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捨て石同然で異世界に放り込まれたので生き残るために戦わざるえなくなった  作者: よぎそーと
四章

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第58空間 新人にとって真新しいいつも

 見つけたトンネル付近からの再出発は、この空間に入ってから6日後だった。

 空間の中心を移動して元の場所に戻り、そこから壁沿いの移動を開始していく。

 これから次のトンネルが見つかるまで移動をしていく。

 それが終わるまでは帰還する予定はない。

 全体で二週間から三週間の日程になる予定である。



 その旅の間、シンイチとユキタカにも戦闘をさせていく。

 接近戦はさすがに無理なのでボウガンによる遠距離射撃だけをさせる。

 不意打ちなどによる接近の場合も考えて近接武器や防具も身につけさせているが、それらを用いるようになったら終わりだ。

 二人には戦闘用の技術は全く無い。

 モンスター相手に剣を持って攻撃してもろくなものにはならないだろう。

 それこそ物陰からの不意打ちでも無い限りは無理である。

 なおかつ二人には、その為の技術もない。

 どうしても慎重にいくしかないし、それならば遠距離からの攻撃をするしかなかった。

 命中させられるかどうかという問題はあるが、接近して命がけになるよりマシである。



 そして二人に経験を積ませ、貢献度を手に入れさせるために、出来るだけモンスターを見つけていく。

 壁沿いで平原を歩いているとそれもなかなか出来ないが、見つければ出来るだけ攻撃をしかけていった。

 今まであれば可能な限り避けていた事ではある。

 しかし、トモキのレベルであれば多少の無理も出来る。

 おかげで二人の貢献度は新人にしてはかなり順調に増加していった。



「でも、本当にいいんですか?」

 夜、増加した貢献度を見ていたシンイチとユキタカは、トモキに尋ねてくる。

「ここまで優遇してもらって」

「俺達、ろくに何もしてないのに」

 多少の引け目を感じてるようだった。

 傲慢さがないあたりは好感が持てる。

 だが、そんな遠慮は無用であった。

「気にするな、お前らにレベルアップしてもらわなくちゃ困るから」

「と言うと?」

「モンスターと多少はやりあえるようになってもらいたい。

 その為にもレベルを上げなくちゃならない。

 止めを刺させてるのはその為だ」

 完全なる善意というわけではない。

 成長して確実にモンスターを仕留められるようになってもらいたい。

 その為の貢献度稼ぎである。

 トモキが取り分を減らしてまで二人に止めを刺させてる理由はこれである。

「それでも一日に100点とか200点だろ。

 レベルアップには全然足りないよ」

「こんなに稼いでるのにですか……」

「壊れた道具の換えも買わないといけないし。

 貢献度なんて幾らあっても全然足りないさ」

 廃棄せざる得なくなった武器の数々がその言葉の裏付けになっている。

 騙し騙し使っていっても、モンスターとの戦闘が激化すればそれも通じない。

 二ヶ月から三ヶ月で交換が普通だった。

「修理が出来ればいいんだろうけど、そんな技術持ってる奴なんていないし」

 それでどれだけ寿命が長くなるのか分からない。

 だが、ろくに整備も出来ないでいるよりは良いはずである。

 だからカズアキやテルオ達との話し合いで出て来るのだ。

『修理が出来たら、壊れずに使えた物もあったかもしれない』

 ただの願望でしかないかもしれないが、それが出来れば多少は何かが変わるのではという希望があった。

「それもこれも、モンスターを倒せる人間が増えないとどうしようもない。

 お前らには、その一人になってもらいたい」

 もらいたいではなく、ならねばならない。

 そこまで強くは言えないが、そうでなければ困るのだ。

 ここで生きていくためには。



 シンイチとユキタカもそれは理解出来ていた。

 頭で考えるというよりは、肌で感じるという形であった。

 何がなんだか分からないが、とにかくやらねばならない。

 そんな緊張感を何かにつけて感じている。

 危険なモンスターとの戦闘も、夜中の見張りも、全ては生きていく為である。

 彼等も自殺志願者ではない。

 気持ちがすり切れたらどうなるか分からないが、今はまだ生きていたいという意欲がある。

 何か明確な目標があっての事ではない。

 何とかして元の世界に帰りたいとか、ここで生きるにしてももっと快適にといったものもない。

