第70空間 選ぶことの難しさ
一ヶ月の移動と、四ヶ月のモンスター退治。
効果は大きく、新人達もレベルを4つ上げるほどの成長を果たした。
シンイチとユキタカ達の方も同様にレベルを上げていったようで、新人達が大分使えるようになっていた。
まだ引率をさせるのは不安だが、もう一回探険に出せば十分な能力に成長するだろう。
とりあえずトモキが引率しなくてはならない必要性は低下した。
旅立つための足かせは減っていく。
それから一ヶ月をかけて戻ったトモキは、賛同者募集の結果を耳にする。
さすがに新人達からは出てこなかったが、長くいる者達の中から何人かが出てきた。
少数だがそういう者達がいてくれた事がありがたい。
ただ、居住地の防衛などのため、レベルの高い者を引き抜いたり、大量に連れて行くわけにもいかない。
トモキとしても何人も引き連れていくつもりはないので、その中から選んでいく事になる。
と言っても十人にもならない人数である。
選ぶと言っても大したものではない。
とりあえずレベルについては考える必要がない。
やってきたばかりの新人でも構わないくらいだ。
途中、適当な所で鍛えればそれなりのものにはなる。
半年ほど時間を費やす事になるが、それは仕方のない経費として割り切る事にする。
これから先の長い旅において、それはささいな躓きにしかならない。
ただ、人数は確保しておきたかった。
最低三人もいればどうにかなるが、それでは余裕がなさすぎる。
戦力としても、今後の各自の負担にしても、人数が多い方が有利だ。
考えたくもないが、誰かが死んだ場合の事も考えねばならない。
人数が多ければ、そんな場合の損失も減ることになる。
残された者達一人当たりの負担が増大する事に変わりはないが、ふたんの大きさが変わっていく。
誰かが死ぬ可能性も考慮しなくてはならないのが辛いところだ。
もちろん人数が増える事による手間も大きい。
人間であるから衝突が増える事もあるだろう。
人数が増えればそれが増加する可能性も出てくる。
なので極端に人を増やす事も出来ない。
まとまって行動出来る最大の人数でなければならない。
それがまたトモキを悩ませていった。
「レベルの高いのを連れてくにしても一人か二人にしてくれると助かるね」
テルオからははっきりとそう言われている。
「増えた新人を育て無くちゃならないし、出来る人が減るとそこが大変になるのよ」
このあたりはトモキも理解出来るので仕方ないと思った。
引き抜けば居住地になりつつある最初の空間の発展が遅れる。
より多くの者達の今後に影響してしまう。
それだけにトモキも遠慮するしかなかった。
逆に一人二人は構わないという発言はありがたくいただく事にする。
テルオの言葉は、制限であると同時に、許容範囲と許可を示したものでもあった。
それを聞いて名乗りを上げてきたのは、シンイチとケンタであった。
「そんなら俺らも」
「行ける所まで行ってみましょう」
長く一緒にいただけに、彼等もトモキについていくつもりになっていたようだった。
選考で悩んでいただけにありがたい申し出であった。
だが、おいそれと受け入れるわけにもいかない。
今の二人はレベルの高い熟練者になってきている。
シンイチは探知技術を上げ、更に潜伏の技術も手にしている。
偵察と奇襲において重要な役割を果たすようになっている。
ユキタカは接近戦闘技術を上げて、今ではモンスターと互角以上に渡り合うようになっている。
相手が一体なら絶対に負ける事はない。
余程の事故が起これば別だが、正面から向かい合って負けるような事はほとんどない。
そんな人間を引き抜くわけにもいかなかった。
もう既に一人だけで新人を率いる事が出来る人材である。
今後の新人育成や居住地の発展に必要になる。
おいそれと引き抜くわけにはいかなかった。
それらを考えると、新人だけで構成するのが一番無難という事になってしまう。
初期投資としてのボウガン大量購入は必要だが、それが出来るなら決して問題があるわけではない。
三人ばかり見繕い、それらにボウガンを一人当たり5挺も渡せば戦力としては申し分ない。
レベルが上がるまで不安はつきまとうが、決してどうにもならない事ではなかった。
今までがそんな調子だったので、今更でもあった。
「でも、新人だけじゃスタートダッシュが鈍りますな」
カズアキはさすがに新人だけというのは否定した。
「こちらも辛くなるのは確かでありますが、失敗する可能性を高めるような事は認められないでござる」
「そこまで言うか?」
「新人だけで固めたら嫌でもそうなるであります。
鍛えてからあらためて出発なんて事になれば、それこそ半年以上の足止めになるでありますし。
それでは探険の成果も限定されるであります」
「それはなあ……」
開始早々、訓練の為に足止めではお話しにならないのは確かだった。
「それなら、最初からレベルの高い者を引き連れて、どんどん先に進んでもらいたいであります」
その方が余裕がある。
戦力があれば、危険に対処も出来る。
「これいついては、こちらに遠慮せずがんがん引き抜くべきであります」
