第47空間
一度テルオ達と合流し、そこにいる者達と共にカズアキの所へと向かう。
見てきた事を伝えるために全員で話合いの場をもつためだ。
モンスターを倒す為に待機していたテルオ達は、すぐにトモキ達に合流していく。
彼等も今後について語り合う事の重要性を理解している。
新しい情報があるならその共有もしたい。
歩きながらも新しい発見がなかったのかを尋ねてくる。
隠す事など何もないので新しく見つけたトンネルの事を教えていく。
見つけたのはそれ一つであった事も。
それを聞いたテルオ達は少々驚きはしたが、真新しい発見がそれだけと知って少しだけ残念そうではある。
もっと有意義な情報が手に入るのではないかと思っていたからだ。
だが、これでこの空間の縁がどうなってるのかは分かった。
三つのトンネルがあり、それ以外に出入り口がない事ははっきりした。
あとはここからどうするかを考えるだけである。
カズアキの所に合流し、分かった事についてあらためて考えていく。
「新しいトンネルが見つかったから、人数が増えてもこれで大丈夫だね」
「レベルを上げておかないといけないでござるが」
「あと、ここみたいに穴を掘っておかないと」
増加していく堀と土塁を感心しながら見渡していく。
トンネルを覆うようにひろがった堀と土塁は、出て来るモンスターを阻み、戦闘を有利に進めていく。
動きを遮られてるモンスターにボウガンが向け、遠間から攻撃を加えていく。
それを突破すれば、今度はカズアキ達が接近して一撃を加える。
開けた場所にありながら、カズアキ達は遮蔽物を作って森の中と同様の状況を作り出していた。
「これを新しいトンネル前で作れれば、かなり楽にモンスターを倒せる」
「時間はかかるし、人手も必要でありますが、やらねばならんでござるな」
「問題はどれだけ人を割くかだよね」
そこが問題だった。
どうしても人数問題は常につきまとう。
30人を超える現在であるが、それらを振り分けるのは難しい。
一つのトンネルに配置する人数を減らせば、それだけ危険が増える。
レベルが上がればそれも解消出来るが、今の状態ではレベルアップも難しい。
確実にモンスターを倒せるような人数配分であるから、一人当たりの収入がどうしても低くなる。
なので、どうしてもレベルアップも遅くなる。
それでも戦闘を確実にこなしていくためにも、人数を下手に削るわけにはいかない。
「でも、トンネルを塞いでる事で敵も少なくなってるようだし。
トンネルを塞いだ方が良いのは確かだろうね」
テルオの言葉にトモキとカズアキは顔を上げる。
「たぶん、トンネルからモンスターが出て来てるのは確かだと思う。
この中で生まれてるって事もなさそうだし。
となれば、トンネルを塞いでおけば、この中は安全になる」
「そうなりますかね?」
「絶対確実とは言わないけどね。
でも、探険でモンスターが少なかった事とか、ここ最近徘徊してるモンスターに襲われる事が減ってるのもあるしね。
たぶん、モンスターの数自体が減ってるんだと思う」
「それは、確かにそうでありますな。
最近、後ろから出て来るモンスターが少なくなってるであります」
体感的に感じてる事である。
以前に比べればモンスターが減ってるようではあった。
「これでトンネルを塞げば、この場所の安全は保てるようになる。
残ってるモンスターは危険だけど、いずれは全部倒せるだろうしね」
「となると、どうしてもトンネルを塞ぐしかないですね」
安全の保障は貴重である。
夜中に交代で見張りを立てなくて済むというだけでもありがたい。
これのおかげで結構寝不足などになったりする。
体に良いわけがない。
それを無くす事が出来るのはありがたい。
「だとして、どうやっていくかでありますな」
意義は分かるとしても、現実に出来るかどうか。
それを確かめねばならない。
三人は人数配分を考えるために、更に話を進めていった。
そんな事を続けて何時間か経過した所で、差し入れが出てきた。
「出来上がったので持ってきました」
キャンプ用の折りたたみの机や椅子が出され、その上に料理が並んでいく。
「あ、ありがとう」
貢献度を使っておごってくれたのかと思い、トモキは礼を言う。
が、すぐに出された物を見て違和感に気づく。
「これ、いつもの弁当じゃないよね?」
「ああ、そうでござった」
カズアキが、してやったりと言わんばかりの笑顔を浮かべる。
「じつはこれ、ヒトミ殿達に作ってもらってるものでござる」
そう言って、カズアキの所で始まった事について説明をしていく。
食事であるが、一回で10点ほどの貢献度を使えばそれなりの料理が食える。
これはステータス画面で購入出来るもので、基本的にトモキ達はこれを食べている。
だが、肉や野菜などの材料はもっと安く手に入る。
量も多く、単純に食費という形で考えればこちらの方が有利ではあった。