 死ぬ事への漠然とした、絶対的な恐怖。

 否応なしに感じる生死の境目。

 それらが彼等を生きるという方向に向かわせていた。

 その為に貢献度を手に入れねばならないし、そうでなるならば戦闘を躊躇うわけにはいかなかった。



 恐怖をおぼえないわけではない。

 ゲームでしか見た事がないモンスターという存在は、あまりにも圧倒的だった。

 一人では絶対に勝てない。

 近づく事も避けたい。

 渡されたボウガンで攻撃出来るのは本当にありがたいものだった。

 だが、そんな攻撃で死ぬほどやわな存在ではない。

 急所にあたれば一撃で倒す事も出来るとは言われてるが、動いてる状態ではそんな事無理だ。

 トモキが動きを止めてくれてるからどうにかなっている。

 逆に言えば、トモキがいなければ何も出来ないという事にもなる。

 一応、接近して攻撃する場合の方法も教えてもらってはいる。

 土を使った目つぶしとか、物陰からの攻撃とか。

 トモキ達がこれまで積み重ねてきた成果である、モンスターの狙い所も教えてもらっている。

 内蔵や骨の位置などから、だいたいどこを狙うのか、どこが急所なのかも多少は分かってきている。

 それらが大きな優位に繋がるのは確かであろう。

 しかし、今の二人ではそれらを有効活用出来ないのも事実だった。

 必要な能力がないのだ。

 同じような状態だったトモキ達でも何とかやっていたとはいうが、それでも二人は自分達でモンスターを倒せるとは思えなかった。

 物陰を伝って死角に入る事などまず不可能に思える。

 それをこなしていたというトモキには度肝を抜かれる。

「同じ人間なのかな」

「素材が違うんじゃないか」

 そんな事を語る事もあるくらいだ。

 人間、平等ではない。

 生まれた境遇も持ってる素質も違う。

 それをまざまざと見せつけられる気分だった。



 そんな人間に同行してるのである。

 ある意味絶好の機会である。

 だからこそ二人はついていく事にした。

 危険なのは分かってるが、ついていけば得る物も大きい。

 トンネル前でのモンスター退治という、安全だが実入りが決して良いとは言えない状況から脱却したかった。

 本当にそれで良いのかと思いもしたが、危険は承知で飛び込まないと得られないものもある。

 それが出来なかったから手に入れそこねたものもあるし、やったからこそ手に入れたものもある。

 彼等の人生はそれぞれ19歳と17歳という短い時間であるが、それでもわずかながらそういった経験がある。

 挑戦しなかった多大な出来事と、少しだけやってみたささやかな挑戦の結果。

 ほとんどが取るに足らない小さなものではあったが、それらが二人の考えに多少の影響を与えていた。

(もうちょっと先の事を考えてればなあ)

 高校を卒業はしたが、その先についての展望もなくフリーターをしてたシンイチ。

 今更どうしようもないが、振り返ってみるとあの時にああしてれば、というのが幾つかある。

 それはユキタカも同じで、登校拒否からの引きこもっていた時間がもったいなく思えてくる。

(あいつらがいなければなあ)

 原因となった同じ学校の連中の事を思い浮かべると腹が立つ。

 だが、それらが無ければどういう人生だったのだろうとも思う。

 その可能性を考え、あったかどうかも分からない別の道について想像する。

 トモキの旅への同行は、その可能性を何故か連想させた。

 一応は食うには困らない安楽な生活から抜け出す、という事が何か共通するように思えたのだろう。

 それが、元の世界ではかなえられなかったもう一つの道への一歩に思えたのかもしれない。

 明確な理由など二人にすら分からないが、ただ、何かしらひかれるものがあった。

 そして、今それを確かめている。



「こっちは400くらいだ」

「俺も400くらい」

 貢献度を見ながらそんな事を語っていく。

 トモキについてきてから6日で得た貢献度である。

 食事の分があるのでこれが稼いだ全てではない。

 だが、今までの中で一番貢献度が貯まっている。

 トンネル前で活動をしてたら、この半分にもならなかったかもしれない。

 そう思うと凄い速度で貯まっている。

 この調子でいけば帰還するまでに1000点は確実に超える。

 レベルアップには遠いが、トンネル前にいるよりは早くなるだろう。

「やるぞ」

「やろう」

 辛くて大変だろうが、最後まで乗り切る。

 そんな決意を何度も重ねていった。

 続きを21:00に

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