そう言ってカズアキはシンイチとユキタカを連れて行く事を提唱した。
そんなこんながあって、人選には悩んでしまった。
自分達の戦力と他の所の兼ね合いがあって、簡単に結論が出てこない。
レベルの高い者は欲しいが、シンイチ・ユキタカほどの者で無くても良い。
もう一段落ちるあたりで十分だった。
古くからいる者達ならそこそこのレベルになってるので、そのあたりの者が来てくれればありがたい。
名乗りを上げた者達にそういった者がいるので、そこから何人かを見繕う事にする。
シンイチやユキタカ達には、今後も新人育成で仲間に貢献してもらう事にする。
あとはレベルの低い者達を何人か加えていく。
希望者の中には新人に近い者達もおり、そこから何人かが志願してきている。
危険であるのは分かってるはずなのだが、名乗りを上げてくれたのはありがたい。
ありがたくその中から連れてく者達を選んでいく。
レベルは全く上がってないようだが、そんな事は関係がない。
必要なのはやる気である。
それにレベルが上がってないのも、居住地近くで安全にモンスターを倒していたからである。
それでは貢献度はなかなか貯まらない。
日々の食事などもある。
一年かけてようやくレベルが一つ上がるという事もあるようだった。
その為、レベルが格段に早く上がってるトモキ達は注目されていた。
危険はあるが、貢献度を多大に稼げるというのは魅力的である。
レベルが上がればやれる事も増えるし、それならば辛くてもやれる事をやってみようと思う物は出てくる。
最初は棄権していた者達も、時間が経つ毎に長期の探険に出かける気になっていくようになっていく。
そういう者が少しずつ増えていくのは確かだった。
今回志願してきた者達も、そういった者達だった。
今後の事を考えてる者達が多い。
加えて、この世界について何かしら知りたいという好奇心もあるようだった。
今回の探険が長期にわたるもので、可能な限り奥地まで踏み込むものであると通知されている。
それを聞いて尻込みする者が大半であったが、一部はそれに興味を示した。
どうしてここに来たのかは分かってないが、連れてこられたこの場所について何かしら知りたいと思っている者達もいる。
参加希望の理由にそういったものもあった。
こういった様々な事情を考え、最終的に選んだのは5人。
そこそこここにいるのが長くてレベルが高いのが2人。
ほとんど新人の者達を3人。
他との兼ね合いを考えると、これが色々と限界だった。
編成が決まった事でカズアキやテルオ、その他の者達にも結果を伝えた。
それを見て安心する者、残念そうな顔をする者、懸念を抱いた者が出てきた。
人の引き抜きにおいてトモキが高レベルの者達を極端に引き抜かなかったのは安心材料である。
志望はしたが選に漏れた者達はさすがに残念そうであった。
ただ、レベルがさほど高くもない者達を率いていくという事に何人かは懸念を抱いた。
本当にこれで上手くやっていけるのかと。
だが、ケチを付けたり反対を声高に叫ぶ者はいない。
そんな事をしても、無駄に紛糾するだけでしかないのだから。
それに、無理や無茶を通してるわけではない。
戦力としても、周りに与える影響としても、これが最善であろう事は確かだ。
どう考えても他に良案はない。
どっちつかずの妥協案と言えなくもないが、これ以上にどうにかする事は出来なかった。
ここまで二週間ほどがかかっていた。
選んだ者達を集め、説明と準備に更に一週間がかかる。
更に、探険に出るにあたり様々な事も決まっていく。
それらを合わせると、全てが終わるまでに一ヶ月の時間を用いる事となってしまった。
それでもトモキは出発までこぎ着ける事が出来た。
必要な事を全てやり遂げた。
同時に、この最初の空間においてやる事を無くしたとも言える。
彼が今までやってきた事は、他の者が代わりにやれるようになった。
新人の育成も、その為に必要な訓練も、それで成長した者達による探険も他の者達がやれるようになっている。
ある意味お役御免で無職状態ではある。
だが、それは同時に、好きな事をやれるようになったという事でもあった。
そう呼んで良いなら、それは自由というべきだろう。
トモキは今、ようやく自由を手に入れる事が出来た。
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社トモキ
23 → 24歳
一般教養; レベル3
運動: レベル1 → 3
格闘: レベル3
回避: レベル0 → 2
刀剣:レベル5
射撃/ボウガン: レベル2
発見/察知: レベル3 → 5
隠密/潜伏: レベル3 → 5
野外活動: レベル2 → 3
指揮: レベル0 → 1
戦術: レベル0 → 1
教育・ レベル0 → 1
運転: レベル2
※レベル1~3: 趣味の段階
※レベル4~6:一般的な作業員として十分な段階
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21:00に続きの予定




