第45空間
新人教育と人数の割り振り。
そして、探険隊の編成。
人数が増えた事により、余裕をもった配分が出来るようになった。
全体のレベルが上がってる事も、新人吸収の余力になっていく。
カズアキの所で17人。
テルオが率いる森の方面に10人。
これらがモンスター退治に励む事になる。
残る3人は、この空間の更なる探索に出向く事になった。
「本当にこれだけで良いんでありますか?」
「いくら何でも、もうちょっと増やした方がいいんじゃないの?」
カズアキとテルオの懸念はもっともである。
周辺探索に出向くトモキ達の人数はあまりにも少ない。
レベルが高いのは確かだが、いくら何でもこれは極端すぎる。
だが、トモキは平然と「これでいいんだよ」と応じる。
「レベルが高いのを引き抜いたんだ。
心配はいらないよ。
これ以上増やしたら、そっちの方が心配になる」
探険に出向くにあたり高レベルの者を引き抜いた。
そのおかげでカズアキとテルオ達は戦力の低下を余儀なくされている。
人数が多いとはいえ新人ばかりであり、とても余裕があるとは言えない。
この上更に人を引き抜いたら、戦闘に支障をきたしそうだった。
「俺達はこれでどうにかするから、そっちは自分達の事を考えてくれ。
大変なのはこれから何だし」
「それはまあ……」
「そうなんだけどねえ……」
言いたい事は分かるが、それでも心配である。
そんな二人にトモキは、
「なんとかなるって」
といつもと変わらぬ調子で接していった。
実際、探険はさほど困難でもなかった。
3人という少ない人数ではあるが、モンスターに遭遇しても対処出来るレベルの者達である。
トモキは今まで通りの発見から潜伏、そこからの奇襲で。
他の2人もレベル4に到達した者達であり、正面切ってモンスターと戦える能力を持つ。
複数のモンスターが相手ならさすがに気をつけねばならぬが、基本的に1体で行動してるモンスターは脅威にならない。
遭遇したモンスターは貢献度の提供者となっていった。
大変なのは移動の方である。
足を使うしかないので、どうしても移動距離に限界がある。
平坦な道なら一日で20キロや30キロの移動も出来るだろう。
しかし、草木生い茂る草原となるとそうもいかない。
正確に測定する手段が無いので大雑把な予想になるが、おそらく10キロも進んでれば良い方であろう。
勾配のある所ではもっと移動距離は落ちてるはずである。
空間外周の壁沿いを歩いてるので大きな上り下りはない。
基本的に空間の最も外側である壁際はほぼ水平な草原が続く。
それでも移動速度には結構な制限がついてしまう。
前回もそうだったが、探険はかなりの時間をかける事になりそうだった。
(十日で戻る事になってるけど)
延々といつまでもやっていても仕方ない。
無事を伝える意味も含めて、その日数で一度戻る事になっている。
(これじゃ、そんなに進めそうもないな)
一日の移動距離を考えるとそれほど探険探索を進める事は出来そうになかった。
他の者達が活動してる地点から遠く離れるほど、この日数ではろくに調べる事も出来ないようになっていく。
何せ、直径50キロの空間だ。
最も離れた所を調べるとなると、10日でも足りない。
一ヶ月くらいかかる長丁場になるだろう。
そうなると、一度旅だったら暫くは帰ってくる事は出来ない。
下手すれば行き倒れになる可能性もある。
あらためてこの空間の大きさを感じてしまった。
人間の足で移動するには、この空間は大きい。
車があればとつくづく思ってしまう。
(でも、いずれはこんな事をしていかなくちゃならなくなるだろうし)
長い旅になるであろうこの探険を、トモキはそうとらえていた。
これが今回だけの事ではなく、この空間に限ったものでもない。
(あの先の事もあるし。
これで何か掴んでおかないと)
見ているのは、この場所の外である。
トンネルで繋がってるであろうその先だ。
時間はかかるだろうが、そこに出向く事になるだろうと考えている。
そこに何があるのか確かめたい。
ここに来る前にいた元の世界に帰れる……とまでは思っていない。
トンネルの向こうに出れば帰れるというほど単純なものだとは思えない。
だが、行った先に何かがあるかもしれない。
何もないかもしれないが、それも行かなければ確かめられない。
どのみち探険は続く事になるだろう。
今回の探険はその為の予行練習のつもりでもあった。
長期間の単独行動ではどんな支障が出るのか、何が必要になるのかを探る目的もある。
物資もそうだし、移動に必要なもの、障害になるものを見いだしておきたい。
この探険にはそんな意味もあった。
トモキにとってはそういう理由もある。
(そのうち話さないとなあ……)
まだ誰にも話してないが、いずれちゃんと伝えねばならない。
色々と準備も必要だし、何人かを連れて行く事にもなる。
自分一人で全てを進めるわけにはいかない。
協力は絶対に必要になる。
どれだけ賛同してくれるか分からないが、何も言わないでいるわけにはいかない。
仮に全面的な賛同を得たとしても、そこから先がある。
協力するにしても何をどうすればよいのかが分からねばどうしようもない。
それを知る為にも、今回の長期にわたる探険は意味がある。
やる事で何が必要か見えてくるはずである。
必要な物や事を今回を含めた探険で掴んでおきたかった。
もちろん探険によってこの空間に何があるのかを把握するのも目的だ。
いまだによく分かって無い場所が多いので、ある程度は何かを掴んでおきたかった。
先々の事と同様、これも大事な仕事である。
草をかき分けながら進み、そこに何があるのかを目におさめていく。
どこに何があるのかも分からなければ活動や行動の策定も難しくなる。
知っていても特に何にもならないかもしれないが、知らなければそれこそ何も出来ない。
情報はささいなものでも良いから多くあった方が良い。
まだまだ分からない事だらけなのだから。




