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捨て石同然で異世界に放り込まれたので生き残るために戦わざるえなくなった  作者: よぎそーと
五章

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第81空間 居住地の発展と今後への懸念

「こんなのが出来上がってるとはねえ」

 壁際に建てられた家を見て驚いていく。

 見慣れた(と言ってもすでに数年以上見てないが)家屋に比べれば粗末というか簡素ではある。

 だが、野原にテントの生活を数年も続けていたトモキ達には、平屋の小屋が数軒並んでる光景は凄まじい発展に思えた。

 さすがに二階建てとまではいかなかったようだが、人が住む住居としては十分である。

 なお、空間外周の壁に沿うように建ってるのは、そこの方がまだしも安全であるからである。

 空間中央は丘のように盛り上がっており、建築には向かない。

 土地を均すのに手間がかかりすぎる。

 それに、モンスターの姿は見なくなったものの、どこに潜んでるか分からない。

 なので、まだしも外周部の方が安全性が高い。

 少なくともここならば、背後というか一つの方向から襲われる事だけは絶対にない。

 平坦な土地が続いてるのも大きな利点だった。

 もちろんモンスターに襲われる事を完全に無視してるわけではない。

 壁に堀といった備えは作ってある。

 そこが日本の一般的な家屋との大きな違いであろう。

「こういうのを建てた奴らが出て来たのか」

 貢献度を稼ぎ、必要な材料を買いそろえて建設したのだという。

 建築自体は技術を身につけた大工が担当したそうだが、それでも注文して必要な材料や費用を負担出来たのだから大したものである。

 その分、差が出てきてもいる。

 どうしてもテント暮らしを続けるしかない者もまだいる。

 もちろんそれが悪いというわけではない。

 家を建てるまでもないと思ってる者いるし、そういった者はテントで十分に満足してる。

 なのだが、そうでない者もやはりいて、そういった者は先に家を建てた者への嫉妬をおぼえるようだった。

 それを格差というならそうなのだろうが、こればかりはどうにもならない。

 欲しいならば、それだけの努力をしていくしかない。

 モンスターを倒して貢献度を稼ぎ、それを元にして材料を手に入れて大工に任せる。

 大工に支払う報酬(主に食事や消耗品の材料など)を提供出来なければ家は建たないのだから。

 そのあたりは個人の努力と、運があるかどうかになる。

 倒したモンスターが多ければそれだけ夢に近づく。

 嫉妬をする方がおかしいという話になっていく。



「そういや、大工をやってる奴も、『おかげで貢献度がたんまり貰えた』って言ってましたよ」

「そういうのでも貢献度は手に入るんだな」

 加えて食事や消耗品は発注者持ちだから、建築で稼いだ分はまるまる儲けになる。

 モンスター退治で得られるものに比べれば少ないらしいが、だからと言って馬鹿に出来るほど少ないわけでもない。

 通常の作業でも稼げるという見本になりそうな事例だった。

「モンスター退治以外でも、食ってく方法が出来てきてるんだな」

 喜ばしい事である。

 全員が命がけの戦いに赴く必要がなくなっていく。

 他の部分で、誰かの役に立つような活動で稼ぎを得ていける。

 選べる道が着実に増えてるのは素直に喜ぶべき事であろう。

「俺らもそのうちいらなくなるんですかね」

 一緒に居たトシユキが不安そうな声をあげる。

 確かに戦闘以外でも貢献度が稼げて、それで食って行けるならいずれは不要になるかもしれない。

 だが、トモキは「それはないだろう」と否定した。

「モンスターがあふれてる限りは、誰かが倒していかなくちゃならないよ。

 いなくなったらどうなるか分からないけど、それまでは俺らみたいなのも必要だろうさ」

 それに貢献度を稼いできて、必要な物資を入手するにはモンスター退治が一番だ。

 おそらく、今後もこの調子でいくなら、稼ぎ頭のモンスター退治が無くなる事は無い。

