第79空間 入手に向けていかに賛同を得ていくか
「こりゃまた」
「凄いもんだね」
毎度の事だが、トモキの見つけた成果にカズアキ達は驚いていく。
前々から入手可能品に見え隠れしていたので、該当する物があるとは思っていた。
しかし、実物を目にした衝撃は大きい。
あるかもしれないという可能性について考えていても、実物が目の前に出て来る衝撃が無くなるわけではない。
会議の為に連れてこられたテルオは、実感を伴ったものとなってもいる。
「まさか、また車に乗れるようになるとはね」
「これがあれば、移動がかなりはかどるでありますな」
とはいえ二人も手放しに喜んでるわけではない。
入手の難しさと運用・維持の手間は、トモキに聞くまでもなく考えている。
「欲しいは欲しいでありますが」
「そう簡単にはいかないね」
10万点の購入費と、1万点の燃料代。
加えて、故障が起こらないように、起こった時に治せるようにするための道具と材料と技術者の確保。
一つ手に入れるのにもかなりの手間がかかる。
「それでも手に入れる価値はあるでありますが」
あればあちこちへの移動が楽になる。
段々と離れていくトンネルまでの移動も、これなら一時間や二時間でどうにかなる。
顔を合わせての話し合いも、数日をかけて行き交う必要がなくなる。
「一年二年をかけて頑張ってみる?」
「やってみるべきであります」
二人は既にこれを手に入れるつもりになっていた。
「あと、バイクも連絡用にあると便利でありますな」
単に伝令伝達だけならそれで十分である。
こちらも4万から5万という点数が必要だが、自動車ほど入手に手間がかからない。
用件を伝えるだけなら本当にこれで十分であった。
「最悪、リアカーを後ろに繋げれば、少しは荷物を持ち運べるでありますし」
見栄えも悪いし、そもそもの機動力が無くなってしまう。
だが、簡単な移動手段として考える価値はあった。
「何にしても、そこまでやる気がある人がいるかどうかだよね」
テルオとしてはそこが心配ではある。
入手の難しさを考えると、そう簡単に手に入れる事が出来るわけではない。
10万点を稼ぐとなれば、腕の立つものが少数でモンスターを倒していかねばならなくなる。
それでも何ヶ月かはかかるであろう。
「だいたい、トンネル一つで6万点から7万点余り稼いでるであります」
「それを人数で割るとなると……。
最低でも3人でやって、一ヶ月2万点。
五ヶ月はかかることになるね」
「食料や消耗品を別にしての話でありますから、実際にはもっとかかるやもしれないであります」
「ついでに、燃料も稼がないといけないしね。
やっぱり六ヶ月……半年はかかるかな」
必要な点数をどれだけで稼げるかを考えていく。
実際に入手する点数はモンスターの出現数と、それをどうやって倒すかで変わってくるから計算通りにはいかない。
だが、この計算からそれほど大きく外れる事も無い。
だいたい二週間から三週間くらい前後するくらいになる。
それくらいの誤差はやむなきものであった。
「1人でやれればいいんだけどな」
トモキは希望としてそんな事を考える。
「それなら二ヶ月あれば、車は買える。
燃料付きで」
「確かにその通りでありますが」
「夜中の見張りとか考えると、人数を多くしないとまずいでしょ」
つきまとう問題としてそれが出て来る。
安全性を考えると、どうしてもそれは無視出来なかった。
だが、トモキはあえてそこで無理を口にしていく。
「いっそさ、戦闘するのは1人だけにして、他の奴は見てるだけとかにしてみたらどうだろう」
貢献度稼ぎをあえて無視する方法であるが、トモキはそう口にしてみた。
「一ヶ月で6万点は稼げるなら、二ヶ月で12万点はいくだろ。
それなら、最短二ヶ月で車と燃料は手に入る」
「それは、そうでありますな」
「で、車で移動が出来るようになれば面倒な手間は大分省ける。
何ヶ月も不便を強いられるより、そっちの方がよくないか?」
「それは……どうなんだろうね。
確かにすぐに手に入れた方が、色々な手間は省けるようになるけど」
言われてテルオは考えていく。
「半年間、移動が足だけだと……。
それを二ヶ月に短縮できれば……。
隣への移動時間の短縮と、手間を相殺出来れば……」
当然ながら、二ヶ月の間は点数を稼ぐ者が貢献度を独占し、随伴する者達は割を食うようになる。
しかし、それで得られる利点は大きい。
「確かに、それが出来れば理想で的だけど。
でも、納得するかな」
悩ましいのは人の気持ちである。
他の誰かの為に自分を犠牲にされる事をよしとする者は多くはない。
本当にそれらが利点になる、ある程度は自分にも返ってくるというのでないかぎり、納得するのは難しいだろう。
人の情けとして当然である。
また、実際の損得で見た場合でも、誰かが一方的に負担を強いられるのは良い事ではないだろう。
見返りを求めるのは決して悪い事では無い。
支払った労力の対価を求めるのだから当たり前の事である。
トモキの言うようにしたら、二ヶ月も稼ぎを諦める事になる。
それだけの対価をどうやって手に入れるかだ。
「車を手に入れる為ではあるけど、それだけだと難しいか」
「利点が分かれば変わってくるかもしれないでありますが、それをどうやって伝えるか」
「実際に触れてみないと、それで今まで違うって事が分からないと難しいね」
頭で考えるだけでは伝わらない事もある。
特に損得や利害が絡んでくると簡単に納得したりはしない。
この部分の難しさを解決するとなると、やはり実体験するのが一番となる。
「何らかの形で車を使っていくしかないでありますな」
「暫くはタクシーでもやるか?」
一番簡単に出て来る考えはそれである。
車の利点は移動速度である。
それを最も簡単に感じさせるには、実際に車に乗せて移動するしかないだろう。
「頼めるのかな?」
「やりますよ、それくらいは」
トモキも異論は無い。
「ただ、燃料はお願いするよ」
自動車の入手と、その為に必要な皆の納得を得る方法については、それで話がついていく。
「それと、稼ぎだけど」
「はい」
「基本、1人で頑張ってもらう事にしてもさ。
待機してる他の人も、休日に行動したらどうかな」
「どういう事でござるか?」
「中心になってモンスターを倒すにしても、一ヶ月全部を使ってるわけじゃ無い。
だいたい一週間に五日か六日くらい働いて、一日は休みを取ってるわけじゃん。
だったら、その休日にあたる日に他の人はモンスターを倒せばいいんじゃないかな」
「出勤日と休日が逆転する形になるって事か」
「大した稼ぎにはならないだろうけど、飯や消耗品の分くらいにはならうだろう」
「無いよりましってもんだね」
「完全なただ働きにならないってだけでもマシかなって」
それも一応考えていく事にした。
少しは不満をおさえる事が出来るようになるかもしれないという事で。
明日19:00に更新予定。




