第71空間 本格的な探検と、必要になる事の分担
<ここまであらすじ>
トンネルの向こうの探索に従事できると思ったが、事は簡単ではなかった。
やはり一人で先に進むことは難しく、仲間の必要性を痛感する事になった。
とはいえ人手に余裕がわるわけでもなく、先に進む事は難しいものだった。
それでも人はいずれ増えていくが、今度はそれが別の問題を生むことにもなる。
増えていく人数を維持するだけの稼ぎを手に入れるのが難しくなっていく。
モンスターを倒せば食い扶持は手に入るが、大勢でやれば一人あたりの手取りは減る。
そこを解消するためには、他の空間にモンスターを倒しにいくしかない。
探索にて大量の点数を手に入れた事で、その打開が出来る可能性を見いだした。
レベルの低い者や新人の育成を兼ねての探検が始まっていく。
そうやってレベルの高い者を育成し、次に来る者達の育成方法を確立した事で、ようやく本格的に冒険に出る事が出来る状態になっていった。
<以上、大雑把なあらすじでした>
「それじゃ行くぞ」
仲間を見渡して出発をする。
今回の探険は、途中までシンイチやユキタカ達も同行する。
それだけでなく、ケンタやミノル達も居合わせている。
いずれも貢献度稼ぎを目的とした長距離・長期間のモンスター退治の部隊である。
行く先が同じなので、彼等は途中まで一緒になる。
道中の安全性確保も出来るので、拒む理由は無い。
途中で何組かとは分かれていくが、それでも一緒にある程度は行動していく。
最後はトモキ達が彼等から別れて先へと進む事になる。
それが本当の意味での出発になる。
早い者達は途中の空間で別の道へと進んでいく。
その都度別れの言葉をかけあっていく。
下手すれば本当にこれで最後になるかもしれないので、誰もが真剣だった。
特に新人達は緊張もあらわにしている。
そんな彼等をなだめたり励ましたりしながら一行は進んで行く。
そうして一組減り、次の組が出ていき、となっていく。
最後はトモキ達がトンネルの向こうへと進んでいく。
「頑張ってください」
そんな声をかけられたトモキは、
「ああ、行ってくる」
とだけ応じていった。
(ここから先は俺達だけか)
もう仲間もいない。
自分達だけでこの先はやっていかねばならない。
今までとさして代わりはなかったが、それでも応援がないというのは多少の不安がある。
この先がどうなってるのか全く分かって無い。
出て来るのが今までと同じモンスターである保障もない。
何かあっても助けを呼べない……これは今までと同じだが、居住地から更に遠く離れる事になるだけに不安は大きい。
おまけに期間が長い。
探索だけで一年を費やす予定になっている。
途中で新人達の底上げのために、今までのようにトンネル前での戦闘もこなしていく事になる。
それらの全てが不安の原因になっていた。
戦闘のやり方などはこれまでの行程で伝えてはいる。
皆、満足のいくものではないが必要な事はしっかりこなしてくれた。
貢献度を稼いで技術を伸ばせば、確実に戦力になってくれるだろう。
だが、ここに居る者達で全てを完結させねばならない。
ただ戦闘だけやってれば良いというわけにもいかなくなっていた。
「そんなわけで、先の事についてある程度決めておきたい」
夜、まだ誰かが眠りに入る前に全員で語りあう。
「この先、ある程度は戦闘関係の技術を伸ばしてもらいたい。
全員がそれなりに戦えないとどうしようもないからな」
話を聞いてる全員が無言で耳を傾けてくる。
そんな彼等にトモキは自分の考えを出していった。
「ただ、全員が戦闘だけってわけにもいかない。
ある程度は役割を分けていきたい。
治療とか修理とか」
どちらも戦闘に関わる事であった。
怪我の治療が出来なければ死亡率は跳ね上がる。
武器や防具の修理が出来なければ、戦闘における負担が代わってくる。
特に治療が出来る者は、今でもほとんどいない。
居住区である最初の空間でも、治療をおぼえてる者はいないようだった。
ここをどうにか改善しないと、この先何かあった時に困る。
(カズアキもテルオさんも解決したいって言ってたしな)
それもこれも、最低現の戦闘技術にまですらなかなか成長できなかったせいもある。
今、それが解消されたので、今後は治療や修理が出来る者を育てていくつもりであるという。
「それと、偵察や戦闘が出来る者もいて欲しい。
モンスターを確実に倒せる者は絶対必要だし、敵を発見出来る奴がいないと、先回りされてやられる可能性がある」