 居住地を守る為にも戦闘の必要性が無くなる事は無い。

 どれだけ発展しようとも、襲撃を撃退出来なければ全てが崩壊するのだから。



「結婚してる奴もいましたね」

「そんだけ稼げるようになったら、そういうのも出て来るだろうな」

 もう何年もこの世界の中にいる。

 そこに一定数の男女がいるのだから、中には結ばれる者達も出てくる。

 そういった者達が着々と夫婦となっていった。

 いつ帰れるかも分からないのだが、それが逆に一緒にいる者を求めさせてるのかもしれない。

 不安から逃げてるだけと考えるか、困難を切り開いていくためのよりどころを得たと言うべきか。

 その両方が絶妙に入り交じってる状態が、男女間の結びつきを生み出していた。

「家を建ててる奴らって、そういう連中ばっからしいですね」

「いや、結婚すれば家が欲しくなるだろ。

 一緒にいるんだから」

「それなら良いのだが。

 家を建てられる奴を狙って、という話もあるぞ」

「ああ……」

「まあねえ……」

「それはなあ……」

 妙に生々しいというか世知辛いというか金勘定な話になってきて、誰もがため息を吐いた。



 確かに家を構えるようになり始めた頃から、結婚を表明する者達が顕著にあらわれるようになっていた。

 それが全てでないが、それが一つの区切りというか節目になりつつはあった。

 まず、家を建てる事が出来るというのは、それだけの能力があると示してる事になる。

 貢献度がそれだけあり、それだけの貢献度を手に入れる能力があり、なおかつ浪費せずに蓄えていた根性がある。

 一言で「それだけを稼ぐ能力がある」と言っても、その中にはこれだけの内容が含まれている。

 家というのはこれらを分かりやすく示している。



 また、能力を示すというだけでなく、生活していく上で、どうしても他との区切りが欲しいというのもあった。

 一緒に暮らしていこうとすれば、他の者達との共同生活というわけにはいかない。

 人目を憚る事だって出て来る。

 特に男女間の行為については、他の者達が見てる前で、というわけにはいかない。

 そういう事が好きな者達ならともかく、秘め事にしておきたい者達の方が多い。

 家がないと、それを人目がない場所まで移動せねばならない事もあった。

 となると危険がその分増大する。

 そういった問題を回避するためにも、自分達が住む家という物件が求められていった。



 加えて言うならば、子供が生まれた場合も家があると都合が良い部分もある。

 天気の変化がない空間だが、やはり子供を野ざらしにするのは抵抗がある。

 ある程度外気を遮断し、温度などを一定に保つ事が出来る密閉された空間は欲しくなる。

 家というのはその為にも必要とされていた。



 こういった理由で、結婚をする、夫婦になるという者達は家を求めていった。

 単に見栄で大きな買い物をしてるわけではない。

 家とは、生活の為に必要だから求められていた。

 そして、これらが家庭や家族といったものを示す象徴的な意味も持ちつつある。

 彼等だけの生活空間、という一つの区切りであるのは確かだった。



 そしてまた、別の一面も生まれていたりする。



 家の購入は、何も夫婦だけの特権というわけではない。

 そこに制限されてるわけでもない。

 必要な材料や対価を揃える事が出来れば、誰もが手にする事が出来る。

 もちろん、数少ない大工を確保出来るかどうかという問題もあるが、こういった問題を解決出来るなら誰もが手に入れる可能性を持っている。

 それだけに、ある程度の豊かさを示す象徴にもなっていた。

 既に述べた通り、家を建てるにはそれだけの貢献度が必要であり、貢献度を稼ぐ能力が必要であり、貢献度を貯めておける根性・忍耐が必要である。

 それらを備えてるというのを示す一つの指標になっている。

 なので、結婚をしてない者が家を建てると、それだけで言い寄る者が出て来たりする。

 それこそ今まで何の話題にものぼらなかった者に、人が突然集まるようになっていく。

