくれますね」
「俺らが一回出すだけで5000キロですかね」
「それでも……空間の数にしたら、だいたい100カ所になるな」
キヨヒデが大雑把ながら計算をしていく。
それだけ進めれば大したものだが、意外と先に進めないものだと思えてくる。
「となると、ある程度進んだらまたモンスターを倒して稼いで、って事になるか」
「そんなにこの世界が広ければって事だけどな」
5000キロといったらかなりの距離である。
そこまで空間が連なってるのかどうかも分からない。
もっと手前で行き止まりになる可能性がある。
「どこまで続いてるか分からないから、こればかりは何とも言えないですね」
「つか、50キロって広すぎですよね。
一カ所でこれってどうなってんだ」
空間一個あたりの広さとしてはどうなのだろうと思ってしまう。
「なんでこんなに広いんだか」
「それはどうかな」
トモキがその言葉を遮る。
「この広さでも、実はかなり狭いのかもしれないぞ」
「…………え?」
「ここを作った奴の基準からすればな」
その言葉に全員が戦慄をおぼえた。
「作ったやつって……そんなのいるんですか?」
「分からん」
「分からんって……」
「もしそういうのがいるとしたらだ」
「いると思うんですか?」
「分からない」
そこはトモキにも分からない、というかトモキに分かるはずがない。
「けど、そういう可能性だってあるだろ。
何が本当なのか分からないんだし」
「まあ、それは」
否定も肯定もできない問題である。
この世界もここで起こってる事も日常的な物事の範疇から外れてる。
何があってもおかしくはない。
トモキの言うような事も、もしかしたらある程度真相を言い当ててるのかもしれないし、完全な見当違いなのかもしれない。
ただ、こんな空間が普通に存在するとは思えない。
ならば、トモキの言う通り何者かによって作られたというのも、あり得るかもしれなかった。
「でも、だったらなんでこんなの作ったんですかね、そいつは」
「分からないよ」
そこは本当に分からない。
自然発生したなら、何らかの意図があるというわけではなくなる。
そうではなく、誰かが作ったというなら、本人に直接聞くしかない。
「何にしても、迷惑な話だ」
今の状況への率直な感想を口にするくらいしか出来る事は無い。
「話がそれちまったな。
でもま、ここを作った奴がいたなら、そいつに文句を言いにいこう。
無駄にでかくするなって」
「はあ……」
「それより、燃料だな。
どうすっかな、これ」
話を強引に戻し、必要な燃料の確保方法について話しあっていく。
また、燃料の確保だけでなく、貢献度をどうするかも。
燃料確保だけで貢献度を使ってしまっては意味が無い。
あわせて成長もしていかねば、この先何かがあっても対処出来なくなるかもしれない。
そうならないように、ある程度の成長は必要になる。
燃料確保と平行してやっていくとしたら、どうしたら良いのかを考えておかねばならなかった。
「一ヶ月でだいたい2万くらいはいくんだよな」
「一カ所で三人くらいとすれば、だいたいそれくらいになるな」
「じゃあ、一ヶ月で燃料代を稼いで、もう一ヶ月で成長分を稼いだらどうだ?」
「それだと…………、二ヶ月でレベルが3つ上がる計算か」
「そこまで上手くいかないにしても、だいたいそれくらいって事になるかな」
「意外と早くレベルを上げられるな」
「確実にモンスターを倒せるからな」
今の彼等の強さならではである。
トンネル一つに3人が貼り付けば無理なくいけるくらいになっている。
「だったら、二ヶ月稼いで、それで移動出来るだけやって。
それでまた二ヶ月稼ぐって形でいけないか?」
「それが無難なのかな」
「燃料が6000キロ分で、レベルが4つ上がる事になるのか……?」
「たぶんそうなるな。
6000キロってなると、だいたいどれくらい移動出来るんだろ」
「だいたい100……よりは多くなるのかな」
「まあ、だいたいそんなもんだろ」
「時間の方はどれくらいかかるんだ」
「えっと、一日にどれだけ移動するかによるけど」
「時速50キロで10時間くらいが限界だな。
一日に500キロ。
運転を交代してもらわないとやってられないけど」
歩くより楽であるが、運転もそれなりに疲れるものだ。
まして道の無い場所を進んでいくので、どうしても神経を使う。
どこに何があるのか分からないというのは、結構しんどい。
極端な段差があると、それだけで進めなくなる。
車の故障や損壊にもなりやすい。
舗装された道路がどれだけ有り難いかがよく分かる。
それでも目安として、一日500キロの移動が出来るとしていく。
「6000キロとなると、12日くらい。
だいたい二週間ってところだな」
「一ヶ月がんばって走れるのが12日だけなのか」
「しかも、二ヶ月稼いでそれだけだろ」
「一年で、3万6000キロってところか」
凄まじい移動距離である。
「そこまで行く前に、空間が行き止まりになってるかもしれないけどな」
「そうであってもらいたいよ」
どこまで続くか分からないが、それだけ移動してもまだ先があるなんて考えたくもなかった。
「ちなみに、空間の数は720。
そこまで続いていればだけど」
「もっと先があるとか、考えたくないな」
「まったくだ」
何時までも終わらないのだけは勘弁してもらいたかった。
「けど、こんなところなのかな」
だいたい出て来た材料をまとめていく。
「燃料代と成長を考えるとこんなもんなのかもな」
「二ヶ月戦って移動をして、形になるんですか?」
「とりあえずはな。
無駄や面倒があるなら変えていく。
でも、とりあえずこのやり方でいってみよう」
最善最適の方法であるかは、実行してみるまで分からない。
計画段階での想定を外す事など、良かれ悪しかれ幾らでも出てくる。
だから、やってみて様々な事を洗い出さねばならない。
「ただ、これが多分一番よいやり方なんだとは思う」
探険と成長をある程度兼ね合わせるならこうするしかない。
トモキはともかく、他の者達はまだまだ能力を伸ばすべきであり、成長のための貢献度が必要になる。
それを手にする為の戦闘も今は欠かす事が出来なかった。
「でも、時間がかかりますね」
「こればかりはな」
燃料代稼ぎと成長を同時進行させるならこれは当然である。
どちらも満遍なくというのは、どちらも中途半端にさせてしまう危険がある。
まさに今、その状態だった。
だからトモキは、この案をそのまま用いる事を諦めた。
「もうちょっとやり方を変えよう」
明日19:00に更新予定。