そこまで頭の回るモンスターは今までいなかったが、危険を事前に察知する事が出来る者は欲しかった。
戦闘が出来る者も同様で、いくら事前に敵を感知出来ても、対処ができなくてはどうしようもない。
確実に敵を倒せるくらいに強い者は絶対に確保しておかねばならなかった。
「でも、実際に何人くらいそうするんですか」
中の一人が当然ながら疑問を出してくる。
誰が何を担当するのか、どの役割に何人が必要なのか。
これは結構大きなものだった。
「正直、どんな具合にやればいいのか分からんよ。
でも、一応こんな風に考えてる」
そう言ってトモキは自分の考えを示していく。
「治療と修理はそれぞれ一人。
全員が出来れば一番なんだろうけど、そんなの無理だしね。
まずは誰かやりたい人にこれをやってもらいたい」
同時にこれらは後衛になってもらうつもりであった。
成長を戦闘技術ではなく別方面に割り振るので、前面に立つのは難しい。
必然的に後方から射撃などで攻撃してもらう事になる。
「それと、探知技術を持つのをもう一人。
俺だけだと、全部の方向を見るのは無理だし、夜の見張りとかで不安が出る」
これは以前から感じていた事であった。
気配を察したり、そこにいた痕跡を見つける事が出来る者が一人だけというのは不安が大きい。
もう一人いれば、察知範囲を広げる事が出来るし、交代でつとめる事も出来る。
何でもそうだが予備や代わりは必要である。
「あとは戦闘担当だな。
これは純粋に戦闘技術を上げていってもらいたい」
残り二人がこれになる。
遠距離からの射撃の有効性が確認されて久しいが、それでも接近戦が無くなるわけではない。
モンスターは強靱で、矢を幾つも刺しても死なない事が多い。
怪我で動きが鈍るが、確実に殺すには頭や心臓を確実に射貫かねばならない。
それが出来るまで腕を上げる事が出来ればいいが、なかなかそうもいかない。
それに、ボウガンを使えば当然矢を消費する。
使った矢を再利用する事もあるが、一度使った矢は折れたり曲がったりで使えない事もあった。
どうしても予備の矢を購入しておかねばならない。
矢は安いのだが、大量に揃えるとやはり負担になる。
加えて、再装填するまでに時間がかかるという欠点があった。
事前に装填済みのボウガンをステータス画面に収容しておく事である程度解消してはいる。
それでも、攻撃回数に限界は出て来る。
接近戦闘はこういう所でも利点があった。
危険ではあるが、攻撃回数は射撃よりも多い。
その分長く戦う事が出来る。
もちろん、敵の攻撃を受ける可能性は高く、危険は格段に高くなる。
その危険も考慮に入れても、接近戦闘技術をあげておく価値はあった。
「割り振りはこんなところかな。
それぞれの必要技術を最低でもレベル3まで上げておきたい。
そこまでいけば、必要な成果を出せるようになる」
一つの目安だった。
技術レベル3なら、攻撃はほぼ確実に当たるようになる。
料理なども、まずまず上手いものを失敗無く作れるようになる。
更に完璧を目指すならば、レベル6やレベル7あたりを目指す事になる。
今現在遭遇するモンスターならば、そのレベルに到達すればほぼ間違いなく倒せるようになる。
複数のモンスターを相手にしても遅れを取るような事もなくなる。
だが、まずはレベル3である。
「皆にはまずそこまで行ってもらいたい。
新人も、ボウガンでレベル3くらいにはなっていてもらいたい。
そうすれば、後は自分の好きな方向にレベルを上げていってもらえればいいから」
目安というか通過点としてトモキはそう考えていた。
ボウガンのレベル3。
それが一つの目標になる。
「ただ、将来何を伸ばすかは今のうちにある程度固めておきたい。
この先変わるかもしれないけど、それでも、今どう考えてるのかだけでも把握しておきたい。
皆が分かっていれば、この先の相談もしやすくなる」
全体のバランスを考えると、これはどうにかしておかねばならなかった。
誰かの好き勝手を認めるわけにはいかない。
ある程度好みを考慮し、なおかつこの6人での役割分担を考えねばならない。
でなければ、無駄な偏りを発生させて死ぬだけだ。
「レベルアップまでにはまだ時間がかかる。
でも、ある程度今のうちに決めておきたい。
少なくとも話し合いはしておきたい。
皆の考えを共有しておきたい」
それはレベルアップや成長の方向性だけについてではない。
これが出来なければ、組織や集団として機能せず、瓦解していく。
だからこそ、トモキは仲間の考えを聞き出しておこうとした。




