第57空間 出発と新人と2
「いくぞ」
振り返る事無く後ろの二人に声をかける。
どう反応したのかは分からないが、素直に頷くくらいはしたと思いたい。
など考えながら、トモキは近くの木々を伝ってモンスターへと接近していく。
今回の探険で始めて見つけた敵である。
丁度よいと言うのもおかしなはなしだが、試しに三人で倒してみよう、という事になった。
二人がどれくらい出来るのか、あるいはどれほど出来ないのかを見定める機会である。
やり方や手順の説明をしてから、トモキ達は行動に入っていった。
手順は基本的なものだった。
トモキが隠れて接近し、程よく近づいたところで、手にした枯れ枝を投げる。
それが着地なり木に当たるなりで音を立てて、それにモンスターが注意を向けたのを合図にする。
シンイチとユキタカがボウガンで攻撃をし、それによりモンスターの注意を更に引く。
同時に傷を負わせておいて動きを鈍らせる。
そこにトモキが突っ込み、動けなくなるくらいに傷を負わせる。
最後は二人のどちらかに止めを刺させて終了。
他にも様々な決め事はあるが、概ねこんな調子でいく事になっている。
危険はあるが、それはいつもの事なので問題にはならない。
やらなければ手に入らないものがあり、それが無ければ今後の活動や生活に支障が出る。
ならば、危険であろうとやらねばならない。
それだけの事だった。
その為の手段であり手順である。
この世界に来てまだそれ程日が経ってないが、シンイチとユキタカの動きは悪いものではなかった。
手はず通りに動き、投げた枯れ枝にモンスターの注意が向いたところでボウガンの攻撃を行った。
それからトモキが攻撃をして動きを止めると、再装填したボウガンを持って接近。
その頭に一撃を加え、止めを刺していく。
動きの滑らかさでいえば、他の慣れた者達やレベルの上がった者達に比べれば悪い。
しかし、それは仕方ない事であり責めるものではない。
彼等はやれる範囲でやるべき事をこなしている。
それで十分だった。
その後も何度かモンスターに遭遇し、同じような手順で倒していった。
トモキが先にモンスターを見つけるのも大きい。
いち早く敵に接近しての先制攻撃も、接近してくるのを待ち伏せも出来る。
有利な立場を確保しての攻撃は、ほぼ一方的な結果を出していく。
その事に新人達も驚いていた。
「こんな上手くいくなんて」
「モンスターがここまで簡単に倒せるなんて」
そういった事を漏らしていく。
それらが彼等自身の能力でのものではなく、トモキに大きく依存したものである事まで気づいてるかは分からない。
だが、手順をしっかり守ればこれくらいは出来るおちう事は感じていたようだった。
何より、トンネルから出てて来るのを待つだけではない緊張感がある。
どちらが先に相手を見つけるか、どれだけ有利な状況を確保出来るのか。
不利な状況に陥らないようにするにはどうするのか。
それらを考えての行動が常に求められる。
周囲への警戒も、息を潜めての行動も、モンスターに向ける鏃の照準も、全てに注意を払わねばならない。
気を張りっぱなしなど出来る訳もないが、必要な集中が出来なければどうなるかはモンスターが示している。
何かが少しでも欠ければ最悪の結果を招く。
それがここでの普通なのだ。
それを身をもって知る事になった。
そして迎える夜。
二人は緊張のしすぎで相当な疲れをため込んでいた。
意識を保つのが難しくなっている。
無理からぬ事と分かってるトモキは、二人に先に寝るよう命じた。
「あとで起こすからそれまで寝ておけ」
「でも、それじゃ」
「俺達が後ってのも」
「いいから寝ておけ」
一応先輩後輩とか、この中における序列のような事を考えての発言であるのは分かる。
だが、そんな事を気にしてるわけにはいかないので、それらを一蹴した。
「疲れてまともに見張りも出来ない方が困る。
まずは疲れを抜け。
それからだ」
「はあ……」
「いいんですか?」
「構わないよ。
でないと俺が困る。
見張りの途中で寝てたりしたら、命がない」
トモキの『発見/察知』の技術も完璧ではない。
完全に寝入ってしまえば働かなくなる。
第六感的に何かに気づいて夜中に起きる事もあったが、毎回それに頼ってるわけにもいかない。
高レベルにでもなれば寝てても発動するかもしれないが、今はそんな段階ではない。
確実に起きてられる状態でなければ危険でしょうがない。
なので、寝入ってる間は他の二人にしっかりと見張りをしてもらいたかった。
その為の休息である。
「それに、慣れてる分だけ俺の方が余力がある。
どっちが何をするのかなんて、考えるまでもないだろ」
疲労の度合いを比べてみての話だ。
先輩だから後輩だからなどと言ってる場合ではない。
適した者が適した事をする。
でないと、ここではすぐに死ぬ事になる。
モンスターも周囲の環境も、トモキ達の中でしか機能しない序列なんて考慮したりはしないのだ。
集団で行動する以上、そうしたものも必要だが、それもこれも、最適の行動を取るために練り上げていかねばならない。
順位を競う為の権力闘争の道具ではない。
今のトモキ達の規模では、そんな序列争いなんてしてる余裕すらも無いが。
「それじゃあ」
「お先に」
「おう」
納得しきれてるわけではないが、二人は適当な所で横になる。
持ってきた毛布をステータス画面から取り出し、地面に敷いて。
極端に気温が下がる事は無いが、睡眠時には体温を保つこうした道具があると便利だった。
疲労の回復や睡眠の深さなどにも関わってくる。
ほどなく二人は寝息を立てはじめる。
それを聞きながら、トモキは見張りを始めた。
(やっぱり、宛があるのはいいな)
自分一人ではない、見張りだけでもしてくれる者がいる。
それは、ろくに眠る事も出来ないままであった一人旅に無かったものだ。
どこまで頼りになるか分からないが、安全性は格段に上がっているはずである。
(このレベルじゃまだ頼りないけど)
一応見せてもらった二人の能力は、とても期待出来るものではない。
何もない状態でのサバイバル生活関係の技術を持ってる者の方が少ないのは分かるが、それにしても能力が足りない。
学校で習った範囲の知識と、趣味に関連する技術。
一般的な日本人としては当たり前であるが、これだけというのはさすがに困る。
(この先、もうちょっと成長してもらわないと)
いつまで一緒か分からないが、行動してる間は運命共同体だ。
幾らか成長をして、能力を上げてもらわねば困る。
その為に、一番貢献度が手に入るモンスターの止めを刺させたのだから。
それでも事前に行動不能になるほどの大きな負傷を与えたトモキには及ばない。
今回もトモキが全体の5割近くの貢献度を手にいれている。
だが、それでも二人が手に入れる貢献度は今までに比べれば大きなものだという。
トンネル周りでの戦闘は、安全な分だけ稼ぎも悪くなるから当然だろう。
こんなに手に入るのか、と二人は驚いていた。
(出来ればもうちょっと頑張ってくれるとありがたいけど)
今後も同行してくれれば、二人の成長はかなり早くなるだろう。
そうなれば探索ももっと楽に出来るようになる。
だが、今回の探険で自分の限界を感じて脱退するとなれば、ここで終わりになる。
それだけは避けたいが、人の気持ちばかりはどうにもならない。
彼等が辞めるというなら止める事は出来ない。
今はただ、二人が潰れないよう願うだけである。
とりあえずこの旅が終わるまでは。