 こんな世界に来てまでそんな事が起こるのか、とも思うが、こんな世界だからこそはっきりと出て来る事でもある。

 実力がなければ確実に死ぬ世界だ。

 確実に生き残る、生き残るだけでなく稼げる事がどうしても必要になる。

 それが出来るという事を示してる者はどうしても頼られる。

 だが、実力はなかなか目で見えるものではない。

 誰がどの程度出来るのかを把握するのは、ステータス画面を公表してもらうまでは分からない。

 その為、家を建てるといった分かりやすい事をされると、どうしても注目されてしまう。



「それが嫌になってる奴もいるそうです」

「だろうな」

 トモキとて、そんな風に寄ってくる者は遠慮したい。

 寄らば大樹の陰というのは分かるが、ある程度自分も努力してくれねば困る。

 なんでも頼られてしまったら、いずれは疲れ果ててしまう。

 というより、いいように利用されるのだろうと思うと、どう対処したもんかと思ってしまう。

「まあ、そういう連中なら、新人選抜みたいにするしかないけどな」

「それもそうですね」

「なるほど」

「納得だ」

「トモキさん達が血眼になって新人を選別してる理由が、今ならよく分かります」

 現在共に行動をしてる連中が、こぞって賛同や同意を示していく。

 なお、新人選抜にしろ選別にしろ、それらはやってきた新人の中で、態度の悪い者を始末してる事を指している。

 そこまでするのか、と誰もが思うが、かつて起こった事を伝えられればたいていはそれ以上異を唱えたりはしなくなる。

 すればその場でトモキ達が始末をしていく。

 最近はトモキではなくカズアキやテルオ、そして彼等に従う者達がこれらの処理を行っている。

 心から賛同をしてる者達ばかりではないが、その必要性を理解してる者は多い。

 そんな彼等も、新たに発生してきた出来事を前に、トモキ達がやってる事、やらざるえない事の意義をあらためて理解していく。

「生きてくためとはいえ、もう少しどうにかならないもんですかね」

「どうにもならんだろ。

 出来れば楽をしたいってのは人間の本能だ」

「それならそれで、努力してもらいたいもんですけどね。

 楽するだけじゃなくて」

「働いて稼いでってのが出来るなら、そんなに辛くはないはずなんだけどな」

「そう思えない奴がまだまだいるって事なんだろ」

「まあ、モンスター相手なら仕方ないけどね」

 誰だって死にたくはない。

 だから死なずに済む楽な方法を求めてしまう。

 それは分かるのだ。

「けど、稼いでる奴にたかるのは勘弁してもらいたいよ」

「潰れちゃかなわんからな……」

「やっぱり始末するしかないのかねえ」

 そんな方向に話が流れていく。

 戦える者が潰えていくのは、彼等にとっても大きな負担になる。

 その分の穴埋めを求められていくのだから。

 だから、そうなる前に処理をしてしまおうかという話にもなっていく。

「必要になったらやるさ」

 それがトモキの考えである。

「邪魔されちゃかなわんからな」

 何の貢献もする事もなく、ただただ負担を押しつけてくる。

 そんなものは寄生でしかない。

 そういった連中を活かしておくほどの余裕は無い。

 余裕があっても存在を認める必要も理由も無い。

 せめて負担にならない程度にしていてくれるならともかく、それすらも出来ないなら、相応の対処をするしかなかった。



「ここまで来れたのになあ」

 まだ数少ない家を眺めながら思い悩む。

 これだけの事が出来る用になったが、問題が無くなるわけではない。

 むしろ、人が増えた分だけ、発展してきた分だけ問題は増えてるのかもしれない。

 面倒な事このうえない。

 それでも、こんな問題を抱えながらこの先もやっていくしかないのだろう。

「ま、そんなのはともかく。

 俺達は俺達の問題を片付けよう」

 宿舎代わりのテントに向かい、トモキはこれからの事に頭を切り換えていった。

 明日19:00に更新予定。

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