しかし、材料を買っても料理を作る余裕が無い。
モンスターとの戦闘に人手をとられているので、どうしても他の事に手が回らなかった。
だが、状況は変わっていった。
トンネル周りの防備が出来上がるにつれ、人手が余るようになっていた。
手が空く者達が出始め、それらは戦闘以外の事に従事するようになった。
おかげでトンネルを取り巻く堀や土塁の建築がはかどっていく。
同時に、今までは手を出せなかった料理にも人手を割くことが出来るようになり、それを実現していった。
必要な調理道具などは貢献度を使って購入せねばならないが、初期投資としてそれらを手に入れれば、あとは大分安上がりに食事が出来るようになる。
安上がりな材料と、火をおこすのに必要な燃料などを用いる事で、今までの何分の一という値段で食事がとれるようになった。
同じ10点を費やして手に入れる材料で、数人分の食事が作れる。
その分だけ貢献度を節約する事が出来た。
「それでも材料が余るので、クーラーボックスも購入したであります」
冷蔵庫が欲しいのだが、残念ながら購入品の中に表示されてない。
あるのかどうか分からないが、あったとしても相当に高い値段だと思われた。
仮にあったとしても、それを使うための電源がない。
なので、購入品の中にあったクーラーボックスで余った材料を保管している。
これも1000点ほどかかるのでおいそれと買えるものではない。
しかし、食費を節約する分で十分に元は取れる。
時間が経過するほど、安く付く食費の効果は大きくなる。
初期投資をけちってしまう事の方が、かえってもったいなかった。
「おかげで、こうしてできたてのご飯を食べる事が出来るようになったであります」
「ほう」
「羨ましいね」
そこまで余裕のないトモキやテルオは、素直に羨んだ。
「料理する事でも貢献度は手に入るようなので、これを続けてもらってレベルアップも期待したいところであります」
「もっと美味しい料理にありつけるようになるのか」
「食材や燃料とかはこちら持ちでありますが」
「妥当なところだね」
「よろこんで払うよ」
まずいわけではないが、弁当ばかりの生活にも飽きていたところだ。
久々の手作りの料理はそれだけでご馳走であった。
味も決して悪くはない。
高級料理ではないが、普通に食べる事が出来る水準は確実に超えている。
「ただ、ここから動けなくなったでありますが」
これによる懸念事項も出てくる。
料理が出来るというのは確かにありがたいし、それによる節約が出来るのも大きい。
だが、これであちこちに移動する事が難しくなる。
料理をする為の場所をどうしても確保せねばならないからだ。
肉や野菜を切るためには台が必要だし、火を通すなら竈が必要になる。
鍋やフライパンなどもあるし、材料保管のクーラーボックスもある。
これらを移動させるとなると、相当な手間がかかる。
ステータス画面に収納すればどうにかなるが、それはそれで手間がかかる。
何より、料理には時間がかかる。
今はヒトミを含めた3人で料理をしてるが、一食につき一時間くらいはかかる。
なので、おいそれと移動をしていくわけにはいかない。
「今まで通りというわけにはいかなくなったでござる」
弁当に頼ってるなら移動も簡単にできた。
だが、それを捨てるとなると、固定しての生活が必要になる。
今までと違うやり方が必要になる。
「それは仕方ないか」
得られる効果の大きさを考えれば、やむをえない事である。
また、これにより拠点防衛の必要性も出てくる。
「モンスターが近寄らないようにしていかないと駄目だね」
折角用意した料理の場所を破壊されてはかなわない。
これらを守ることも必要になってくる。
「そのうち、そういう場所も作ろうとは思ってるであります。
でも、まだそこまで手が回らなくて」
今の人数では仕方が無いだろう。
もっと増えない事にはどうにもならない。
「早くても半年は待たないとね、こればかりは」
次の新人補充まで手を広げる事も難しい。
だが、一つの区切りも見えてきた。
「次の新人で、トンネルをふさげるね」
それで安全性が確保出来る。
「そうなれば、他の事にも人を回せるであります」
「まだやるのか?」
「もちろんであります。
武器の修理とかもやっていきたいであります。
あと、家とか作業部屋とか。
テント暮らしをこれ以上続けるのも、そろそろ卒業したいでござる」
生活水準の向上は誰もが望んでる事だった。
雨がふるわけではないのでテントなどもそれほど必要というわけではない。
だが、快適な生活空間とは言い難い。
モンスターの襲撃を考えると、安全とも言えない。
身を守る為にも、ある程度堅牢な家は欲しかった。
「まあ、まずは目先の問題だね。
トンネルをどうするかだよ」
安全性確保のためにも、それは無視出来なかった。




