第68空間 町の建設
「それで、次はもっと長くトンネル前で稼いでみようと思うんだ。
一ヶ月居座るのは大変だったけど、稼ぎも多かった。
行き来する時間が正直もったいない」
「なるほど」
貢献度を稼ぐなら、なるべく一カ所に留まっていたほうが効率が良い。
行き来に時間もかかるし、できるならその場に長く滞在しておきたかった。
「出来れば半年くらいは。
でないと時間がもったいない」
片道一ヶ月として、往復二ヶ月。
それだけ時間をかけて一ヶ月だけ滞在というのも割にあわない。
それよりは、滞在期間を増やしておきたかった。
「新人の入れ替わりも考えて半年。
行って帰ってきて、新人を入れ替えてまた出向く。
この流れを作っておきたい」
行く場所によるが、正味四ヶ月の戦闘期間となる。
これまでの経緯から考えるに、おそらくレベルを4つ上げるだけの事になる。
往復の間で倒すモンスターも含めれば、更にもう一つレベルが上がるかもしれない。
「それだけあれば、新人も使いものになるだろ」
レベル3が一つの目安である。
それを超えるだけのレベルに到達するのだ。
やるだけの価値はある。
「なるほどよく分かったであります」
カズアキとしても新人が育つのはありがたい話である。
「それはそのようにやってもらいたいであります。
新人も任せるので、どうかよろしく」
「ああ、やってみる」
不安もあるが、やれないとは思えない。
それに、今は少しでも人を育てておきたい。
全体の底上げは急務である。
(ここが人であふれる前にどうにかしないと)
稼げる場所に限界があるのが分かってきている。
この世界、モンスターを倒さねば糧を得る事は出来ないのだ。
農耕などを始めれば変わってくるかもしれないが、今のところそれが可能であるかは分からない。
土地と水はあるが、上手い具合に栽培出来るかどうか不明なのだ。
試しに作物を育てるにしても、その余裕が無い。
その為、貢献度がどうしても必要になる。
だが、貢献度を稼ぐにはどうしても遠出しなければならない。
一度にあらわれるモンスターの数には限界があり、一カ所に固まっていたらそれを取り合う事になる。
それを防ぐためにはある程度離れた空間にまで出向くしかない。
数カ所ほど通り抜けたところでならモンスターを倒してもそれほど影響は出ない。
その為に片道一ヶ月ほどを用いるのも大きな負担だが、やらねば全員が食い詰める事になる。
遠出が出来る能力を持った者が必要だった。
それだけのレベルを持った者は、半年あれば育成出来る。
これらの数が増えれば、新人を育成するのも難しくはなくなる。
そこから先を見据える事も出来る。
「上手くいけば、職人を育てる事が出来るようになるであります」
育成がもたらす可能性についてカズアキが語っていく。
「今まで放置してきた、修理職人をようやく育成出来るであります」
「そっか、まだそこまで行ってなかったな」
作った道具を補修する人間がいない。
それがこの空間における負担を増大させていた。
「トモキ殿がやってくれる育成方法なら、技術を持ってる者を割と簡単に育成出来るであります。
そうなれば、今まで捨てるしかなかった武器も、長持ちさせられるであります」
「酷かったからな、今まで。
二ヶ月三ヶ月で壊れるなんて事もあったし」
「その都度新しく買い直しでしたからね」
当然貢献度を用いる事になる。
その分を稼ぐためにモンスターに挑まねばならないという事にもなっていた。
「でも、武器を長持ちさせる事が出来れば、もう少し負担を減らす事が出来るであります」
「それはすぐにでも育成したいな」
トモキとしても死活問題である。
刃こぼれしてるような武器も騙し騙し使わねばならない有様なのだ。
それが解消されるのは実にありがたい。
「修理に必要な道具や材料、職人が生きていくのに必要な食料などは払わねばならぬでござろうが」
「それくらいの出費は当然でしょう。
やらなきゃ自分の命が危ないんだから」
何事も無料というわけにはいかない。
それはこの世界でも同様だった。
「自分でモンスター倒せるわけじゃないんだし。
それくらいはね」
本格的に職人などが出始めたら、彼等の生活は仕事を持ち込む者達頼りになる。
モンスターを倒す事によって得られる貢献度を自分で稼ぐ事は出来なくなるからだ。
それでも、必要な事をしてるのだから、対価は仕事を依頼する者達が支払うべきであろう。
「そこでござる」
トモキの言葉にカズアキが身を乗り出してくる。
「実は、それがしに考えてる事があるでござる」
「なんだ?」
「そういう職人とかについてであります。
拙者、ここに町を作ろうと思うのであります」
「町?」
いきなりの事に驚いた。
「なんだそれ」
「まあ、何と言いましょうか。
とりあえず町とはいってますが、あくまでそういう感じのものというだけでありまして……。
ようはモンスターと戦闘をしなくても生きていける場所であります」
「いや、それは無理だろ。
貢献度はどうするんだよ」
「もちろんそれはその通りであります。
でも、直接モンスターと戦わない人達が集まってる場所は必要であります。
町とはそういう人達の場所の事を言ってるわけであります」
料理を作って出すという所から着想を得てるという。
今はヒトミと何人かがやってるが、これらは直接モンスターを倒しているわけではない。
だが、これが有ることで確かに利益を得てる者達が出てきている。
モンスターを倒しに行ってる者達は、料理の材料を提供する事で安く食事にありつける。
その為の対価として料理に必要な食材や燃料を提供してるのだが、それでも一食を貢献度で直接買うより安い。
同じ事を他の分野にも適用出来ないかと思ったのだという。
食事以外にも、道具の保守整備をする職人はもとより、病気や怪我の治療をする医者も必要だ。
戦闘には直接関係しなくても、対モンスター用の設備を作る土木作業員もいずれは専門的に必要になるかもしれない。
それらが生きていけるような場所を作りたい────それがカズアキの考えだった。
「貢献度は必要でありますが、それをより有効活用するには戦闘以外の事もこなす人が不可欠であります。
だから、そういう人が集まった場所を作りたいのであります」
「なるほどな……」
言われてみればもっともだった。
誰かが何かを肩代わりしてくれるなら、その分楽が出来る。
また、料理もそうだが、修理などにかかる費用が購入より安上がりなら意味はある。
それに武器や防具も、材料を渡して作ってもらった方が安上がりだったらありがたい。
その為には職人のレベルが高くないと駄目であろうが。
「モンスターと戦うのが負担になってる人もいるであります。
そういう人達が別の道を選べるようにもしておきたいであります」
「あいつらとやりあうのって、ストレスたまるもんな」
命がけの戦いは強い心理的な負担をもたらす。
傷つかなくても体にも影響を与える。
ストレスによる無理というのは、ただ気持ちだけに留まっているわけではないのだ。
それでも何とかモンスターに立ち向かってる者はいる。
だが全員ではない。
「どうしても戦闘から身を引きたいと思ってる者には、それが可能な場所を提供したいであります」
すぐには無理である。
だが、どうにかしてそんな場所を作りたいという思いは伝わってきた。
「俺もやって起きたい事がある」
カズアキにあてられたようにトモキも口を開く。
その話にカズアキは耳を傾け、そして顔を強ばらせていった。
22:00あたりに続きを出す予定だけど、ちょっと不透明




