第73空間 遠くに出るのに必要に感じたもの
レベルを上げたトモキ達が再び歩み出し、未踏の空間へと進んでいく。
いつも通り代わり映えがなく、いつも通りの作業を繰り返していく。
トンネルをくぐり、先へと急ぐ。
途中のモンスターも次々に倒していき、決して止まる事はない。
まだ不安もあるが、遭遇したモンスターに負けはしない。
より多くの、あるいはより強力なものが出て来たらともかく、今はそれほど脅威という事もない。
それよりも大変なのは、移動距離の方だった。
荷物のほとんどはステータス画面に収納できるが、移動距離に変化があるわけではない。
多少の慣れは出てくるが、起伏のある場所や木々の間、丈の高い草をかき分けるのは労力を用いる。
また、日用品などの道具は収納してても、武器や防具は身につけている。
その重さから免れる事は出来ない。
鎧は厚手の革だったり、そこに薄い鉄板を縫い付けたもの程度である。
くわえて兜に籠手に脚甲などを装着している。
これらの重さがかかってくる。
全てを合わせても重さ数キロ程度である。
刀剣はそれだけで二キロ三キロは確実にある。
ボウガンを持ってる者は、腕で抱えてるから特に重さを感じる。
そんな状態での行軍だから、どうしても負担がかかる。
細かな休憩を入れていかねば長丁場は保たない。
その為、どうしても移動が小刻みになる。
「多少疲れても……」というわけにもいかない。
多少疲れた状態で進んで、途中でモンスターに襲われたらたまったものではない。
探知技術はあるが、疲労はその精度を落としてしまう。
なので、「ちょっと疲れてるが、もう少しがんばろう」というのは厳禁にしていた。
そのちょっとが大惨事に繋がっては元も子もない。
こういった問題を回避するために、乗り物を利用出来れば良いのだが、そうもいかない状態である。
バイクや自動車は望めないまでも、馬車くらいはどうにかならないものかと思ってはいる。
馬車の操作方法や馬の扱いなどはどうするのかという問題も出てくるが、それらはひとまず置いておく。
だとしてもこれらの導入も出来ないでいた。
購入可能品に馬は出てきてないので、手に入れる事が出来ないのである。
そもそも馬に限った話ではない。
生物の購入が可能なのかが分からない。
今の所、犬や猫といったものも見つかってないので、もしかしたら動物などを購入する事は出来ないのかもしれない。
その為、人の足以外の移動方法は現在諦めるしかなかった。
どこまであるか分からないこの世界を調べるには、今の所持って生まれた二本の足を用いるしかない。
それが探索を困難なものにしていた。
それでも移動を続け、二ヶ月目を終えようとしていく。
出発つしてから八ヶ月。
一応一年で戻るといったので、ここで引き返さないとその予定が狂うという所まできた。
新人の訓練があったので思った程探索は進まなかったが、それでもそこで一旦引き返す事にした。
まで踏み込んだ事の無い場所に到達したという事以外、特に新しい発見はない。
だが、未踏地が減ったという事は、ささやかながら収穫であると信じたかった。
文句をいうわけではないが、新人の育成に時間がかかった事も大きい。
これらがなければもう少し先まで進めていただろう。
次回以降の探索からだが。
それでも、一旦戻るとなると大きな損失になってしまう。
先を目指すなら、引き返すのが面倒になっていく。
ここをどうにかして解消せねば、効率良く奥地まで進む事は無理である。
(どうにかしないとな)
いつも通り、何かをすれば新たな問題が出て来る。
それをいつも通り、解消する方法がないかを考えながら帰還していく。
「それで中継点を?」
「そうだ」
トモキの提言にカズアキは色々と考えこんでいた。
「まあ、一々戻ってくるのも手間なのは分かるでありますが」
「その手間がな。
報告だけ渡してどうにか出来ないかと思うんだが」
「それを渡すだけの中継地点を作って、探索を続行すると。
言いたい事は分かるでありますが」
「難しいか?」
「どこに中継地点を置くかで変わると思うであります。
あと、常駐出来る者を擁しないと駄目でありますし」
難題という程では無いが、トモキが求めてきた事を実施するとなると、やはり難しい問題が出てきた。
「中継地点を作るとなると、常駐する者が必要であります。
それは交代制にするにしても、やはり十人以上は配置しておかないと行けないと思うござる」
「モンスター退治のついでってわけにはいかないかな」
「トンネル前でありますよね。
一カ所に五人以上をつぎ込むのは、逆に無駄になるというか。
結構難しい事になりそうであります」
貢献度稼ぎも兼ねてるので、あまりに大人数だと効率が落ちてしまう。
その為、四人から六人くらいが適性と考えられていた。
安全性だけを考えるなら、可能な限り大人数でトンネルを囲むのが上策ではあるが。
「そこをどうにかならないもんかな。
常駐してればそれなりの利点もあるだろうし」
「難しいでありますな。
寝泊まり出来る所や、料理が出るとかしてればともかくでありますが」
「それはさすがに無理か」
「今の状態ではとても」
ようやく最初の空間が居住地としての体裁が出来はじめたばかりである。
他の所にまで手を回す余裕は無い。
それにしたって、住居のほとんどはテントである。
ただ、念願の鍛冶が生まれ、現在様々な武器の修繕に腕を振るっている。
さほど高度な事は出来ないが、それでも武器の寿命が延びたのは大きな成果だった。
それとてまだ二人がいるだけだ。
「人は増えてきたでありますが、今はまだここの拡大拡充で手がいっぱいでありますよ」
必要な人員が増加しない事にはどうにもならない。
「この一年でようやく技術者と言えるレベルに到達してくれた人が出て来たでありますが。
これを拡大するとなると、まだまだ先の事になるであります」
現状では、人数を割り振ってまで中継地点を設置する利点が少ない。
それが設置に踏み切る理由を無くしていた。
「でも、いずれは必要になるでありますよ」
「まだまだずっと先なんだろうけどな」
なかなかにして頭の痛い問題である。




